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『ミスター・ガラス』(2019年の映画)

世間はヒーローとヴィランの実在を許さない。
英雄幻想を解体し悪行超人に哀しい理由を与え高知能狂人は閉鎖病棟に閉じ込める。フィラデルフィアの精神病院に閉じ込められ俗化されていく三人の超人たち。
「アンブレイカブル/"ポンチョ男"」「スプリット/"群れ"」「"ミスターガラス"/ミスターガラス」シャマランヒーローユニバースがついに結実し新たな"劇場版"でエンディングを迎える。

みんな揃っとるな。お望月さんだよ。
マツモトキヨシさんが激奨していたこともあり急激にシャマランを吸引して『ミスターガラス』を吸ってきました。 こいつは観るコミックだ。

お望月さん:コラムニスト。今回シャマラン映画に初挑戦したらおもしろかったらしくいきなり感想文を編集部に投げ込んできました。

ネタバレ込みの感想や重厚な考察については、おそばBOYうどん太さんの記事が大変に興味深いです。コミック愛に溢れたスゴイ感想だよ。

発端編

今作はアンブレイカブル事件から15年後が舞台。"監視者"デヴィッドは息子と共にセキュリティ用品の会社を経営している。アンブレイカブル男は近隣で相次ぐ無垢な女子を狙った失踪事件を個人的に捜査する中で"群れ"のヘドウィグと出会いヤサを襲撃。囚われた女子を開放するために"群れ"のビーストと対決することになる。

いきなり多くの観客が望んでいたであろう「多重怪人と怪我ない超人」という英雄バトルが開始される。互いに主演作があり観客の感情移入も十分な「アンブレイカブル」VS「スプリット」なのでそこそこ盛り上がるんですが、例によって中断させられるんですよ。警察やPTAやBPOに。健全な視聴者圧力団体ってやつです。これには愚息もしょんぼり。

研修編

デヴィッドとケヴィン達は弱点(水やプラズマ発光)により捕らえられミスターガラスが待ち受ける精神病院へ。デヴィッドの英雄幻想を解体し、ケヴィンに人格を生み出した哀しい理由を与え、高知能狂人は沈静化させて閉鎖病棟に閉じ込める。いわゆる「研修行為」を実行する忌まわしき施設だ。

研修責任者の女医は三人それぞれに「解体」を試みる。時には三者面談で27人同時に解体をしようとするなど大変にアクティブだ。それぞれ己の超能力を信じられなくなり(オレってちょっとハードなだけでは? 「永遠の9歳児」って悪口じゃね?)などと愚息がションボリしてしまう。

しかし、彼の信念は格が違った。最弱ヴィラン「ミスター・ガラス」が研修施設のセキュリティの穴を突いて行動を開始した。次々とセキュリティを突破して超人の復活を試みる。最強の頭脳と最強の野生と最強のハゲは復活することができるのか!?

非常に丁寧でスピード感のある映像で三者三様にヒーロー性が解体されていく姿は痛々しい。けれども、信念強度が狂人のそれ以上というイライジャの行動はまさに『超人』であり、善悪関係なくスカッとする場面だった。去勢されションボリした愚息を蘇らせる信念の一撃だ。

対決編へ続く

主な登場人物

"監視者"デヴィッド(ブルース・ウィリス)
15年間密かに自警団活動を行っている。市民のヒーローだがニックネームがダサい。緑男。ポンチョ男。散歩姿に歴戦さがあり渋くて超かっこいい。

"群れ"ケヴィン達(ジェイムズ・マカヴォイ)
数週間前にケイシ-を誘拐した多重人格の殺人鬼。男女人種が入り混じる23人格と1獣人格を併せ持ち"聖なる儀式"を繰り返す。ケイシーとは互いに"傷を持つもの"として共感している。

"ミスターガラス"イライジャ(サミュエル・L・ジャクソン)
デヴィッドに捕らえられ15年間も精神病院に入院している。全身の骨折と鎮静剤により身動きが取れずボーンコレクターみたいになってる。

"罹ったかな?と思ったら中二病"(女医)
超人のザ三名様を監禁して中二病俗化実験を行う。非常にフレンドリーで患者にも親身であり関係者の面談を許すなど寛大だが、フィクションであるべきヒーローやヴィランの存在を絶対に認めない。闇のPTA。

結末は、ぜひ劇場でご覧ください。

スペース調整にレビューを置いておきます。

対決編、そして。

<若干のネタバレ要素があります>
ついに怪人対ヒーローの対決の舞台が整います。
クライマックスに向けてストーリーが盛り上がっていくんですが、これが素晴らしいミスリードでどんどん目的地が矮小化されていきます。(新築タワーで戦って全世界中に獣性を証明しようぜ! → 廊下で格闘 → 駐車場)決戦場が穴がボコッてした誰も見ていない駐車場というね。これはもう最高でしょう。

このアンチクライマックスの心地よさよ。観衆もなく少数の親族だけを集めた環境。世界の危機を凝縮した駐車場です。ストレス大解放しつつあくまで抑制のきいた小規模な格闘描写。シャマランユニバースの超人はやはり内面的な「超人」なんですね。ここがたまらない。

狂気めいた信念に基づき「実行」する超人。彼らはまるで我々が愛するロールシャッハではありませんか。がんばれ、三人ともがんばれ!負けるな!ガンバレ!お前たちは超人だ!

この三超人を応援してしまう流れに貢献しているのは「女医」の離れ業で、これまで徹底的に解体され理由のある異常程度にされていた超人たちが能力を開放するいうカタルシスあっての展開でありシャマランの腕前が光ります。シャマランは論理プロレスがうまい。

最も自分を信じた者こそが勝者となる。

そして、色々あってエンディング。ウォッチメンでのロールシャッハの投じたアイロニーあふれる大爆発もよかったですが、今回は世界最高の男がポジティブな方向へ世界を大爆発させる最高のエンディングとなりました。

「最も自分を信じた者こそ勝者となる」という前向きで「ヒーローとは?」「正義とは?」「クジラとは?イルカとは?」等と悩んでしまいがちな現代人にとって、ひとつの正解を指し示す結末だったと思います。

そして、最終的にガラスが割れます。
それは第四の壁。この作品の観客は劇中の人物と同じ目線に立ち「目撃した事件」を語り継ぐ義務が生じました。

関係ないけど『アラビアの夜の種族』を思い出した。

鑑賞後に思い浮かべたのは、壮大なメタフィクションのサーガ『アラビアの夜の種族』です。

こちらも三人の超常男(スーパーマン)たちのフィクショナルな伝説を語り部から聞き取りながら、物語として本をまとめ上げていくという筋書きで、最終的に読者までもを「共犯者」に仕立て上げていく超絶な作品であり「この作品に出合えたのは運命」そして「誰かに伝えていく」というミームの伝播・情報の強さを感じるものでした。

「お前こそが俺の作品であったのか」

ミーミーの伝播と拡散。子を為すことが叶わぬ醜男の夢。エモい。

※これはあくまで根拠のない連想であり、たぶんそうでもないと思います。

未来へ

「ミスターガラス」は、「周囲からどう思われているか」よりも「どのような自分を信じているか」を問う前向きなメッセージを伴う作品だったと思います。夢を信じて19年もかけてシリーズを作り上げたシャマラン監督も『超人』であると思います。

「ミスターガラス」、オススメです。

#コンテンツ会議 #ミスターガラス #シャマラニスト #映画 #怪人総登場 #アラビアの夜の種族

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