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フランク・キャプラ的な正統派アメリカ映画の快作「ダム・マネー ウォール街を狙え!」

全然お客さんが入ってない、という話を聞いたので、最初に一言。
面白かった!
おススメです。

× × × × × ×

2月×日
キノシネマ新宿で「ダム・マネー ウォール街を狙え!」(クレイグ・ギレスピー監督)

実話を基にしたストーリーらしいが、
「個人投資家がヘッジファンドを打ち負かした株式相場」
なんて言われてもチンプンカンプン。
さて、どんなもんかな、と思いつつ見に行ったのだが、いやこれが面白かった。

ネットでの株の売買、という、どう考えても映画的でない「絵」にならない題材で、しかも実話というしばりもある中で、よくこんなに面白く出来たな、と感心した。
基本的には、傲慢な富裕層を庶民の労働者たちがぎゃふんと言わせる、みたいな話で、
これは定番的にスカッとする話だし、ある意味アメリカ映画の本流、という感じがする。
たとえばフランク・キャプラみたいな。

いきなりフランク・キャプラなんて名前を持ち出すのはちょっと強引か・・・。
ただ。この映画を観てなんとなく「スミス都へ行く」あたりのフランク・キャプラを思い出したのだった。

ハリウッドの全盛期、1930年代に活躍した映画監督フランク・キャプラについて、Wikipediaにはこう書かれている。

1930年代はまだ大恐慌の傷跡が大きく、暗い世相の最中、楽天主義、アメリカン・ドリーム、ユーモア、ヒューマニズムをふんだんに取り入れたキャプラの作品はキャプラスクと呼ばれ、名実ともにフランク・キャプラは1930年代のアメリカ映画を代表する映画監督となった。

「ダム・マネー ウォール街を狙え!」はフランク・キャプラの頃からは90年くらい経っているので、同じようなものであるわけはないし、全体的な雰囲気はもっと暗く閉塞感があるのだが、それでも楽天主義、アメリカン・ドリーム、ユーモア、ヒューマニズムといったあたりは感じられるように思う。
そして、この映画は2020年から2021年にかけての話・・・コロナ禍真っ只中ということで「暗い世相」でもあるわけだ。

そういえば、コロナ禍のアメリカ、というのを映画の中でちゃんと見たのは初めてな気がする。
日本映画だと「ちょっと思い出しただけ」(2022)で、普通にマスクをしている日常が描かれていて印象的だったが、日本よりもはるかに被害が大きかったアメリカでは、身近な人がコロナで亡くなっていたりして、日本よりもっと「暗い世相」という感じが大きいのがわかる。
看護師たちや店員たちは皆マスクをしている。
そして富裕層の男たちはマスクをしない(ただ使用人たちには必ずマスクをさせている)。

この富裕層に対抗する庶民たち・・・配送業者、看護師、学生、ゲーム店の店員、などの描き方が上手い。
この人達がきちんと描かれていることによって、「ネットでの株の売買」という捉えどころのないものが身近に感じられてくる。

× × × × × × 

本当は株の世界というものはもっと、色々とややこしいものなのだろう、という気はする。
でも、フランク・キャプラの「スミス都に行く」にしたって、
「いくら何でも現実にはこんな上手くいかないだろう」
と思いつつも感動してしまうわけだし、こういう映画はこれで良いんじゃないかな。

× × × × × ×

監督のクレイグ・ギレスピーという人、聞き覚えがない名前だと思ったのだが、フィルモグラフィを見てみると1つだけ見たことがある作品があった。
「ザ・ブリザード」(2016)
これは面白かった記憶がある。
1952年に実際に起きた海難事故を映画化した作品で主演はクリス・パイン。
そして公開当時はあまり評判が良くなかった記憶もある。
1950年代の雰囲気もよく出ていて面白い映画だったと思うのだが・・・。
他にも、
「ラースと、その彼女」
「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」
など、ちょっと気にはなっていたけど見逃した作品もあった。

ともかく、この監督の名前は憶えておこうと思う。

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