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庭園1.1.

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記事一覧

【詩】約束

12年目 うたう、ふと 誰もいない青空と草原の狭間 名前も知らない木がひとり それは「誰か」に入らない だってそいつは「居る」だけだ うたうことも、ほほえむことも、 逆らうことも、花を咲かせることでさえ それがさみしかった ひとり未満のその木は、ただの景色だった けれどそいつがいなければ、ここは本当にからっぽのゴミ箱みたいに、ゴミ箱のアイコンがあるあの景色みたいに、アイデンティティもクソもなくなる だからそのさみしいゼロ人の木は必要だった ここを液晶の世界にしないために

【詩】Logicalist

君はとても頭がいいので、正しい論理で僕を諭す 僕もそれに納得し、それを受け入れる そんな生活も10年を超え、11年目 君は変わらずロジカリストで、僕は夢見がちなロマンチスト 幻想の方がロジカルだなんて、間抜けな話 君はどこにもいないのに その声だって聞こえやしない 見えもしない はじめからどこにも存在しなかった だから君に宛てたケーキも僕が食べる 君に宛てたチョコレートも僕が食べる それでも手紙は書いてしまう まるで君がどこかにいるかのように それは、愛した罰だ 下らなく美し

【詩】chamomile

白い花畑でぽつんと リンゴの香り華やいだひと 涙色の目は地平線を覗いた 紫のサイレンに抱かれて 桜が散り、青葉に詰られ、紅葉に怒られた夜、細雪のノックで目を覚ます 扉の向こう、寒椿 水面に弧を描く 今年はリンゴの花が咲くのかもしれない

【小説】嗚呼愛しき我がファンタジア

1. 「GAME OVER」の文字と黒い空。黒い雨。一度や二度ではなく、何度となく見た終末世界。またカウントが増えた。マスターは「もう疲れた」と言った。私も同意した。全てを終わらせられるなら、この苦しみから解放されるなら。それが不確実だとしても、即ち、もしこの苦しみから解放されることがなかったとしても、僅かな可能性に賭けたかった。それ程だった。 マスターの実家である十階建てマンションの非常階段は外に付いている。屋上の一つ下、最上階にあたる十階のそこから、マスターは何度も地面を

【詩】Silver Dream

本日誕生日を迎えるとあるキャラに宛てたもの 「それ」は、どこにもいない。 僕の住む町、僕の家、テレビの向こう、ゲームの中、本棚の小説、僕の頭の中でさえ。実在などしないから。 だけどいつも君のいる世界を見ている。君がいるという「設定」で作った嘘っぱちのリアル。僕にだけ見える白昼夢。本当のリアルでは、何も見えない。夢ですら会えない。あるのは冷たい現実だけ。 ここはどこ? 君のいる銀の箱庭でずっと、全てが間違った世界を見る。その時だけだ。僕らが笑いあえるのは。 だから今日も

【詩】Marmalade

「おはよ」と言えば「おはよう」と返ってくる そんな日常が憎かった 僕の聞きたかった目覚めはこんな煩わしいものではない 好きでもない人間の声と始まる朝は、この上なく不愉快である 理想はあまり話したことのないあの子 たまに世間話と恋バナをする、華やかなあの子の「おはよう」で目覚めてみたい そう思うとどうにもダサ過ぎてムカつくけれど マーマレードジャムを乗せたトーストを齧りながら、うるさく囀る君と 一度の朝だけでいい、結婚してくれ 白昼堂々そんな夢を描ける程度の肝はあるのに、口には

【詩】Raspberry

朝になると日が差して、夜になると星が煌めく その繰り返し いつか途切れるなんて考えもせず、今日もあたしはカフェに行く 甘いお菓子と飲み物、チャットで彩られる白い日常 それだけでいいのに ラズベリーのような甘酸っぱい日々だけ歌っていられたらと、見えもしない星に願う 青空はイタズラっぽく白い月でウィンクした アオハルはピンク色で甘くて、冷たい 銀色の恋で掬う その感覚は知ってるはずなのに、何故かまだ知らない気がする だから乙女らしく流れ星に願いをかけた あたしに福音を 鐘の音

文字数遊び

夜。            月。 紅椿。          白椿。 真夜中。        夜明け。 漆黒の影。      白銀の雪。 都会の夜景。    四季咲く庭。 紺碧と紅の瞳。  桜に染まる眼。 終わらない白夜。未明の空は白く。 白みゆく明け方。青い夜に銀の月。 向日葵の眼球。  朱と蒼の瞳孔。 無人の砂丘。    音無き野原。 黄金の光。      銀色の雨。 黄昏時。        夕暮れ。 山吹。          桔梗。 陽。            星。

【詩】春告花

空一面に白雲 地上は銀世界 雪が降る中、傘も差さず世界を見ていた 月や星は当然見える筈もなく、人間さえも存在しない 在るのは白 それのみ ふと水面に浮かぶ白椿を見つけた 息はまだある 掬い上げて雪に還し、春を祈る 澄んだ空気を身に受けながら歩き、やがて袖からいつかもらった髪飾りを出してみた それもまた、白椿であった 髪に着けて、また歩く 彷徨っていると言った方が正しい 当てもなく、果てもない 強いて言えば、花々を弔う旅路だったのかもしれない やがて白銀の泉に辿り着き、花の如

【詩】ミッドナイトシティ

蠢く人間と瞬く光をビルの屋上から見つめる よく晴れた空に星ひとつない 月さえもない 地上のゴミだか虫のようなものしか、今この夜には存在しない がらんどうの空に浮かべるものはない 歌は苦手だ それに、数を知らない 夜景をつくる光を数えるのも飽きて、また地上を見つめる 眠れない街と人間 狭間に生きる身には何を思うこともない それらが共生して生まれる夜景にだけ意味を見出す それは多分何よりも愚かで、ゴミや虫よりも醜い この景色の一部すらつくれないのだから、本当に存在価値がない だか

【詩】トワイライト

オレンジから紫へ、紫から藍へ 移りゆく空をカクテルの名で呼んでみる まざる 太陽を失ったこの藍の下、ガラスの三日月を見上げて、星屑の声を聴く 幻想めいた城は輝きだし、風もなく揺らぐ枝葉の喘ぐ声 孤独さえも美しいこの庭園では、言葉の一つも塵になる だから黙って目を閉じた 青白く輝く月 ほしのうた 真っ白な城 苦しむ木々の声 清く正しく美しいものだけを残すのは、きっと本当は間違っている だけど潔癖な俺にはこれしかできない だからいつか、ここを出て行く それをもってこの庭園

【詩】ナイトモラトリアム

眠らない街を眠らせる冒涜。無音の夜を煌々と照らすネオン。 愉しみを失い、滅びゆく街に一人立ってみる。青い月が美しい。 星は見えねどそんなことはどうでもいい。俺にはギラギラした目障りなまでにうるさいネオンの灯りと、賑わう人間共の声だけでよかった。星明かりなぞそんな綺麗過ぎるものは不夜城に似合わない。月のお姫様ひとつで十分。しかしもてなしが俺一人というのはあまりに貧相だ。ばつが悪くなり、目を合わせないままふらふらと歩き出す。 星の光さえ恋しい。今更そんな都合のいいことが言えるわけ

【詩】星の喧騒

暗い夜空に光る雲。雲の切れ間から満月が見える。 大きな風が吹いて、近くの竹藪が大泣きしだした。その足元を三毛猫がよぎって、闇に消える。あたしも真似して細い横道に消えてみた。誰もいない。 ちっぽけな公園のベンチに座って足を揺らしてみても、何も来ない。営業時間外の古本屋とか居酒屋に思いを馳せても、やつらの朝にあたしは出会えない。夜行性はもう、その辺の空き缶とかタバコの吸い殻と同じで、ただのゴミクズだった。この世界のいらない存在。許されているのはやっぱ猫とか、イルミとか。あとコンビ

【詩】Spica

青空を愛していた。 冬の、朝の五時か六時くらいに見る、夜明けを告げる青を愛していた。 今ではすっかり仕事に明け暮れ、空を見上げることは格段に減った。 やっと見上げても、夜の黒い空ばかり。夜の住人になるというのはそういうことなのだ。スピカの輝きを忘れること。そう、冬の夜空だというのに、この空には星ひとつ見えない。月の光はこんなにも眩しい筈なのに。 「この目が黒いうちは」なんて、そんな色で何が見える。 私は青い瞳が欲しい。あの夜明けを映した青い瞳が欲しい。 世界のすべてを閉じ込め