内海郁/うみうし

こんにちは。創作小説やTRPGシナリオを書いています。

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マガジン

  • ペンドラゴンの騎士

    20世紀初頭英国。この国では国家治安や文明の発展に尽力する公的組織『ペンドラゴン十三騎士団』が存在していた。 これは、彼等の活躍や苦悩、そして水面下の激情を描く物語。 ・・・・・・・・・・ 本作は、ファンタジー作品群【魔書シリーズ】の中の一作となります。 単体でも楽しめますが、他作品を読むことによって、より広い魔書の世界を楽しむことが出来ます。

  • 花と散る

    魔性の女 それは、無意識に人の人生を狂わせ堕としていく運命の女。ファムファタル。 そんな魔性をもつ女たちに焦点を当てた短編集。

  • チャイナブルーの狂騒

  • 月夜のノクターン

    内海郁のオリジナルファンタジー小説『月夜のノクターン』です。

  • カルペ・デュエム・トラジコメディア【魔書シリーズ】

    アメリカ合衆国東部。黄金時代の掃き溜め(ゲヘナ)と呼ばれる街・エカム。 その片隅に或る潜り酒場〈トラジコメディア〉にて繰り広げられる、短い悲喜劇の物語。 ・・・・・・・・・・・ 本作は、ファンタジー作品群【魔書シリーズ】の中の一作となります。 単体でも楽しめますが、他作品を読むことによって、より広い魔書の世界を楽しむことが出来ます。

最近の記事

第二話/無花果の葉は枯れた②【呪いの箱庭】

〈3/稲穂色の君〉 「坊ちゃん、坊ちゃん!」  ドスドスとけたたましい足音が、グザヴィエの自室に入ってくる。彼が思春期真っ盛りの青少年であることなどもお構いなしに。 「朝ですよ、今日こそ学校へ行きましょう。さあさあ支度なさって!」  開かれるカーテンから差し込む日差しと、小太りなメイドの声で目を覚ました。彼女の名をマリアム。グザヴィエがまだ赤子だった時からレイ家に使える、たった1人の使用人。  配慮という言葉の頭文字も知らぬ彼女は、ノックせず思春期の青年の寝室へと入

    • 第二話/無花果の葉は枯れた①【呪いの箱庭】

      〈1/レイ家の呪い〉 「レイ家の血を引く物は皆、〈獣の呪い〉をその身に宿す」  父から告げられた真実に、グザヴィエはぎこちなく微笑む。幼き彼は父の口から語られる真実を、もう既に知っていた。  ああ、知ってるよ。  そう言い放つには、リビングの空気は張り詰め過ぎていた。父と母は申し訳なさそうに俯き、メイドは眉1つ動かさず、来る食事の時間へ向けて支度を整えていた。  両者の間に存在する決定的な感情の溝が、あまりにも居心地悪い。  何が深いかって、今日はグザヴィエの誕生

      • 第一話/白鳥のワルツ⑤【呪いの箱庭】

        〈7/一時の風〉 「えぇと、だからして。〈獣〉の血を引き継ぐ者には、魔術師でありながら〈獣〉と特製を引き継ぐ者が現れる。これは極めて稀な事例であるが……」 教授の言葉を遮るように、終礼が鳴った。生徒たちはそそくさと教材を片付け、各々席を立っていく。ルノーもまた、その一人だった。  足下に差し出された爪先を軽々と飛び越え、教室を出る。心地よい初秋の風を凪ぎながら、彼の言う集合場所を目指した。  カフェテリアの古いシャンデリアの下。そこに白銀色の髪の青年が待ち構えていた。

        • 第一話/白鳥のワルツ④【呪いの箱庭】

          〈6/それは、ワルツのように〉  偶然にも今日の授業は自習学習となった。どうやら教授が退っ引きならない理由で、講義を欠席する事態に陥ったらしい。応急処置として出された課題は簡単なテストであり、提出さえすれば出席扱いになるというもの。喜んだ学生達はさっさと課題を片付け、教室を出て行ってしまった。  そんな中、熱心に机へ向かう生徒が二人。ルノーとユーゴだった。勿論、彼らはとっくに課題を済ませており、現在は別科目の勉強に注力している。 「畜生ー! 暗記内容が多すぎるだろ。こん

        第二話/無花果の葉は枯れた②【呪いの箱庭】

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        • ペンドラゴンの騎士
          20本
        • 花と散る
          4本
        • チャイナブルーの狂騒
          4本
        • 月夜のノクターン
          2本
        • カルペ・デュエム・トラジコメディア【魔書シリーズ】
          4本
        • Beast Of The Opera
          18本

        メンバー特典記事

        記事

          第一話/白鳥のワルツ③【呪いの箱庭】

          〈5/邂逅〉  昔々、フランスを救ったとある異端の騎士がいた。  百年戦争の時代、フランスは未曾有の危機に見舞われていた。強敵、イングランドによる襲撃を受けていたのだ。フランスの民は飢えと暴力に怯え苦しみ、城は陥落していく村々に戦慄した。  ああ、滅びは目前だ。誰もが思ったその時。彼等は姿を現した。  天啓を授かりし戦乙女と、その守護騎士だ。彼らは一騎当千の武勇をもって戦場を駆け抜け、囚われた街を次々と開放した。彼等の雄志は瞬く間にフランス中に広がり、形勢は逆転。フラ

          第一話/白鳥のワルツ③【呪いの箱庭】

          第一話/白鳥のワルツ②【呪いの箱庭】

          〈4/白鳥の少年〉 「皆さんご存じの通り、獣の病の罹患者の体は加工を施すことによって魔書になります。生産された魔書の特製は、素体の性質、作り手となった装幀師の実力、及び使用した魔術式など様々な要因が絡み合って決まります。過去に一つの素体を分け合い二人の装蹄師がそれぞれの魔書を生産した結果、全く異なる性質の魔書が生まれたこともあり……」  教授は淡々と授業を進め、まるで活版印刷かのように整った字で板書を進めていく。ルノーは黒板とノートを交互に見ながら紙の上に鉛筆を走らせ、こ

          第一話/白鳥のワルツ②【呪いの箱庭】

          第一話/白鳥のワルツ①【呪いの箱庭】

          〈2/芽吹き〉  生まれて初めて袖を通す、真っ新のシャツ。固いボタン。流行り柄のタイ。そして、ほんの少し草臥れたジャケット。一つ一つ身に纏う度に、ルノーの胸の鼓動は高まっていく。  嗅ぎ慣れない整髪料の香りに戸惑いながら、胸元に一つ、紋章を留める。  真新しい、百合と本を模した小さな紋章。誇らしげに輝くそれに、思わず頬が熱くなる。  ああ、ついに。今日ついに。  夢見た日々が、始まるのだ。  感慨に浸る間もなく、下の階から母がルノーを呼ぶ。 「ルノー。下りてきなさ

          第一話/白鳥のワルツ①【呪いの箱庭】

          第四話/獅子の心臓⑥【ペンドラゴンの騎士】

          六章/暁  一九二〇年、九月。穏やかな潮風の吹くその日、テンビー=ペンドラゴン城の前にはロンドン行きの馬車が停まっていた。  その乗客であるリュザールは、未だ自室の中。伸びた髪に、しっかりと香油を馴染ませている。あの日から伸ばしていた髪は腰まで届き、分隊の誰よりも艶やかな光沢を持つ。ここまで美しくなったのは、洒落もの好きのトレイシーに、毎日のように櫛で整えられていたおかげだろう。  机の上に並べられた整髪道具を丁寧に纏めると、真新しいスーツケースにしまい込んだ。トレーシーか

          第四話/獅子の心臓⑥【ペンドラゴンの騎士】

          第四話/獅子の心臓⑤【ペンドラゴンの騎士】

          五章/洛陽  何もかもが眩しかった。  ロンドンの街も、ペンドラゴン城も、アカデミーも。片田舎の町医者の息子である自分には、見惚れるほど美しかった。  ああ、今日からここで暮らすんだ。ここで、医師を目指すんだ。  高鳴る胸、広がる期待。ダニエル・ギースは、目を輝かせながら、古城の石畳を踏み締めるのだった。  だが、アカデミーに溢れるのは中上流階級の若者ばかりで、実に居心地が悪い。そして田舎育ちということもあり、一部、本当に一部のある意味誠実な者たちから受ける、妙な嫌がらせの

          第四話/獅子の心臓⑤【ペンドラゴンの騎士】

          第四話/獅子の心臓④【ペンドラゴンの騎士】

          四章/獣として生きる道 「はい。傷の手当ては終わり。シャワーは少し沁みると思うけど、数日のうちによくなると思うわ」  医療魔術師のジェニファー(ジェニー)・レッドメインが、包帯の端をリボン形に結びつけ、微笑んだ。 「ああ、あと体の魔力が抜けるまで少し怠いかもね。でも擦り傷共々少し経てば良くなっていくから、しっかり養生すること」  頑張ったわね、とジェニーは優しくリュザールの頭を撫でるのであった。  あの後、直ぐにアサドが駆けつけ、二人は無事に保護された。リュザールは

          第四話/獅子の心臓④【ペンドラゴンの騎士】

          第四話/獅子の心臓③【ペンドラゴンの騎士】

          三章/手を取り、笑い  ウェールズの港町、テンビーは愛らしい小さな港町である。  ロンドンからそう遠くない場所にあるこの町は、中世から貿易拠点として発展した経緯をもつ。また、パステルカラーの町並みもあって、今でも観光都市であり漁村としてその名を広めている。  この町にもペンドラゴン騎士団の分隊、テンビー=ペンドラゴン騎士団が存在していた。穏やかな町の雰囲気に違わず、比較的温厚な騎士が多く、水産業を中心としていることから、護衛や金銭管理を得意とする者もいた。彼らは巡回を兼

          第四話/獅子の心臓③【ペンドラゴンの騎士】

          第四話/獅子の心臓②【ペンドラゴンの騎士】

          二章/暁のたてがみ  その夜、ウェールズのとある森に一人の青年が迷い込んだ。月明かりが雲に遮られた状態で、小さな洋灯を頼りに不気味な森の中を彷徨う彼は、先ほどから同じ道をフラフラと回り続けている。  時折肩口まで伸びた赤金色の髪をさらりと揺らし、首を傾げる。ランプの光に反射する装飾、オリエンタルの顔立ち。木々の間から見える彼の姿は、一見すれば異邦の妖精のようにも見えるだろう。だが、赤い制服と腕に掲げられた竜の紋章は、彼の正体を明らかにしていた。  彼の名はアサド。雄々し

          第四話/獅子の心臓②【ペンドラゴンの騎士】

          第四話/獅子の心臓①【ペンドラゴンの騎士】

          一章/太陽のひと  自由、という言葉を聞いた。  解放、という言葉を聞いた。  冒険、という言葉を聞いた。  意味はわからない。ただ、脳裏に残るその発音だけが、記憶の中に宝物のようにしまわれていた。  大切に、大切に。決して忘れぬように。  その言葉を、当時の私は心の中に後生大事に縫いとめていたのだった。  だが、ただ一つだけわかってい他ことがある。それは、『自分自身には、存在し得ない言葉』だということ。  自由も、解放も、冒険も。何一つ持ちえていない。だから

          第四話/獅子の心臓①【ペンドラゴンの騎士】

          第三話/修繕師グレシャムの復讐⑤【ペンドラゴンの騎士】

          五章/貴方を信じる、だからこそ  その日、イーストエンドに風変わりな来訪者が訪れた。足首まである長いコートと落ち着来ながらも凝った意匠の杖。下町ではどうしても浮いてしまう、古き良き気品を感じさせる出で立ちだ。  普通なら悪漢達が彼を強盗の標的にしようと目論むだろうが、彼の胸に輝くバッジはそれを阻止していた。赤い竜の紋章、即ち、ペンドラゴン十三騎士団である証だ。  すらりと歩みを進める彼は、通りすがりの肉屋の女将に話しかける。 「ご婦人、少々道をお伺いしてもよろしいでし

          第三話/修繕師グレシャムの復讐⑤【ペンドラゴンの騎士】

          第三話/修繕師グレシャムの復讐④【ペンドラゴンの騎士】

           四章/騎士の誇りを 「本当に、本当に好きにやらせてもらいますからっ!」 「……どうぞ?」  グレシャム工房に来てからしばらく経過した頃、突如パメラは家中の物置をひっくり返すと宣言した。ヘイデンは訳も分からず、言われるがままに手伝いをさせられている。 「ヘイデンさん、これと……それとコレ。使いますか?」  パメラは出自のよく分からない花瓶と、東欧風の皿を指さし尋ねる。 「いいや。数年見たことがなかったな。処分してもいいかも」 「じゃあ、売りに出して仕舞いますね。

          第三話/修繕師グレシャムの復讐④【ペンドラゴンの騎士】

          第三話/修繕師グレシャムの復讐③【ペンドラゴンの騎士】

          三章/復讐者グレシャム  実際に実務訓練が始まったのは、その翌日、パメラが工房にやってきて三日目のことだった。その日、日が昇ると同時に二人は工房に向かい作業を始める。  工房には昨日と同じようにばらされた魔書に加え、同じように分解された牛革の書物が用意されている。その傍らに『事業計画』と書かれた書類が積んであった。その一つに『グレシャム技法を説明できるようにする』と綴られている。 「さあ、まずは私相手に具法の説明練習してみましょう。アガサさん、心の準備はいいですか」

          第三話/修繕師グレシャムの復讐③【ペンドラゴンの騎士】