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悠久の火山が見せる三座三様の景色

日本有数の観光地である栃木県の那須高原には、那須岳(なすだけ)という地域の象徴とも言える山が存在している。

那須岳は主に茶臼岳(ちゃうすだけ/1,915m )、朝日岳(あさひだけ/1,896m)、三本槍岳(さんぼんやりだけ/1,916m)から成る巨大な火山群の総称である。特に主峰の茶臼岳は山頂直下までロープウェイが通っており、初心者でも気軽に山頂を踏める人気の山だ。

しかし那須岳の魅力は茶臼岳のみならず、火山と長い年月が作った三者三様ならぬ“三座”三様の景色にある。
茶臼岳に登ったという同僚達の話から懐かしい気持ちを抱き、約十年ぶりに登ることにした。

まだ紅葉には早い9月中旬。ロープウェイの行列には目もくれず「那須岳登山口」から登山道を進んだ。

40分ほどで茶臼岳と朝日岳の分岐点「峰の茶屋」に出る。そこから朝日岳と三本槍岳の方面へと向かうのだが、まずは朝日岳の岩山らしい頑強さを味わうことになる。

朝日岳は約10万年前まで活動していた火山で、今の姿は風化した火口壁の名残とされている。巨岩のオブジェが並び、殺伐とした雰囲気が漂う。
登山でも三座の中で最も緊張感を強いられる。片側が崖のように切れ落ちた細道を鎖を頼りに進んだり、岩が風化してできた砂利で滑らないように降る箇所もある。

朝日岳の景観

朝日岳を抜けて尾根道を先に進むと風景は一変し、生命力あふれる景色が広がる。木道を通した湿地帯を抜け、背丈ほどもある熊笹が生い茂る登山道を進むと、緑に覆われた那須岳最高峰の三本槍岳に達する。

朝日岳よりもさらに古い約30万年前に活動していた火山だが、場所と時期が違うだけでこれほどになだらかで、青々とした優しい姿へと変わるものなのかと思わされる。

緑に覆われた三本槍岳

ちなみにこの勇猛な山名は、かつてこの地域を治めていた3つの藩が境界を示すための槍を山頂に突き立てたことに由来するという。

三本槍岳からは来た道を引き返し、いよいよ主峰の茶臼岳へと登る。

火山ドームが美しい茶臼岳

茶臼岳は現在も活動を続ける活火山である。三本槍岳や朝日岳と異なる景色が広がる。

生命の繁栄を許そうとしない硫黄の臭いや所々で昇る噴煙。そして風化のない肌艶の良い岩肌を見ると、まさに現在進行形で活きている火山だと実感できる。

疲労がたまった登山者に鞭を打つような天然の石段を登ると山頂に到達する。
山頂からは広大な那須の地を眺められるのだが、分厚い雲のカーテンで見ることは叶わなかった。

だが地に足を付けて、この雄大な火山を端から端まで巡り切った充実感の前では些細なことである。

那須火山群の活動の始まりは、これら三座よりもさらに古い約60万年前とされている。那須岳は今も活きている火山であり、この瞬間の景色も悠久の歴史の一瞬に過ぎない。

果たして60万年後はどのような姿をしているだろうか。この目で見ることのない景色に想像を巡らせる楽しさもまた、活火山にはあるのだ。

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