課題06.短編小説 「枯れ尾花」

 

 虫の知らせとか、心霊体験とか、正直ウンザリする。「夢で見た」とか「あなたの前世は……」とか、そういうスピリチュアルな話を聞くことがあるけど、眉唾だろって思う。よくショッピングモールの隅で営業している三十分二千円の占い師だって、銀座の母だって、水晶玉を覗けば未来が分かるわけじゃない。所詮はコールドリーディングなんだ、きっと。 

 信じている人に霊や霊気の類いは存在しないって証明しろと言われると、返事に困る。「ある」ことの証明は出来ても、「ない」ことの証明は難しい。宇宙人だって同じだ。長年存在すると唱える人はたくさんいて、支持者もいるが、存在しないことを証明しようとするとそうはいかない。 

 午前三時。私はいつもより遅くに床に就いた。目を閉じると、何人かの女性が外で話している声が聞こえた。こんな夜中にうるさいなぁ。飲み会の帰りか? とウトウトしていると、だんだんとその声が近づき、大きくなってくる。おかしい。異変に気づき、ベッドから立ち上がろうとする間にも声は迫ってくる。すると突然、頭が痺れてきた。脳が炭酸水に浸かったように、シュワシュワしているような感覚だ。それに、起き上がろうとしているのに体が動かない。なぜだ。必死にもがこうとするが、一本の棒きれにでもなったかのようにビクとも動かない。これが噂に聞く「金縛り」か! なった時はどうしたらいいんだっけ? そうだ!声を出せばいいんだ。だめだ。唇さえ動かない。 

 ああ、そうだ、こういう時はお経を念じればいいって聞いたことがあるぞ。えーっと、南無阿弥陀……待てよ。宗派はなんでもいいんだっけ。真言宗? 曹洞宗? そもそも仏教じゃない可能性もゼロじゃない。それじゃあアーメン? でも間違ってたらどうしよう! 次はなにをしたらいいんだ。友達はなんて言ってたっけ。そういや気配を感じるとか言ってたような。あ! 誰かいる……やめてぇ! 来ないでぇ!耳元でしわがれ声で囁かれている気がする。助けて! 残された気力を振り絞り、体を動かそうとすると、僅かに指先がピクリと動いた。やった! これで声も出せるかもしれない。お母さんを呼ぼう! (う~う~) 

「うひぃ~~~ん」 

 目を覚ますと、いつもの自室が広がっていた。誰かがいる気配もない。慌ててカーテンを開け、部屋を光で満たす。ふぅと一息つき、急いでリビングへ向かった。 


振り返り
先生に面白いけどこれは小説じゃないって言われた。

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