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【読感】チョンキンマンションのボスは知っている

文化人類学者の小川さやか著。著者がゲンロンカフェに出ていて知りました。研究対象の、都市のタンザニア人のアンフォーマルな零細商人達の独特の世界を描いています。

文化人類学のフィールドワークというと、未開社会の研究と思っていたが、最近は都市も研究しているらしい。別の学者の方でインドネシアのゴミ回収のシステムとか研究している方もいました。

さて、小川さんのタンザニア現地での調査内容は、『「その日暮らし」の人類学ーもう一つの資本主義経済』に書かれていて、すでに紹介しました。この本は、タンザニアの零細貿易商人が香港の彼らの根城であるチョンキンマンションという安宿を舞台に、『ボス』を中心としたユーモラスな人間関係や商売のシステムを描いています。

香港のタンザニアの商人達は、本国の商人と同様、仲間の緩いつながりで、助けたり助けられたり、商売しているのか遊んでいるのかといった生活をしていて、何でもきっちり仕事したり努力したりするのを美徳とする日本人からはかけ離れた人たちです。しかも、違法滞在していたり、難民認定を受けていたりしながら、法の網をくぐり抜けて、たくましく生きています。

うーん、彼らの面白さを伝えるのは難しい。小川さやかさんの本を手に取って読んでみるしかないですね。

この本はエッセイを元にしたものなので、学術的な話はあまりでないのですが、未開社会の贈与経済と比較して、贈与が負い目を与えて互酬性が成り立つ(のかな?)のに対し、タンザニアの商人達のコミュニティは、お金を貸すなのど贈与をしても、負い目を与えない工夫がされている。

お金を貸した後、自分が困ったときに、貸した相手から返してもらうのではなく、偶然出会った別の友人に借りる。余裕のある人が周りを助ける。目の前の困った人は助けるのが当たり前。貸し借りのネットワークを広げて、人間関係を拡げるのがセーフティーネットにもなる。貸し借りが権威を生まない。

小川さんは、それを、贈与ではなく分配、金儲け、商売の繋がりなので、分配と資本主義の繋がりとして考えているようだ。たぶん。

そんなことは考えなくても、チョンキンマンションの人々の世界を知って、タンザニアをはじめとしたアフリカの人々に親しみが湧きました。



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