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不当に安い金額を提示されたら?

とあるマッチングサイトに登録してみた。出会い系ではない、業務のマッチングサイトである。いわゆる「お仕事マッチングサイト」というやつ。

募集条件を見て「応募するプロがいるのか?」と思った。書き手を募集するサイトだが、募集をかけているのは出版社や制作会社ではなく、WEB媒体の運営会社とか業界とは無縁の一般企業が多い印象だ。

発注する側も、おそらく「業界の相場」を知らないのかもしれない。いや、そうであってほしいと願う。

たとえば「猫に関する記事を書いてください」という案件があった。
文字単価1.1円、1本1,500字とある。
つまり1,500字の記事を書いて、たったの1,650円。プロに発注する金額ではない。

記事を書くためには、まずリサーチが必要だ。求められる文字数が多いほど、必要な情報が多くなる。

厄介なことに、この案件には「猫に関して」という漠然としたテーマが示されているだけで、「猫の○○に関して」という、クライアントが本当に欲している条件が明らかにされていない。というより、クライアントにも分かっていないのでは? そんな印象さえ受ける。

だから書き手は、リサーチのターゲットを絞ることができないため、猫に関して手当たり次第に情報を集めざるを得ない。この作業だけで、早くても半日ていど要するだろう。

そして、集めた情報を1,500字の「記事」にまとめるのに、また半日かかるとして、あえて推敲を無視しても1日かかる仕事である。つまりこの案件の報酬を日給に換算したら、たったの1,650円ということ。

募集要項には、こんな文言が書かれていた。

〔記事を書いて終わりでなく、楽しく記事作成の方法(ライティング技術)を学びながら、お仕事をさせて頂きたく思っています〕

これは「あなたの勉強になるんだから、安くても我慢しろ」という予防線である。
そして「頑張りしだいで100,000円稼げます」とも書いてある。1日かけて1,650円の記事を書いて、何日かかるだろうか。

文字起こしの案件も多い。会議や講演、動画からの文字起こしなど、媒体はいろいろある。
文字入力ソフトが実用の域に達してきたとはいえ、話し手の滑舌が悪かったり座談会形式で音声が錯綜したりすると、機械が話し手を正確に認識して、それぞれの言葉に分類するのは難しい(というより不可能)。
だから今でも、人の耳で聞いて文字化する作業に需要がある。

ところがこれも、やはり報酬が低く設定されている。

一例を挙げてみよう。

インタビュー音声の文字起こし。
録音時間 40分
報酬 2,000円
納期 24時間以内
そして「抜け漏れが多い場合は差し戻しさせていただきます」とある。

発注の担当者は、自分で文字起こしをやったことがないのだろう。文字起こしが神経をどれだけ集中させて、しかも時間のかかる作業か分かっていないようだ。

通常、文字起こしにかかる時間は、録音時間の6倍ていど。
40分の録音なら240分=4時間かかる計算だ。もっとも4時間ぶっ通しで集中できるわけがないから、途中で休憩を挟む。食事も摂るだろう。
つまり、朝から始めても、終わるのは夕方頃。

「抜け漏れが多い場合は差し戻す」というのだから、求められるクオリティは高い。最初から聞きなおして、漏れや聞き間違いをチェックして修正するのに2時間はかかるから、1日仕事である。もっとも「納期 24時間以内」と指定されているから、なにがなんでも1日で終わらせて納品しなければいけない。

それを2,000円でやれと?

フリーライターが副業的にやる場合でも、60分あたり10,000~12,000円である。日給だと思えば妥当な金額だろう。

以上ふたつの案件に応募してみた。
メッセージ欄があったから、あえて「適正価格」を提示して反応を見るためだ。

案の定、丁重にお断りされた。
僭越ながら、誰かが教えてあげることも必要ではないか。プロに仕事を頼みたいのだったら、相応の報酬を用意しなければならないということを。

それでもただひとつ「進歩」したと思えることがある。
ひと昔前は、応募の条件に「東京もしくは首都圏在住」という文言が入っていることが珍しくなかった。クライアントの多くが首都圏にあって、打ち合わせや連絡などですぐに行き来できることを求めていたからだ。

そんな時代のことを思えば、今はお互いネット環境さえあれば、リモートでどこからでも顔を見ながら話ができるようになった。地方在住者には少しはチャンスが広がったといえるのかもしれない。

だからこそ、適性な値段で発注することが求められるし、不当に安い金額を提示されたら毅然とした態度で闘うことも必要なのだ。同業者に迷惑をかけないためにも。

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