自動車のメカニズム(センサー編)
【はじめに】
自動車には数多くのセンサーが使われています。
その多くは結構単純なものですが、自動車を制御するとても大事な役割を担っています。
用途から先に説明し、その中で使われるセンサーの仕組みをまとめて説明します。
ここで説明する用途は以下です。
・エンジン系
・ナビ系
・ステアリング系
・サスペンション系
・ブレーキ系
・予防安全系
・その他ボディ系
□エンジン系
【クランクセンサー】
クランク軸に取り付けられ、エンジンの回転検出とピストンの位置の検出を行います。
4ストロークサイクルエンジンだと、クランクの位置だけでは吸気・圧縮工程と燃焼・排気工程と区別が付かないので、カムセンサーと組み合わせて検出します。
検出にはパルスセンサーが使われます。
【カムセンサー】
カム軸に取り付けられ、主にサイクルの検出に使われます。
検出にはパルスセンサーが使われます。
クランク軸のセンサーと組み合わせて使われます。
【車速センサー】
パルスセンサーが使われることが多いです。
かつてはトランスミッションの出力軸から回転検出をしていましたが最近は車輪速センサーから演算することが多いです。
【水温センサー】
冷却水の温度を検知します。
冷却水はエンジンで温められ、ラジエターで冷やされます。
場所によって温度が大きく異なるので、センサーをどこに設置してどこの温度を測るのかが重要です。
サーミスタが使われます。
【吸気温センサー】
エンジンに吸気する空気の温度を検出します。
吸気する空気の量を算出するために必要です。
サーミスタか使われます。
【大気圧センサー】
大気圧は高地での気圧の低下を計測するため用います。
気圧の計測は吸気量(酸素分子量)の計測に必要です。
気圧センサーが使われます。
【吸気圧センサー】
吸気管内にセンサーが設けられ、吸気のための負圧を計測し、実際にエンジンに入る空気の量を計測するために必要です。
気圧センサーが使われます。
【O2センサー】
排気管内に取り付けられ、残存酸素の検出をします。
酸素の濃淡電池の原理を応用したセンサーです。
ジルコニア素子を使っています。
センサーに酸素が付くと電圧が変化しますが、特性が極端なためスイッチのON/OFFに近い性質なので制御もすこし荒いです。
【A/Fセンサー】
基本的な仕組みはO2センサーと同じです。
O2センサーよりも酸素量に対しての電圧の特性がなだらかなため精密な制御が可能になります。
O2センサーと組み合わせて使われることも多いです。
【エアフロセンサー】
空気がどれだけ移動したかを計測します。
吸気した空気の量を正確に測るために必要で、吸気温と組み合わせて空気の分子量計算し、理論空燃比に合わせて燃料の量を計算します。
ホットワイヤー式、光学式、ベーン式などがあります。
ホットワイヤー式は電熱線が空気の流れで冷やされて熱による電気抵抗が変化するのを読み取っています。
光学式はカルマン渦を光学センサで読み取っています。
ベーン式は気流で変位するフタの角度をポジションセンサーで測ります。
【スロットルセンサー】
かつてはアクセルペダルとワイヤーで繋がっていたのでアクセルペダルセンサーと同一でした。
最近は電子制御スロットル(略して電スロ)でサーボモーターの制御に使うのでアクセルセンサーとは別にスロットルセンサーが付いていて。
電スロの場合、フェールセーフのために複数付いています。
開度の検出にはポテンションメーターポジションセンサーを使います。
【アクセルセンサー】
かつてはスロットルセンサーと同一でした。
現在はユーザーからの加速度指示のベースとして働きます。
このセンサーからの値を受けてパワートレイン全体(エンジンだけでなく、ハイブリッドならモーターも)に目標出力を設定します。
開度の検出にはポテンションメーターが使われます。
【ノックセンサー】
エンジンのノッキングを検出するのに使います。
ピエゾ素子が使われます。
ノッキングは気筒内を衝撃波が反射するので、気筒の直径を音速で割った周期で振動します。
エンジンは他にも振動を生む装置がいっぱいあるので、それらと区別するため、バンドパスフィルタで波形をマスクし、衝撃波の強さを測るためにピークホールドを用います。
□ナビ系
【GPS】
ナビに入力され自車の位置を測位します。
衛星からの電波を受信して計測します。
電波には衛星の位置と原子時計の正確な時刻が含まれていて、電波の速度から距離を計算して三角測量を行うことによって自車位置を確定します。
演算には相対性理論を用いた補正が行われます。
相対性理論は有名ですが、宇宙の彼方やSFだけの話かと思いきや、こんな身近でも使われています。
【ヨーレイトセンサー】
車が曲がったことを、知るためのセンサーで
スマホに入っているのと同じです。
イナーシャセンサーが使われます。
【Gセンサー】
速度センサーが接続されていない時の速度の算出や、坂(高速道路の乗り降りなど)の検出に使ったりします。
イナーシャセンサーが使われます。
【タッチセンサー】
タッチパネルのセンサーとして使われます。
スマホ・タブレットでよく使われる静電容量式はあまりなく、抵抗膜式がよく使われます。
これは、単純にスマホ・タブレットより進歩が遅いからではなく、車で使うタッチパネルはグローブや手袋をはめたまま使うシチュエーションが多いからです。
どちらの方式もITO膜という透明で導電性の膜が基本的な素子として使われます。
□ステアリング系
【舵角センサー】
操舵角の検出のために使われます。
普通の車であればハンドル角と共用で良いですが、VGS(可変ギアレシオステアリング)やステアバイワイヤではハンドルと一対一ではないので個別に必要になります。
ポテンションメーターが使われます。
【ハンドル角センサー】
ハンドルの角度を検出します。
真っ直ぐを補正するような制御が行われたりするほか、舵角とハンドル角が一致しないシステムで重要な役割を果たします。
ポテンションメーターが使われます。
【トルクセンサー】
ステアリングの軸トルクの計測に使われます。
とても硬いバネ(ねじりバネ)とポテンションメーターの組み合わせで計測されます。
最近ではユーザーがハンドルを保持しているかの判定に使ったりします。
エンジントルクは計測が難しいので、吸気量や燃料噴射量などから演算します。
(目標値になります)
□フロントライト系
【ダンパー沈み込みセンサー】
ダンパーの沈み込み量を検知して、フロントライトの照度角の調整に使われます。
エアサスでは目標沈み込み量のフィードバックに使われます。
ポテンションメーターが使われます。
【照度センサー】
オートライトに使われます。
明るさを検知してライトのON/OFFをします。
車によっては照度センサーがダッシュボードに装備されているものもあります。
ダッシュボードにものを置いていると誤判定をすることがあります。
□ブレーキ系
【ブレーキペダルセンサー】
開度の検出にはポテンションメーターが使われます。
単にブレーキを踏んでいるか否かの検出はブレーキランプ点灯のためのスイッチが使われます。
【ブレーキ油圧センサー】
ブレーキの踏み具合を精度よく検出するために使われます。
ESCでのブレーキの利かせ方や、ブレーキバイワイヤでのペダルシミュレータの動作や、ハイブリッドカーのブレーキミックスに使われます。
【車輪速センサー】
車輪毎にセンサーを設けて各車輪の回転検出を行います。
ロックした車輪を検出してABSを働かせたり、滑った車輪を検出してTRCを働かせたりします。
車輪毎の速度差からパンクの検出に使われます。
パルスセンサーが使われます。
【ヨーレイトセンサー】
ESCで使われます。
目標ヨーレートと実測ヨーレートの差を見て横滑りを検知するのに使います。
イナーシャセンサーが使われます。
詳しくは下記のノートを参照ください。
【Gセンサー】
前後や左右のGを検出し、車の姿勢の把握に使います。
ESCで使われます。
イナーシャセンサーが使われます。
□予防安全系
【クリアランスソナー】
車両の前後や左右に付けられ、物体の接近を知らせます。
バンパーに1.5cm位の丸い輪っかが付いているのを見たことがある人も多いと思いますが、これがセンサー部です。
誤発信防止機能用のセンサーとしても使われます。
現行プリウスでは巻き込み防止や、パーキングアシスト用のセンサーとしても横方向にも付けられています。
その名の通りソナーが使われています。
【レーダー】
レーダー波を出して、物体に当たって跳ね返ってきた波を拾い、跳ね返るまでの時間を測ることで物体の位置を検出します。
かなり遠くまで測れるのでクルコンで採用されてきました。
レーダー波の波長により計測できる物体が違います。
【カメラ】
光学センサーですが、画像を解析するソフトウエアと組み合わせて物体を認識します。
ステレオカメラであれば視差から距離を演算できます。
暗いと検知が難しいです。
ストレージと組み合わせればドライブレコーダーになりそうに思えますが、肉眼で見た感じの帯域と違う帯域をセンシングしているのでなかなか難しいです。
個人的にはISO-FIXのようにドライブレコーダー専用のラッチが付くと良いと思います。
□その他ボディ系
【燃料計センサー】
フロートという浮きがタンク内にあって液面に浮いています。
浮きにポテンションメーターが付いていて液面の高さを計測します。
浮きの高さは車両の振動で大きく変動するので、計測値を大きくなましてメーターに表示しています。
【燃料タンク内圧力センサー】
多くの自動車の燃料であるガソリンは常温はおろか氷点下でも気化します。
燃料タンクにはチャコールキャニスターという気化したガソリンを集めてエンジンに入れる装置があります。
しかし、長い間放置されると消費する間が無いので、圧力が高まったのを検知し、圧力を逃す働きをします。
【シートセンサー】
シートに重量がかかったかどうかを判断します。
シートベルトのセンサーと組み合わせでシートベルト警告を出すのに使います。
【雨滴センサー】
赤外線を使って雨滴による屈折率の変化で検出します。
センサー付近に雨滴が付かないと検知できません。
雨などで全体的に水に濡れる場合は判定できます。
また、日差しによっては誤判定して濡れてないのに勝手に動いたりします。
このセンサーはオートワイパーに使われる他、路面の反射率が高くなることから、AFSでライトを下向きにする制御をすることもあります。
【侵入センサー】
クリアランスソナーの室内版です。
防犯装置の高級版でキーロック中の車内の物体が動くと検知します。
ソナーを使います。
【タイヤ空気圧センサー】
タイヤの空気圧を測り、パンクの検出に使います。
気圧センサーが使われます。
□センサーの詳細
【温度センサー】
外気温や吸気温や水温を計測します。
計測にはサーミスタが使われます。
サーミスタの特性は「温度の上昇=電圧の低下」で変化も直線的ではないので変換処理が必要となります。
【ポテンションメーター】
物理的なものの移動を検出するのに使います。
内部的には可変抵抗が主に使われます。
可変抵抗は距離に応じて抵抗値が変わる抵抗器と移動する接点から成ります。
センサーや取り付けの精度に個体差が出やすいのでキャリブレーションが必要です。
【気圧センサー】
大気圧や吸気圧を測ります。
ダイアフラムとピエゾ素子によるひずみ計測で変動を計測します。
【イナーシャセンサー】
角度変化検出や加速度の検出に使われます。
スマホやタブレットに装備されているセンサと同じです。
ピエゾ素子の圧電効果を使ったものが使われていました。
今は半導体の静電容量変化を用いたものが使われています。
角度検出は2つのセンサ値の差を用いて検出します。
【パルスセンサー】
回転系のセンサーによく使われます。
車の回転系はエンジンや車輪など高回転になったり、回転頻度が高いので、非接触のセンサーが使われます。
かつてはMPU(マグネットピックアップ)が多く使われてきましたが、最近はホール素子を使うことが多いです。
MPUはコイルと磁石の誘導起電力によって
ある程度速度が出てないと起電力が弱く速度が出すぎると起電力が強すぎたりして電圧が安定しないのかネックで保護回路が必要になってきます。
ホール素子は半導体のホール効果を使った磁力検出で、素子からの出力がON/OFFのデジタル信号のためそのままCPUに入力することが可能なので使いやすいです。
【ソナー】
音波を出して物体があると音波が反射するので、それをマイクで検出して物体との距離を算出します。
コウモリやイルカやクジラが物体の検出に使う方法同じです。
目が見えない人が口から音を出して、耳で音を拾い、同じように検出することもあります。
レーダーと違って正面がガラスでもきちんと距離がわかります。
カメラと違って鏡でも正しく検知できます。
金網のように空間が空いているものは上手く検知できません。
近距離のものしか検知できません。
【ピエゾ素子】
ピエゾ圧電効果を持った素子のことで、圧力と電力の変換を行います。
その特性を利用して、振動や圧力の検出をするのによく使われます。
センサーではないですが、ディーゼルエンジンのインジェクターにも使われます。
(電力を与えて体積変化を起こし、インジェクターを動かします)
どこかの橋では、車両の通るときの振動をピエゾ素子で受けて発電した電力を照明に使ったりもします。
【あとがき】
自動車のセンサーはコスト制限のため必要最小限しか付いていませんが、それでもたくさん付いています。
運転席周りにあるスイッチ類もセンサーと言えばセンサーです。
それぞれのセンサーがうまく機能しないと車はうまく動きません。
故障検出をする仕組みはありますが、完璧ではありません。
点検で全て見つかるとも思えませんが、定期的な点検はお忘れなく。
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