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チョコレート摂取と潰瘍性大腸炎の関係性について調べてみた

私は潰瘍性大腸炎の患者ながら、チョコレート菓子が大好きです。ただ同時に漠然と脂質や糖分が多いチョコレート菓子は潰瘍性大腸炎には良くないのでは?と後ろめたい気持ちを持ちながら食べています。

今回はこのチョコレート菓子が潰瘍性大腸炎(以下、UC)に与える影響について調べてみたいと思います。

結論

  • チョコレート菓子は複数の原料で構成され、それぞれの成分についての効果・逆効果を分離して考える必要がある

  • チョコレートに含まれるカカオは補完的な抗炎症剤になり得る可能性はあるが、強力ではない

  • チョコレートに含まれる砂糖は多く摂取する事による炎症性腸疾患の炎症数値を悪化させる影響が報告されている

調査方法

取っ掛かりとしてまず読んだ論文が、こちらの論文です。ポーランドの研究でUCを罹患する女性患者44人と対照群を比較しています。本論文は潰瘍性大腸炎の女性はエネルギー摂取が少ない傾向に有り、寛解期にあっても推奨栄養素摂取量に達していない可能性があると論じています。そのため、特定の食物がUCに与える影響についてフォーカスした論文では有りません。

ただ、チョコレート菓子の影響について引用論文を通じて、少しだけ論文内では論じられており、その議論を少し紹介したいと思います。

チョコレート菓子のUCに与える影響

まず前提として、チョコレート菓子と一口に言っても、チョコレート菓子はカカオだけでなく、砂糖などを含む複雑な製品であり、その逆効果を考慮する必要があると論じられています。

カカオの効果

まず、カカオについては引用先のこの論文では以下のように結論付けています。

  • ココアは試験管内試験では明らかな抗炎症特性を示すが、生体内試験では議論がある。ココアにポリフェノールが多く含まれている場合、炎症反応の解決に役立つ可能性があり、その抗酸化特性により、補完的な抗炎症剤になり得る。

  • 自己免疫炎症性疾患ではココアは炎症を強力には軽減しないが、付随する酸化ストレスを抑制する。(ラット試験)

  • ココアダイエットは腸内細菌叢を変化させる。

つまり、ラット試験にて酸化ストレスを軽減する効果が観察されましたが、炎症を強力に抑えるほどでは無いということです。

砂糖による影響

砂糖がUCに対して与える影響についてはCellに掲載された2020年の論文が引用されて説明されています。この論文では以下のような砂糖の与える影響を論じています。

  • マウス実験にて、高糖食は腸の透過性を増加させ、腸内バリア機能に悪影響を及ぼす。免疫系の炎症調整を高めて、腸の炎症を起こしやすくする。

  • マウス実験にて、高糖食は慢性大腸炎の重症度を増加させる一方、高繊維食群は結腸組織内の炎症誘発性細胞(好中球、マクロファージ、Th17、3型自然リンパ球)の割合が低い。

  • 西洋食は大量の脂肪と単純な精製糖の摂取を特徴とし、持続的な軽度の全身性炎症と関連している。(別論文を引用、この論文もどこかで読みたいですね)

  • 単糖(スクロース、フルクトース、グルコースなど)を多く含む食事が腸のバリア機能を損ない、腸の透過性を増加させる

本論文はマウス実験ながら、多くの実験結果を通じて、高糖食(High-Sugar Diet:HSD)が負の影響を与える事を示しています。また、単糖類が与える負の影響について報告した多くの論文を引用しています。ただ、論文内では同時に、潰瘍性大腸炎に対して高糖食が与える影響を追跡したものではないと書かれています。

砂糖入り飲料に関するレポート

先ほどのCellの論文は高糖食が与える影響をマウス実験にて示していましたが、潰瘍性大腸炎やクローン病などに特化した研究ではありません。次に紹介するのはこの論文で、主に砂糖入り飲料が炎症性腸疾患に与える影響について調べたものです。

論文内では、1133人の炎症性腸疾患の患者(58%が女性、70%がクローン病、30%がUC)に対して、前向きコホート研究を行い、砂糖入り飲料と繊維食の摂取量は自己申告制アンケートで行われました。
この論文の結論としては以下のようなものです。

  • 砂糖入り飲料摂取量が多い場合は、入院や外来時間までの時間が短い(発症が早い)

  • 砂糖入り飲料摂取量が多い場合は、炎症性疾患の重症度が上昇する可能性が高くなる。(赤沈、CRP、好酸球、単球)

論文内では砂糖入り飲料が炎症性腸疾患に対して、臨床上の悪影響を与える機序などについては議論されていません。

今回紹介した論文の結論

このように、カカオには潜在的にプラスの影響があると考えられるが、チョコレートは複雑な製品であり(砂糖などによる負の側面もあり)、潰瘍性大腸炎患者にとってプラスの効果をもたらすとは考えられない、と本論文では記述しています。

砂糖の大量摂取はUC以外にも糖尿病などのリスクを増大させる可能性がありますので、寛解期であっても控えたいと筆者は思いました。

参考情報

引用元論文

  • Głąbska, D.; Guzek, D.; Lech, G. Analysis of the Nutritional Value of Diets and Food Choices in Polish Female Ulcerative Colitis Individuals Compared with a Pair-Matched Control Sample. Nutrients 2023, 15, 857. https://doi.org/10.3390/nu15040857

  • Pérez-Cano, Francisco J., et al. "The effects of cocoa on the immune system." Frontiers in pharmacology 4 (2013): 71.
    https://doi.org/10.3389/fphar.2013.00071

  • Fajstova, A.; Galanova, N.; Coufal, S.; Malkova, J.; Kostovcik, M.; Cermakova, M.; Pelantova, H.; Kuzma, M.; Sediva, B.; Hudcovic, T.; et al. Diet Rich in Simple Sugars Promotes Pro-Inflammatory Response via Gut Microbiota Alteration and TLR4 Signaling. Cells 2020, 9, 2701.
    https://doi.org/10.3390/cells9122701

  • Maaz Ahsan, Filippos Koutroumpakis, Claudia Ramos Rivers, Annette S. Wilson, Elyse Johnston, Jana G. Hashash, Arthur Barrie, Therezia Alchoufete, Dmitriy Babichenko, Gong Tang, Kevin Mollen, Timothy Hand, Eva Szigethy, David G. Binion, High Sugar-Sweetened Beverage Consumption Is Associated with Increased Health Care Utilization in Patients with Inflammatory Bowel Disease: A Multiyear, Prospective Analysis, Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics,
    Volume 122, Issue 8, 2022, Pages 1488-1498.e1,
    https://doi.org/10.1016/j.jand.2022.01.001.

ご注意

  • 本記事の内容は潰瘍性大腸炎に対する研究結果を紹介するもので、特定の治療法を推奨したり、治癒効果などを謳うものではありません。

  • また、筆者の論文理解が不十分な事がある可能性もありますので、あくまでも参考情報として読んで頂ければと思います。何かあればご指摘ください。適宜レビューし、記事を修正いたします。



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