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俺の日記(6) ウワサのキクチ

昨年から投資の世界で一つの奇妙なジンクスが囁かれているのをご存じだろうか。

「岸田内閣総理大臣が行く美容室で日経平均の上げ下げが分かる」

提唱者はこちらの「りーだー」さん。


残念な事に岸田総理がヘアモードキクチに行けば日経は暴落する、という理論は年初からの暴騰により完膚なきまでぶっ壊されてしまった。

しかしりーだーさんは負けない。
「キクチに行かない期間が長くなると日経は上昇しやすい」という新説を唱え始めた。なかなかしぶとい男である。




岸田総理の髪に切りに行く回数は各所で話題だ。
著名投資家岐阜暴威さん(通称 クソハゲ)は「そんな回数行けるくらい髪があるのは羨ましい」などと仰っていたが、正直どの辺りを整えたのか素人目には分からない。
いつ見てもあのなんとも形容し難い『岸田へア』にしか見えないのだ。


それにしてもそこまで岸田総理が通い詰める「ヘアモードキクチ 神田日銀通り店」、一体どれほどのものか。

そろそろ髪の長さが気になりだした頃なので行ってみる事にした。


高級理容室とは書いているが、目玉が飛び出るほどべらぼうに高いわけでもない。

新規の強みを活かしてこのクーポンを使おう。

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総武線と中央線を乗り継ぎJR神田駅の南口に到着。

神田日銀通り店という名前からもしかしたら日銀近くにあるのを想像される方がいるかもしれない。
ごっつ神田駅沿いである。
勘違いして三越前駅で降りようものなら結構歩かされる。

神田の庶民的な店の中にノーブルな雰囲気を漂わせる白い出入口が突如紛れ込んでくる。
それこそがヘアモードキクチ神田日銀通り店なのである。



入店すると店内は意外とこじんまりしている。
右に椅子が2つ、向こう正面に椅子が複数個並んでいる。
岸田総理はこの内どこの椅子に座ったのか気になる。まさか出入口に一番近い所じゃあるまい。

待ち合い用の小さな椅子に座ると、すぐそばにウォーターサーバーがあった。高級理容室だからこの水もアルカリイオン水の類かもしれない。
一口飲んでみたが・・・・いろはすとの違いが分からなかった。

少し待ってからパーテーションで仕切られた席に案内される。ほどなくして担当者がやってきた。
きっちりとフォーマルな服装をしている。今まで行っていたヘアサロンとは雰囲気が違う。
これが国が認めたヘアモードキクチか。ブルっちまうぜ。

「髪の長さはいかがいたしましょうか」

俺はスマホを取り出し「こういうツーブロックがいいんですが」と画像を見せる。

位置の高低を聞かれる。
今まで低めのセットだったがキクチの技術力となんとかしてくれそうな雰囲気を信じて高めの位置をオーダーしてみた。
これで大失敗したら坊主にしてオールリセットするしかない。


オールリセットの例


キクチの担当者はスムーズに髪留めをいれていく。結構多めにいれてくるので頭上が黒ひげ危機一髪のようになってしまった。
10年ほどソフトモヒカンばかりだったのでこうされるのも久々だ。そして自分が思ってる以上に髪が伸びていた事実に気付く。

カット中は目をつむるタイプだ。なぜかというと自分の髪がどう変容していくか見るのが嫌だからだ。
途中で「あっ、なんだこれは!?」と思って動揺すると途端に冷汗が止まらなくなる。カット中くらいは心を落ち着かせたいのだ。

バリカンで刈る音やハサミで小気味よくジョキジョキと切っていく音が聞こえる。
ヘアサロンでは基本喋らない(喋りたくない)タイプだが、キクチでもあまり喋らなかった。
喋らなかったというより「岸田総理って来たらどのあたりに座るんですか」という話をいつ切り出そうかタイミングを見計らっていたというのが正解だ。

「一度確認お願いします」

タイミングを図っている内にカットが終わってしまった。鏡に若干すっきりした自分が映る。

「後ろはこうなってます。どうでしょうか」
「あー・・・うん・・・」
「ここの位置まで刈ってサイドも耳元を軽くしました」
「あー・・・なるほど・・・・はい・・・・」

角度を変えてくまなく確認しているフリはするが内心なにがどうなのかよく分かっていない。今まで髪型に無頓着だった事を今更後悔する。

卓越した技術力のおかげで事故らず綺麗にまとまった事だけはなんとなく分かったのでOKサインを出す。

「では次に頭皮ケアをしていきます。クレンジング剤を3種類から選んでください。」

ヘアトニックをほとんどつけたことのないような俺に3種類の中から選べだなんてかなりハードなミッションだ。これが高級理容室ヘアモードキクチの洗礼か。

生薬系、炭酸系、清涼系が提示されたので炭酸系をチョイスする。
すると更に普通炭酸と強炭酸の2タイプから選べという。
強炭酸だなんて・・・ドリンクの事しか思い浮かばないぞ。


結局選んだのはヒノキの香りがする強炭酸クレンジング。

椅子を倒され強炭酸が頭皮に噴射される。バチバチと音がしてピリピリする。電気風呂に頭だけ浸からされたイメージだ。
臭いはヒノキというよりサロンパスだ。
そのままクレンジングを全体に染み込ませ頭皮マッサージを行う。頭頂部からじんわいと暖かくなってくる。疲れがたまってる状態でやられたら寝てしまうかもしれない。

クレンジングが終わると頭がひんやりとする。毛穴の汚れを吹き飛ばすのが炭酸系の効用なのだそう。雑なシャンプーばっかりやっている俺の毛穴には一体何年分の汚れが詰まっていたのだろう。

「髪を洗っていきます。仰向けとうつ伏せ、どちらがよいですか。」
「仰向けでお願いします」

うつ伏せで髪を洗うとゲロをしてしまいそうだ。
吐いても水で流されるからいいのだが・・・いやよくない。

椅子の向きを変えると、目の前にある洗面に頭をつけてシャンプーがはじまる。これは別に普通だ
力加減は丁度いいし、まんべんなくやってくれるから特にかゆい所もない。
このまま心地よく寝てしまいそうでもある。

洗った髪をドライヤーで乾かす。
ドライヤーも特別仕様というわけではない、ごく普通のものだ。

「それでは次は頭皮への指圧と顔そりをしていきます」

指圧・・・・?
そこまでしてくれるのか、と思いつつ頭皮への指圧は緊張する。
少年時代に友達と下痢ツボ(百会)の攻防戦をしていた時以来、頭を全体的に押された事がない。

指圧をはじめると少し痛い・・・・いや、普通に痛い。
ツボというツボ全てが痛い。
思った以上に身体がボロボロのようだ。

担当者も相当力を入れているのか「うーん、うーん」と声がする。
サクッと髪とヘッドスパして終わり、と予想していただけにヘアモードキクチの手厚いサービスに申し訳なささえ感じてしまった。

やっと指圧も終わり、かと思ったら頭上で謎の音がする。

ブウウウウウウウウン!!!!

なんだなんだ!?

なにか振動するものがうごめいている。
今からチェーンソーで開頭手術でもするのか?

担当者はその振動する者を頭皮にあてる。
頭が、いや首元くらいまでブルブルと揺れがくる。

そんなわけがないのだが、皮という皮が海面のようにザブザブ波打ってるんじゃないかと錯覚しそうになる。

この瞬間まで、俺は世の中にヘッドマッサージャーというものがあることを知らなかった。
髪しか意識しない俺に「頭皮にまで気をかけるのが真の美意識だぞ」と指導しているのか。
ヘアモードキクチ、いや、スカルプティーチャーキクチと呼ばせてほしい。


濃厚な頭皮施術が終わった後は顔そり・・・なのだがこれは断ってしまった。
元々口回りは自分で剃りたいタイプだ。
そして眉毛は別に眉毛専門のサロンに通っている。

キクチで眉毛まで含めたトータルコーディネートサービスを受ける方が手間も省けるしリーズナブルに済む。これは自明である。

眉毛サロンに通う前にキクチを知っていたら・・・・。
しかし今更切り替える気もない。人間とはワガママで適当だ。

岸田総理がキクチに通うのは、雰囲気が気に入っているとか個室がある以外にもこのトータルコーディネートサービスがあるからではないだろうか。

あちこち出向く余裕がない政府要人ならワンタイムで全てを終わらせてくれるキクチのサービスはベストだろう。

最後に肩と背中のマッサージを受ける。
腰のマッサージまでやってくれるところに初めて出会った。

少し身体を前傾させてモミモミしてくれるのだが、ほのかに気持ちいい。
さっきの頭皮への指圧はなんだったんだとギャップに驚く。

所要時間90分の所だが顔そりがなかったのもあり60分少々で終了した。

カード支払いの後、待ち合いを見ると3人ほど椅子に座っていた。
高級コンセプトの店だが、決して敷居は高くない。
そういう印象を受けた。

店を出て気付く。

「岸田総理の事を聞くのを忘れていた」

いや、おそらく聞いても守秘義務とかで詳細は教えてくれない可能性が高い。
俺が総理だったら話されるのは嫌だ。
「最近岸田総理白髪が増えてるんですよ」といった情報でも【岸田、心労で退陣間近!?】と夕刊フジあたりに書かれそう。たまったもんじゃない。

そういう点からも岸田総理がキクチを信頼し、通い詰めている理由がなんとなく分かった気がした。

総合力の高さから、皆さんには自信を持ってヘアモードキクチをオススメしたい。

最近、岸田総理はキクチではなく紀尾井町の「ヘアサロン大野」に行っている。
次はヘアサロン大野、といきたいところだが内閣支持率がとても心配だ。

大野にいった頃には岸田総理退陣してた、なんてことになると流行に乗り遅れた感が半端ない。

次に髪を切りに行くのは4月頃になる。
それまでは俺の体裁のためにも岸田文雄は総理の座にしがみついていてもらいたいと切に願う。