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復活の兆し?RIZAPからみえる複数の事業体を持つ企業の強み


今回取り上げるのはスポーツジム(フィットネス)産業で、RIZAPグループに焦点を当ててみようと思います。

数年前までかなり勢いのある企業だったので名前ぐらいは聞いたことある、とか近所で見た!という人も多いかと思います。一時期、ニュース新聞を賑わしていましたが、どちらかといえば、良いニュースというよりは悪いニュース・・・経営難に陥っているという話でした。

また、RIZAPは中小企業も含めた不採算化している企業を多く買収したことで知られています。その結果発生した、負ののれん(買収価額と買収対象企業の純資産時価を比べて、買収価額の方が安い場合に発生)で利益を嵩上げしていた、ということで会計のケースとしても取り上げられることがあります。

そのRIZAPグループ株式会社(以下、RIZAP)ですが、どうやら回復の兆しがあるようです。

今回はその理由を解き明かしていきたいと思います。


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こちらは2021年3月期の決算短信からのデータです。

売上収益は前年同期比より12.3%と減少したものの、営業赤字から営業利益に転換しています。税引前利益はまだ赤字ですが、当期利益は黒字を確保しています。黒字・・・といっても継続的に黒字を出せているわけではありませんので、まだまだ安定的な業績を上げているわけではありません。

なぜ黒字に転換出来たのか?その理由は事業内容の変更にありそうです。

まず全体の状況を確認してみるために有価証券報告書に記載されている連結経営指標を見てみましょう。

ライザップ

赤枠部分は私が追加したものです。こちらを見るとRIZAPの5年間のあゆみがわかりますね。

売上収益については最盛期は2019年3月期の210,905百万円でした。ただし、この時期、実は「負ののれん」というキャッシュの発生を伴わない未実現利益の計上で押し上げられていた側面があり、営業キャッシュフローは△10,429百万円でした。

後述しますが、RIZAPはパーソナルトレーニングジム「RIZAP」の他に美容、ヘルスケア、雑貨の販売まで行う多角的な事業体です。ですが、事業モデルとして、営業キャッシュで稼げていなかったことに違和感を感じるはずです。

なぜならば、トレーニングジムは、会員制ビジネスですから定期の現金収入が得られるはずです。かつ、小売業は原則、その場で決済(掛け売りはしない)でしょうから、確実に現金が入手できるはずです。

こうした手堅い事業であるにも関わらず、営業キャッシュフローが不安定だったことが2017年3月期、2018年3月期をみてもわかります。

つまり、会計上の収益は計上していたとしても、本業ではキャッシュを稼げていない状況であった、ということが読み取れます。これがRIZAPの経営危機をもたらしたわけです。

2021年3月期では大きな変化が読み取れます。売上収益は前年度(2020年3月期)と比較して下がっていますが、当期利益はプラスで1,556百万円になりました(ただし、税引前当期利益は△817百万円)。加えて、営業活動キャッシュフローはプラス23,126百万円と前年度と比べても大幅に増えています。

前年度(2020年3月期)から経営再建に取り組み、2021年3月期はその成果が表れていることが読み取れます。利益を計上しても、現金が入ってこないというスパイラルから抜け出す兆候が見られます。

ではどうした事業内容の変化があったのでしょうか。こちらは有価証券報告書に記載されている事業の内容の項目です。

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「美容・ヘルスケア」「ライフスタイル」「プラットフォーム」の3セグメントだったのが、2021年3月期より「ヘルスケア・美容」、「ライフスタイル」、「インベストメント」に変更することになったと記載されています。

「ヘルスケア」が全面押し出されていること、「プラットフォーム」が「インベストメント」に名称が変更されていることが特徴的です。

下に行くと個々の事業内容が書いてあります。

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これをみると、「インベストメントセグメント」は、グループ内での投資再建をする(整理することも含めて)企業が集まっていることが分かります。

2000年3月期の有価証券報告書では次のように記載されていました。

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プラットフォームセグメントは、グループ全体のバリューチェーンの基盤となる事業を行う、とあります。RIZAPグループ全体の広報企画、販売促進のためのセグメントといってもよいかもしれません。このセグメントが2021年3月期に廃止され、中核事業は、事実上2セグメントとなったと考えてよいでしょう。インベストメント事業と言えば聞こえはよいですが、不採算部門がここに集められているように思われます。

事業グループシナジーの創出を推進とありますが、具体的にはどういった内容なのでしょうか。

そこで有価証券報告書に記載されている「6.セグメント情報」を見てみましょう。

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意外だったのはライフスタイル・セグメントの売上収益が一番大きく、かつ利益が出ているということです。他の2セグメントは赤字です。

この傾向は前期と変わりません。2020年3月期のものを確認してみましょう。

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面白いのはライフスタイル・セグメントの利益率の変化です。2020年3月期は売上収益3.1%(3,108百万円/98,828百万円)に対して2021年3月期は3.9%(3,616百万円/93,013百万円)と上昇しています。

この一期のみで、判断はできませんし、事業の入れ替えも行い継続的なデータではないとはいえ、この間リストラクチャリングを進め、収益率を高める努力をしたことがうかがえます。

ヘルスケア・美容は、RIZAPの中核事業ともいえる、パーソナルジムの事業が入っているのですが、ここは2020年3月期、2021年3月期ともに赤字です。ただし、赤字幅は△113百万円と縮小しています。

インベストメント事業は赤字ですが、これは継続的な事業ではなく、整理縮小していく事業が入っていると考えれば、中核事業の2事業の期待はそれなりに今後もてそうです。

この辺りのより詳細な動向については有価証券報告書に記載されている(1)財政状態及び経営成績の状況の概要から読み解くことが出来ます。どうやら第1四半期(4-6月)においては、リアル店舗は影響を受ける一方で、ECに注力しているグループ企業の売上が伸びたことが書かれています。巣ごもり需要で、リアル店舗は影響を受ける一方で、小売りを中心とするライフスタイルは好調であったことがうかがえます(さらに下に行くと各事業の詳細についても書かれています)。

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RIZAPの状況から何を読み取れるでしょうか?実は、フィットネス産業は今大変苦しい状況にあります。特に大手のルネッサンス、セントラルスポーツは売上が急減し、赤字を計上しています(この点はまた次回触れようと思っています)。

RIZAPは多くの企業を買収したことが経営危機を招いたわけですが、結果的にはそのことによる多角化、つまり複数の事業を持っていたことが、経営再建を経てコロナ禍でもキャッシュ創出能力を向上させることに繋がったわけです。

今後、各事業のシナジー効果が発揮できるかどうかは、不採算事業の整理をスムーズに進められるかどうかが、現在の事業をより成長拡大の軌道に乗せていけるかどうかがキーとなってきそうです。




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