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レベッカ・ソルニット『オーウェルの薔薇』

レベッカ・ソルニット『オーウェルの薔薇
Rebecca Solnit “Orwell’s Roses” (2021)
川端康雄 /ハーン小路恭子 訳



1ヶ月以上かけて、ようやく読了した。
日によっては数ページだけ、あるいは数行だけ。
合間に別の本を読んだりもして立ち止まることも。
それでも年初以来、頭の片隅にはずっとこの本があった。


作家ジョージ・オーウェルが植えた薔薇が、今もまだ残っているかもしれない。
それを見てみたいという好奇心から、著者ソルニットの旅が始まる。


まるで気の向くまま散策しているように、考察はあらゆる対象に向き、思索は自由に膨らんでいく。
人間よりもずっと長大な樹木の時間軸、炭鉱から見えてくる児童労働と大気汚染、薔薇が歴史的に象徴してきたものとスペイン内戦、独裁国家の欺瞞性、階級制度や植民地主義への後ろめたさ、コロンビアの薔薇工場で目撃する美の裏側にある醜さ、そして改めて読み解く『一九八四年』。


読み手のこちらも、次はどこへ連れて行ってもらえるのか若干戸惑いつつも、綿密な調査にも裏打ちされた細やかな筆の運びで、深く愉しい読書体験ができた。


レベッカ・ソルニットの名は何度も見かけて評判も耳にしていたが、ちゃんと読んだのは今回が初めてだった。
自らの特権性みたいなものにも自覚的で、環境問題についても真剣、さらには弱い者の側に立つ態度がいい。


本文で言及されている通り、厳密にはオーウェルの伝記ではないが、書簡や日記からの引用も多数あり、『動物農場』『一九八四年』だけから受ける印象が間違いではないが一面的でもあることを示唆してくれる。
相当に読み込んでいないと的確に引き合いには出せないはずだし、何より人間として惚れ込んでいないとそこまでの労力も時間も割けないだろう。


翻訳も含めて本の作りそのものも丁寧だと感じたし、私の中でもオーウェルの重要性にいよいよ気づけた一冊になったと思う。

この素晴らしい本を読むことができて、本当に良かった。
紹介してくれたラジオ番組「BOOK READING CLUB」に感謝している。



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