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理想の結婚

「好きなこと(物)が一緒の人と恋をして」

「嫌いなこと(物)が一緒の人と暮らす」

就職したばかりの頃、ランチで入店した小洒落たカフェで結婚5年目の先輩からいただいたアドバイスを思い出した。

それから10年が経ち、私はあの時の先輩と同じ歳になった。
その時は、結婚てそんなものか、と半分聞き流していたのだが、今はその言葉を痛感している。

夫とは6年前に出会い、4年前に結婚した。
ふたりともスノボとシュノーケリングが趣味で、結婚前はよく一緒に出掛けていた。
身長が高く見た目も爽やかで、隣にいる私も自慢の彼だった。
彼は牡蠣やホヤやレバーが好きで私も好物だったから、よく海鮮料理のお店や焼肉屋に行った。
前向きな人を見ると応援したくなるし、映画で泣けるタイミングも同じ。
浮かれていた私は、この人以上に気の合う人はいないだろうと信じていたから、彼からのプロポーズに何の疑いもなくオーケーした。
男の子が生まれたらきっと彼に似たイケメンになるんだろうな、なんて想像までしていた。

しかし結婚とは、共に生活するという事とは、まったく別物であった。
今では2歳の息子がいる。
出産して半年後には職場復帰した私は毎日めまぐるしい日々を送っている。
休みの日ぐらい子供の世話をして欲しいのに、夫は呑気に早朝から友達とスノボに出掛けた。
夫はトマトや生野菜が嫌いだから、あまり食卓にはサラダやトマトソースの類いは出さない。
息子も食べなくなるのでは、と心配になる。
夕食の席で咀嚼しながら会社の同僚の悪口を言う。
パスタを箸で啜りながら食べる。
トイレットペーパーを使いきっても替えない。
自分の考え方が絶対だと思っていて、それを私に押しつける。
息子が夫に似てしまったらどうしよう。
いや、それ以前に既に夫のことが嫌いになってしまっているのかもしれない。

息が詰まるような生活を送っていた私は、遂に溜まっていたものが爆発しそうになって半ば強引に夫に息子を預け、昔よく通っていたバーへひとりで飲みに出た。
久々のカクテルでアルコールがまわり、気付けば隣の席に座るスーツ姿の男性に愚痴をこぼしていた。
時折、トマトとモッツァレラのカプレーゼをフォークで突き刺して口に運んだ。
男性は私の話に丁寧に相づちを打ち、共感してくれているようだった。
心地よくなった私は、そのスーツ姿の男性の手を握り話し続けていた。
どうしてこのような優しい人と結婚しなかったんだろう、と悔やみながら話し続けていた。

次に意識を取り戻した時には知らないベッドの上にいた。
ベッドの脇のテーブルにはハイボールの缶が2つ並んでいた。
その横にあるスマホに手を伸ばすと、向こうの鏡に裸の乳房が写し出され、何ヵ所か暗い紫色に変色しているのが見えた。
テーブルの上には破かれた避妊具の袋があり、下のゴミ箱にはたくさんのティッシュペーパーが丸めて捨てられていた。
スマホの画面を開くと夫からの着信履歴が並んでいて、そして今、また新たな着信音が鳴り始めた。








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