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【Bar S】episode4 出禁第1号誕生



「この店は長くは続かないな!」

オープンして2ヶ月たった頃、入ってきた60歳くらいのオッサンの第一声。

入店して席につく前にいきなり言われたので、腹が立つより、なんだこのオッサンは と驚いた。

ウイスキーの水割りを注文され、作っている間にも

「俺は店の外観、店内の雰囲気なんかで 入って直ぐに繁盛する店かどうかわかるんだ」

平日の午後4時。店内には私とそのオッサンだけ。

「そーなんですね」と軽く流しておいた。

話しかけるとめんどくさそうなので、そのまま放置していると オッサンは勝手にペラペラと喋り続けた。

適当に相槌だけうって聞き流していた。

グラスが空き、2杯目を作り始めると、

「あんたはこの辺の事まだよく知らないと思うがな、実はな、俺はこの辺で4軒店持ってるんだよ」

その言葉でカチンときた。同業者のクセに酒の呑み方や、マナーも知らねえのかこのオッサンは。

それでも我慢して、作り終えた水割りをオッサンの前に差し出す。

その水割りを啜りながら話しを続けるオッサン。

「なんなら俺がいちから教えてやってもいいぞ!ガハハッ」

次の瞬間、考える前に言葉を発していた。低くおさえた声で。

「申し訳ありませんが、お代はけっこうですので今すぐお帰りいただけますか」

びっくりするオッサン。

「あんたは客をそんな扱いするのかっ。やっぱりこの店はすぐつぶれるな」

「あなたのような無礼な方はお客様とは呼べません。そちらこそ、よく今までお店の経営やってこれましたね!」

言ってやった。

オッサンは顔を真っ赤にして千円札をカウンターに叩きつけ、

「二度とくるかっ」と捨て台詞を残して店を出て行った。

こちらも「二度と来ないでくださいね」

と伝え、めでたく出入り禁止 第1号が誕生したのでありました。



その半年後くらいに、別の店でウチの常連さんと呑んでいると、そのオッサンが夫婦で現れた。

常連の方にそのときあった話をして、「あの人がウチの店の出禁第1号です」と伝えると、笑いながら

「ああ あの夫婦は近所の割りと有名な店のオーナーだよ。任されてる店長さん達もよく思ってないらしいよ。それにいろんな店で威張り散らすから お店のマスターや客からも嫌われてるんだよ。じゃっ店変えよっか」

と言って勘定を済ませた。

帰り際に私は

「こんばんは。お先に失礼しますね。ごゆっくりどうぞ」

と、そのオッサンに言って店を出たのであった。

オッサンは覚えてないらしく、キョトンとしながら

「ああ お疲れさん」

と返してきた。




ーepisode 4 おわりー







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