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有無を言わせない「リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング」

3月×日
角川シネマ有楽町で「リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング」(リサ・コルテス監督)

むかしむかし、ぼくが洋楽を聞き始めた頃のこと。
それはパンクロックの波がひと段落して「ニューウェーブ」と言われるジャンルに変化/発展していった時期だったのだけれど、
そういう音楽を聴きつつ、少しさかのぼってビートルズ(解散してからもう10年ほど経っていた)とかローリングストーンズとかも聴き、
さらにその辺りのバンドに影響を与えた1950年代のロックンロールのオリジネーターたち、
エルビス・プレスリー
エディ・コクラン
そして、
チャック・ベリー
ボ・ディドリー
リトル・リチャード
などにも手を伸ばした。
(そこからさらに溯るとブルースやゴスペルに行きつくのだが、そこらへんはかなり深い沼なのでちょっと触れた程度)

これは音楽に限った話ではないのだが、少し前の時代のものに触れる時に気をつけなければいけないのは、その時代に先進的だったものが今では当たり前のものになってしまっていることがある、ということ。
だから今から見ると「なんか当たり前だな」と思ってしまって、当時どれだけスゴイことだったのかが分かりづらい。
たとえば「パンクロック」ってなんだかスゴイ過激らしいぞ、みたいな印象を持っていざ聴いてみると「なんか普通のロックだな・・・」と思ってしまったりするのだが、それ以前のバンドや同時代のバンドを聴いて全体的な流れを掴んではじめてそのスゴさがわかる、ということがある。

1950年代のロックのオリジネーターたちについてもそうで、音楽性だけでなく機材の問題とかもあってどうしても昔の曲は音が薄く感じてしまう。
ビートルズがカバーしているチャック・ベリーのオリジナルを聴いた時も、最初は「ビートルズと比べるとなんかショボいな」なんて思ってしまったりもした。

しかしそんな中でもリトル・リチャードは最初からそういう「ショボさ」を感じさせない存在だった。
なにかとんでもないエネルギーを感じた。
ただそれは「アーチスト」とか「ロックンローラー」とか言うよりは「怪人」みたいな印象だったのだが・・・。

チャック・ベリーの60歳バースデイコンサートの模様を中心としたライブ・ドキュメンタリー映画「ヘイルヘイルロックンロール」を観た時に、チャック・ベリーとボ・ディドリーとリトル・リチャードが3人で昔の思い出を語るパートがあって(その一部はこの「アイ・アム・エブリシング」にも使われている)、その中でもリトル・リチャードはハイテンションで急に叫びだしたりして、「ああこの人は普段から/そして今でも、こんな感じなんだなあ」と思ったものだった(そしてリトル・リチャードが叫ぶたびに「まあまあ」みたいな感じで落ち着かせる温厚なボ・ディドリーも印象的だった)。

さてこの「リトル・リチャード アイ・アム・エブリシング」はそのリトル・リチャードについてのドキュメンタリー。
中心となるのはゲイであることと信仰との間で揺れ動いたこと。
そして人種差別が今よりずっと激しかった当時、自分の曲をカバーした白人ミュージシャンの曲ばかりが大ヒットして自分が正当に評価されない、ということ。

そういう意味では、LGBTQとか「文化盗用」なんて言葉が一般的になって来た今だからこそ興味深く見ることが出来るのかもしれない。

ただ、この映画の一番の魅力はそんな「問題」なんか全部ぶっ飛ばすようなリトル・リチャードのエネルギーにある、と思う。
もう有無を言わせない、という感じ。

その点では、もうちょっと楽曲をフルで聴かせてほしかったな、というのはあるかな。

× × × × × ×

あと、この映画を観る前からわかっていたつもりだったが、リトル・リチャードがその後の音楽界に多大な影響を与えたということを再認識させられた。

ビートルズのポール・マッカートニーの歌い方(特に高音のシャウト)はリトル・リチャードに大きく影響を受けているのは有名だし、プリンスなんかあらためて見ると完全にリトル・リチャード直系という感じ。
デビッド・ボウイとリトル・リチャードはちょっと結びつかなかったけど、きらびやかな衣装やジェンダーレス的な部分は確かにグラム・ロックの源流と言えるだろう。

× × × × × ×

この映画でリトル・リチャードについてコメントしている人の中では、映画監督のジョン・ウォーターズがちょっと意外だった。
「悪趣味映画」の監督として名高いこの人がリトル・リチャード?
と思ったのだが、そういえば「ヘアスプレー」を撮った人だったな、ということで納得。
しかしジョン・ウォーターズ監督のトレードマークである口ひげがリトル・リチャードから来ているとは知らなかったなー。

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