西洋の建築史(近世①)

近世の西洋建築史①では、ルネサンスとマニエリスムを主に扱います。
近世の歴史は別の記事で書いておりますのでお時間宜しければそちらもご覧くださいませ。

・初期ルネサンス

地域:イタリア(特にフィレンツェ)
時期:15世紀
特徴:①集中式平面、②古代の模倣、③発明、④空間の調和、⑤均整のとれたファサード、⑥細やかさ

サンタ・マリア・デル・フィオーレ教会堂のドーム(「Wikipedia」より)

著名な建築物:
①サンタ・マリア・デッレ・カルチェリ教会堂(ジュリアーノ・ダ・サンガッロ作/イタリア,プラート)
 ー新プラトン主義の理想の集中式平面の実現が試みられた。
②サンタンドレア聖堂(レオン・バッティスタ・アルベルティ作/イタリア,マントヴァ)
 ー古代ローマの凱旋門を教会建築に取り入れようと試みた。
③サンタ・マリア・デル・フィオーレ教会堂のドーム(フィリッポ・ブルネレスキ作/イタリア,フィレンツェ)
 ー二重ドームという発明をしフィレンツェがルネサンス誕生の地である
  ことを示す象徴になった。
④サント・スピリト教会堂(フィリッポ・ブルネレスキ作/イタリア,フィレンツェ)
 ー古典建築の空間の調和が見られる(身廊の高さと幅の比率が2:1となって
  いること等)
⑤パラッツォ・ルチェッライ(レオン・バッティスタ・アルベルティ作/イタリア,フィレンツェ)
 ー壁面に違う種類のオーダーを重ね、首尾一貫した比例構成をつくった。
⑥パラッツォ・メディチ(ミケロッツォ・ディ・バルトロメオ/イタリア,フィレンツェ)
 ー邸宅のセキュリティの為外側は要塞のように重々しいが、対照的に中庭
  に面した内部は明るく軽い。

・盛期ルネサンス

地域:イタリア(特にフィレンツェ)
時期:16世紀
特徴:①集中式平面、②造形的なファサード、③遠近法の円熟、④古代の模倣、⑤記念碑的位置づけ、⑥壮麗さ

サン・ピエトロ・イン・モントーリオのテンピエット(「Wikipedia」より)

著名な建築物:
①サン・ピエトロ・イン・モントーリオのテンピエット(ドナト・ブラマンテ作/イタリア,ローマ)
 ー紙の上でも現実の建築でも集中式平面の探求を求めた。
②ヴィドーニ・カッファ・レルリ(ラファエロ作/イタリア,ローマ)
 ー邸宅建築のファサードでも造形的なものが出現。
③サンタ・マリア・プレッソ・サン・サティロ教会堂(ドナト・ブラマンテ作/イタリア,ミラノ)
 ー透視図法を利用して内陣を錯視でつくりあげている。
④ヴィッラ・マダーマ(ラファエロ作/イタリア,ローマ近郊)
 ー古代ローマの公衆浴場の影響を受けてつくられている。
⑤サン・ロレンツォの神聖家具(ミケランジェロ作/イタリア,フィレンツェ)
 ー建築学的な空間と記念碑的な人物像を彫刻
⑥パラッツォ・ファルネーゼ(ジョヴァネ作/イタリア,ローマ)
 ー建物の規模は大きいがそのファサードは整っていて美しい。

・北方ルネサンス

地域:フランス、オランダ、イギリス、ドイツ、東ヨーロッパ
時期:16世紀
特徴:①地域の伝統、②シンメトリー、③中世的な平面計画、④動きのあるシルエット、⑤象徴性

アントワープ市庁舎(「世界遺産オンラインガイド 2021」より)

著名な建築物:
①アンシー・ル・フラン城(セバスティアーノ・セルリオ/フランス、ブルゴーニュ)
 ールネサンス建築の原理と地域の伝統の両方から影響を受けている。
②ハードウィック・ホール(ロバート・スミスソン/イギリス、ダービーシャー)
 ールネサンスの平面計画の原則の影響でシンメトリーが重視されている。
③カービー・ホール(トマス・ホープ/イギリス、ノーサンプシャー)
 ー中世的な平面計画だが立面の装飾に古典的なモチーフが象徴的に使用
  されている。
④シャンボール城(ドメニコ・ダ・コルトナ作/フランス、ロワール)
 ー形態はゴシックのように見えるが全体を覆う装飾には古典的な手法が
  用いられている
⑤アントワープ市庁舎(フリーント作/ベルギー、アントワープ)
 ー伝統的な建物を装飾する為にオーダーが象徴的に使用されている。

・マニエリスム

地域:イタリア、スペイン
時期:16世紀中頃~後期
特徴:①簡素さ、②うねるファサード、③ソリッドとヴォイド、④多様なリズム、⑤多様性、⑥敬虔さ

ラウレンツィアーナ図書館(「Wikipedia」より)

著名な建築物:
①エル・エスコリアル(トレドとエレーラ作/スペイン、マドリッド近郊)
 ー中庭等は古代の例をベースにつくられ、飾り気のない外観が特徴的
②パラッツォ・マッシモ・アッレ・コロンネ(ペルッツィ/イタリア,ローマ)
 ーファサードは曲面で窓枠も独特の細工がされている。
③パラッツォ・キエリカーティ(アンドレア・パッラーディオ作/イタリア、ヴィチェンツァ)
 ー古代ローマの住宅に倣った中庭のコロネード(列柱)がファサードに用い
  られている。
④パラッツォ・デル・テ(ジュリオ・ロマーノ作/イタリア、マントヴァ)
 ーファサードが多様な装飾の要素が競い合うようなリズムを持っている。
⑤ラウレンツィアーナ図書館(ミケランジェロ作/イタリア,フィレンツェ)
 ー形状の多様性が具体的に表現されている。
⑥ジェズ教会(ヴィニョーラとポルタ/イタリア,ローマ)
 ーイエズス会の本拠地。長方形の平面計画。

・まとめ、考察

ルネサンスは、古代ギリシャや古代ローマの建築様式を復興させる運動で、主にイタリアのフィレンツェを中心として各地に花開いていった。この時期の特徴として、円形のドームを持つ教会や、円柱やアーチを多用した建築物が多い。
一方、マニエリスムとは、ルネサンス期に発展した芸術に対して、その理性的・客観的なアプローチに対する反発として生まれた。この中で当時の建築家たちは対象の形を自由に変形したり、強調したりと自己表現を徐々に強めていった。
ここまでまとめてみて、建築史も歴史と同様に前時代を否定して過去を振り返りながら発展していっていることが面白いと思った。
また、それにも関わらず教会などの大規模な建物は何百年も掛けて建てられてきたという事実に人々の信仰心の重みや深さが感じられる。

・おわり

最後まで読んで頂きありがとうございました。こちらの記事は以下の書籍を参考にしております↓
「名建築の歴史図鑑 オーウェン・ホプキンス(百合田香織 訳)」



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