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映画三本「コール・ジェーン」「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」「パストライブス/再会」

4月×日
新宿ピカデリーで「コール・ジェーン」(フィリス・ナジー監督)

まだ中絶が違法だった時代のアメリカ(とはいっても現在また違法になっている州もあるわけだが)で、非合法だが安全な中絶手術を提供する組織「ジェーン」とかかわりを持っていく女性が主人公。
冒頭のシーン。
パーティーか何かをやっている建物の中を主人公が歩いていて、その建物の中はとても静かなのだが、扉を開けると、わっと外の喧騒(デモを行う人々があげる声)が響いて来る。主人公は警備員に「あれは何に反対しているの?」と無邪気に訊く。
彼女が静かな建物の中の側、裕福で保守的な層にいる人間だということが示される導入部が印象的。

そんな主人公が、心臓の病気で出産すると命を落とす可能性があると言われたにもかかわらず、病院で中絶を認められず、悩んだ末に「ジェーン」にたどり着く。
「ジェーン」を利用する女性たちの中でもかなり裕福で保守的な方であるらしい主人公が、次第にその一員として活動していくようになる変化を見せて行くあたり、なかなか引き込まれるものがあった。
ただ、これは事実を基にした映画だから仕方がないのかもしれないが、後半今ひとつ山場がないままメデタシメデタシみたいになったのは少し不満も。

あと、作品のテーマとかとは別の部分で、60年代後半のアメリカを描いた映画(ファッションとか音楽とか)としても楽しめた。

4月×日
新宿バルト9で「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション前章」(黒川智之監督)

原作は未読。
アニメにはまったく詳しくないし、良し悪しもよく分からないのだが、これはSFとしてかなり面白かった。
女子高生たちの日常風景と宇宙人の侵略(?)が同居している様が面白い。
自分たちの未来を決定づけるような何か大きなことが起こっていることはひしひしと感じているけれど、自分たちにはそれをどうすることもできないので、とりあえずいつもの様な日常を送っている、という空気がとても良かった。
ただ後半の回想シーン(普通の回想ではないけれども)はちょっと長く感じたな。
大きな力を手に入れて、その力で正義を為そうとするけれども思うようにいかない、みたいな話はあまりにもよく見た話で・・・。
ただそれも後章にどうつながるかによって見方が変わってくるかもしれない。
なので後章を見てみないと何とも言えないけれども、とりあえず後章も見てみたいと思わせてくれたので、これは上出来、だと思う。

4月×日
TOHOシネマズ新宿で「パスト ライブス/再会」(セリーヌ・ソン監督)

非常にセンスが良い映画、という印象。

パリとかニューヨークとか、行ったことはなくても映画ではよく見る街・・・ある程度イメージが固まっている街・・・をどういう風に撮るか、というのはかなりセンスが問われるところだが、この監督のニューヨークの撮り方は良い。
映画で見慣れたニューヨークが初めて見るような魅力的な街に見えた。

ストーリーの方も、ラブストーリーで良くある「仕掛け」みたいなものを排除して、それでも
非常に切なさを感じさせるあたり、センスが良い。

というわけで悪くないのだが、見る前にあまりにも良い前評判/絶賛の声をたくさん目にしてしまったから、というのもあるのだが、
正直「そこまで良いかね」
という気も。
作品の評価は作品そのものに向き合うものであって、周りの声に影響されるものではない、というのは正論だけれども、実際にはなかなかそうも行かない。

もしも何も知らずにふらっと映画館に入って適当に選んでこの映画を観たのだったら、ぼくも感動して絶賛していたかもしれない。
難しいものである。

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