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#01 尾道編① 瀬戸内屈指の観光地の次なる変化

風土の異なる3つの都市を訪れ、フィールドリサーチを通して街づくりの未来を探るプロジェクト。
広島県の尾道といえば、昭和レトロな情緒あふれる街並み、『東京物語』『時をかける少女』をはじめとした映画の聖地、絶景の島々を巡る「しまなみ海道」のサイクリングまで。この瀬戸内屈指の観光の街がいま、「尾道デニムプロジェクト」や高感度な複合施設「ONOMICHI U2」など、地域発信型の取り組みを次々と打ち出し、大きな話題を集めています。
果たして、尾道で何が起きているのか?地方都市における“個性豊かな街づくり”のヒントを探すべく、現地を訪れました。
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① 瀬戸内屈指の観光地の次なる変化
…風土の特徴や人気の観光スポットなどの基礎情報から、近年の新たな動向まで。尾道という街の個性をひもといていきます。

② 変革の象徴「ONOMICHI U2」のデザイン戦略
…尾道の人の流れを変えた複合施設「ONOMICHI U2」。立ち上げ経緯や今後のビジョンについて、運営メンバーにインタビュー。

③ 地域への危機感がつなげた街づくりの輪
…尾道発のユニークな取り組みの仕掛け人、「ディスカバーリンクせとうち」代表の出原昌直さんに、活動の経緯や目的についてインタビュー(前編)。

④ “観光で行く街”から“住みたい街”へ
…「ディスカバーリンクせとうち」出原昌直さんインタビュー後編。これまでの活動を通して見えてきた、さらなる未来への覚悟とは。

⑤ “スローな街づくり”で育む地方都市の未来
…観光客向けの発信から次のフェーズへ。リサーチメンバーの視点から、地方都市における“個性豊かな街づくり”の展望を考えます。

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瀬戸内の情緒あふれる、風光明媚な港街

広島県の南東部、広島市と岡山市のほぼ中間に位置する尾道市は、古くから瀬戸内海を東西に結ぶ水運と、山陰と四国を南北に結ぶ交易路が交わる場所として栄えた場所。
中心市街の目の前に海が開け、対岸の向島(むかいしま)との間は幅わずか2〜300メートルの穏やかな尾道水道が隔てるのみ。すぐ背後の山の斜面には、港や島々を見晴らすように数多くの古寺や古民家が建ち並んでいます。この独特の地形が生み出した坂道や街並みは「坂の街」と形容され、近隣の鞆の浦(とものうら/広島県福山市)とともに、古来より多くの文化人たちを魅了してきました。

歴史的には、日本海沿岸から下関を回って大阪へと至る北前船が寄港し、豪商たちが蔵や邸宅を構えるなど、備後地方(広島県東部)随一の豊かさを誇った商業都市。戦前・戦後にかけては向島を中心に、造船業で発展を遂げた工業都市。そして、穏やかな風土と情緒あふれる街並みが作家の志賀直哉や林芙美子、映画監督の小津安二郎、大林宣彦らを惹き付け、その作品を通して全国的に知られるようになった「文学の街」「映画の街」。
さらに1999年には、本州と四国を結ぶ連絡橋として、明石海峡大橋と瀬戸大橋に続く3ルート目となる「瀬戸内しまなみ海道」が開通。尾道から向島など6つの島々を経て愛媛県今治市へと至る車道沿いに「しまなみ海道サイクリングロード」が整備され、海と島が織りなす絶景を満喫できる自転車道として世界的な注目を集めています。

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尾道の中心部、向島を望む海岸通りには、小津安二郎監督作品『東京物語』の撮影地にちなむパネルが。サイクリストたちは渡船で向島へと渡り、橋で結ばれた島々を巡っていく。

レトロな“観光の街”に、最先端の建築&デザインが続々と登場

時代の変化とともに異なる魅力を育んできた、瀬戸内が誇る観光の街・尾道。近年も観光客数は09年から9年連続で過去最高を記録し、海外からの観光客も増加の一途をたどっています。また、17年には「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」が、文化庁の「日本遺産」に認定されました。
代表的な観光スポットとしては、山の手の高台に建つ名刹・千光寺。市街地と島々を一望できる見事な展望で知られています。麓へと下る坂道や路地は、『時をかける少女』をはじめとする大林宣彦の『尾道3部作』のロケ地としても有名。古民家を利用したカフェや、猫モチーフのオブジェや店が並ぶ「猫の細道」も人気を集めるほか、尾道駅へと続く昭和レトロな商店街や、「尾道ラーメン」をはじめとするグルメなども、多くの観光客を惹き付けています。 

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尾道水道を見下ろす山からの眺めと、斜面に連なる風情ある街並み。山と海に挟まれた土地には昭和レトロな情緒が漂う商店街のアーケードが。

その尾道の街にいま、新たな変化が起きています。かつての海運倉庫を画期的な複合施設として甦らせた「ONOMICHI U2」(設計:サポーズデザインオフィス)や、昭和30年代の集合住宅を高感度な宿泊施設にリノベーションした「LOG」(設計:スタジオ・ムンバイ・アーキテクツ)、2019年3月に124年ぶりに生まれ変わった“尾道の顔”ことJR尾道駅の新駅舎(設計:アトリエ・ワン)など、現代を代表する建築家が手がけた施設が続々と誕生し、国内外から注目を集めているのです。

背景にあるのは、街の魅力をこれまでにない視点で発信し、未来に向けて新たな経済や文化を創出しようという、地元主導による数多くの取り組みです。いま尾道で何が起きているのか、これからの街づくりのヒントを探るべく現地を訪れ、フィールドリサーチを行いました。

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近年の尾道の変化を象徴する建物たち。上から「ONOMICHI U2」、坂の上に建つ「LOG」の門構え、JR尾道駅の新駅舎。
<名称>    広島県尾道市
<人口>※1      約13万7千人(住民基本台帳人口/2018年12月31日)
<鉄道>    JR尾道駅(山陽本線)、JR新尾道駅(山陽新幹線)ほか
<産業>    造船業、農業(わけぎ、いちじく、レモンなどが全国有数の生産量を誇る)、漁業および海産物加工業(かまぼこ、干物など)、観光業、製造業(金属加工品、食料品など)
<特徴> 広島県東部(備後地方)の海運拠点として発展し、向島、因島、生口島などの島嶼部は造船業や柑橘類の生産が盛ん。名作映画のロケ地としても知られ、近年はアニメの舞台としても描かれる。海外からのサイクリストも含め、観光客数はこの10年で約25%増を記録している。
出典:
(※1)尾道市公式サイト(2019年12月末時点)

注目ポイント: 新たな変化を遂げた尾道の現在

少子高齢化や都心への人口集中を背景に、日本の地方都市は変革期を迎えている。
尾道は、かつて文学や映画の街として注目を浴びたものの、その後、街の活気は落ち着きを見せた。しかし、2010年代になると次々に新しい取り組みを打ち出し、再び人気の観光地となっている。
このような変化を経験してきた尾道の街で、いま、どのようなことが起こっているのだろうか。街づくりのキーパーソンをはじめ、現地のさまざまな立場の人から多角的に話を伺うことで、現在の尾道を取り巻く状況や新たな課題を浮かび上がらせながら、日本の地方都市の未来につながるヒントを探りたい。

→ 次回  尾道編
②変革の象徴「ONOMICHI U2」のデザイン戦略


リサーチメンバー (取材日:2019年9月21〜22日)
主催
井上学、林正樹、吉川圭司、堀口裕
(NTT都市開発株式会社 デザイン戦略室)
https://www.nttud.co.jp/
企画&ディレクション
渡邉康太郎、西條剛史(Takram)
ポストプロダクション & グラフィックデザイン
江夏輝重(Takram)
編集&執筆
深沢慶太(フリー編集者)
イラスト
ヤギワタル


このプロジェクトについて

「新たな価値を生み出す街づくり」のために、いまできることは、なんだろう。
私たちNTT都市開発は、この問いに真摯に向き合うべく、「デザイン」を軸に社会の変化を先読みし、未来を切り拓く試みに取り組んでいます。

2019年度は、前年度から続く「Field Research(フィールドリサーチ)」の精度をさらに高めつつ、国内の事例にフォーカス。
訪問先は、昔ながらの観光地から次なる飛躍へと向かう広島県の尾道、地域課題を前に新たなムーブメントを育む山梨県、そして、成熟を遂げた商業エリアとして未来像が問われる東京都の原宿です。

その場所ごとの環境や文化、人々の気質、地域への愛着やアイデンティティに至るまで。特性や立地条件の異なる3つの都市を訪れ、さまざまな角度から街の魅力を掘り下げる試みを通して、「個性豊かな地域社会と街づくりの関係」のヒントを探っていきます。

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