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夕闇骨董シリーズ          一章:首穴屋敷と幽霊骨董店     1話「インド哲学を学びインドで修行した俺は、結果たこ焼き屋になった」

「皆、こんあやし~
vtuber事務所ゴースト倶楽部2期生オカルト系Vtuber
バーチャル地獄出身で閻魔大王の孫娘
妖妖子(あやかし ようこ)だよ~
ようよう子じゃ無いよ?
ヨーヨー♪子でも無いよ、妖子だよ!
…コホン

それじゃ今日も夏の怪談配信始めるね?

最近はさ、本当に暑いよね?
物凄く暑くて…死んじゃいそうなぐらい暑くてさ
これはもう、死の感覚に現実味を帯びるぐらいの暑さだよ

これって、とっても怖い事だよね?

毎日何処かでさ、知らない誰かが夏の暑さに殺されてるんだよ
それって毎日何処かで人の無念が、人の悲しみが幽霊を生み出してるって事だと私は思うの
悲しい事だよね?怖い事だよね?暑いってだけで人間は死んじゃうんだよ?
でも皆さ、何処か他人事で、結局は画面の向こう側の話だって思ってるでしょ?
皆が目を逸らしてるだけで恐怖はとっても身近な物なのに

…私は不思議だな

こんな暑い日はさ、少しでも涼しくなるために怪談話をしようと思うんだ
皆、いいよね?

これはバーチャル地獄の友達から聞いたんだけどさ

ねぇ、首穴屋敷の首無し天女様って知ってる?
穴塚って地域で最近有名な都市伝説なんだけどさ
穴塚市の隣にはね、首辻町って町が有るんだけど、その穴塚と首辻の丁度境目にさ、古いお屋敷が有るんだ
首穴屋敷って名前のお屋敷なんだけどさ

そうだね気持ち悪い名前のお屋敷だよね

一体誰がそんな名前付けたんだろう…本当に嫌な名前だね
それでね、首穴屋敷の前を夜に通るとね、お屋敷から綺麗な歌声が聞こえてくる事が有るんだ、
でもそのタイミングで立ち止まっちゃ絶対に駄目なんだって

何で駄目かって?
それは勿論、…天女様に呪われちゃうからだよ…」

隣の部屋から聞こえてきた妹の声で叩き起こされる
大学でインド哲学とか言う、この国では金にならん勉学に励んだ俺は、当然の如く不景気な日本で通用する訳もなく
そんな就職活動の失敗から逃げるようにインドへ逃避して一年

「わたくし、宮藤 藤吉(みやふじ とうきち)…インドへ修行の旅に出たものの…なんの…何の成果も得られませんでした…」

と我が家へ華々しい凱旋帰国を果たしたら、
妹様こと宮藤 千花(みやふじ ちか)はVtuberなる職業に就いており、そこらのサラリーマンより余程稼いでいた…
その結果、当然の如く無職の俺が家庭内ヒエラルキーの最底辺へと就任したわけだ
だが、このまま妹の後塵を拝していて良いのか?と一念発揮して職探しに励んだ結果
無事に露天販売をしている「たこ焼き屋たこの口」でのバイト職をゲットしたにも関わらず、我が家でのヒエラルキーに変動は無かった
新進気鋭の人気Vtuberには勝てなかったよ…

「妹様よ、そろそろ時間だしバイト行ってくるわ」

スマホで時間を確認したらバイトへ向かうのに丁度良い時間だったので、配信中の妹様の部屋を横切る時に、それとなく声をかけて家を出る

……今日も外は、大自然からの殺意を感じるぐらいには暑いな

               
                     午後14時30分 穴塚市 穴塚駅前「満福通り商店街」 

「らっしゃいませぇーー、たこ焼きいかがっすかぁ?
  美味しいたこ焼きっすよぉ、出来立てのたこ焼きいかがっすかぁー。」

昼時のピークタイムを乗り切った事で客足は少なくなったが、これも仕事なので数少ない道行く人に声掛けをしておく
商店街とは駅を中心に北と南で別れてしまってる神社で今日は、月に一度の骨董市が開催されてるので普段より早い時間帯にも係わらず既に客足は途絶えてしまっている
それでも俺は、凶器のような暑さに晒されながら惰性で声を出しながらたこ焼きを焼き続ける

「藤吉ー!、今日は神社の骨董市にお客取られちゃったみたいだし、これ以上は稼げなさそうだから
 店じまいしちゃって良いよ、親父にも私から連絡しとくから、今焼いてるので最後にしよう。」

同じ店内で簡単な洗い物をしていたギャルが携帯片手に話しかけてくる、その棒キャンディー片手に携帯を弄る振る舞いは
オマエ…本当に洗い物してたか?と、そんな思いを抱かせるが
このギャル系ファッションに身を包んだ金髪の女は、俺の幼馴染兼上司の鈴木 優華(すずき ゆうか)
今現在俺の働いてる露天たこ焼き屋のオーナーの娘で有り、たこ焼き屋「たこ口」満福通り商店街路面店の店長様だ
そんでもって彼女が店長に就任と同時に出店した、この「満福通り商店街路面店」は
新人店長&初出店、そんな状態で初年度から他店舗の売り上げと比較するのも可笑しいレベルの収益を記録した
本店をも圧倒するレベルの売り上げを記録してしまい、そんな偉業を成し遂げてしまった彼女の発言権はうなぎ登りの天元突破状態らしい
そもそもオーナーの娘って事で備えていた潜在的な権力と、彼女が実力でぶち上げた実績という名の権力が合わさって無敵になったらしい
ちなみに、そんな実績も権力も手に入れた彼女の鶴の一声で、道端で世界に絶望していた俺は救い上げられたのだった
簡単に説明すると

「兄より優秀な妹なんざ、存在しないのだよ!」
と大見得を切って仕事を探したものの、大学卒業後に定職にも就かずインドで職業:旅人をしていた人間が
「インドで旅人してました、帰国したので仕事をください!」と言った所で
「じゃぁ明日から我が社で働いてね!」何て答えが返って来る訳もなく
妹様が「ねぇ兄貴、大学時代の知り合いに税理士とか居ない?今の流れだと流石に収入が多すぎるから、事務所が税金関係は税理士さんに依頼して、
ちゃんと処理しといてくだいさいね、って言ってけどさ…私基本的に内弁慶のコミュ障だから配信以外で知らない人に仕事の依頼なんて出来ないよぉ…」
と若干涙目になりながらの、懇願だかマウントだか理解に苦しむ妹のお願いに対して完全に死んだ目で微笑みながら
「兄ちゃんの大学時代の知り合いは、…皆ガンジス川を目指して旅立っちゃったんだ、ゴメンね」と意味不明な受け答えをしたり、
そんな完全に社会不適合者な烙印を連打で押されかねない状態の俺を自分の家業にコネ採用してくれた恩人で有り、
このギャルが

「藤吉ー、カラスって白いよね?」

と一言呟けば

「当然じゃないっすか!むしろ俺は白いカラス以外見た事無いですよ!」

と即座に返さなければならん程のレベルで、絶対的な上位者として君臨してる
そして当然の話だが、俺はここでも圧倒的なまでにヒエラルキーの底辺なのだ…以上、説明終了!

「はいよ、今焼いてるのでラストな、それじゃ閉店準備も今から同時に始めちゃうな」

「おっ、相変わらず藤吉はマルチタスクの男だね~、その才能はたこ焼き屋でこそ輝く才能だよ、それを見抜いた私って流石じゃね?」

「あぁー、そっすね」

そしてこのギャルったら優れた容姿と才能に恵まれながら、性格だけは少し残念な自分大好きっ子(ナルシスト)でも有る

…ふむ、今焼いてるたこ焼きで打ち切って簡単にゴミの処理して…掃除も同時進行で頑張れば15時ぐらいには終わるか?
そしたら最近ご無沙汰だった骨董市にも顔を出せるな…確か骨董市は16時までだったはずだ
仕事終わりで顔を出せても30~40分ぐらいしか時間は無いかもしれないが
それでも残り物には福があるって言葉通り、何か掘り出し物が有るかもしれないし、これは今から楽しみだ残りの仕事も頑張って終わらせよう
それにしても暑くて熱い、そんな熱量に意識を半分持ってかれ若干朦朧とする意識の中で、優華が普段通りのお約束な自画自賛を喋っているのは察するが、
店長様よ申し訳ない、今の俺にはツッコミに使える程の無駄な体力は残っていないのだ
そんな感じで適当に話を合わせながら仕事に集中する…今を乗り切れば骨董市だ、骨董品や古書の宝箱が俺を待っているんだ。

「ふふふ~、感謝したまえ、尊敬したまえ♪いずれ私がたこ焼き屋たこ口の経営権を掌握した時こそ、たこ焼きを世界のメジャーフードにして見せようぞぉ!」

「……そっすね」

「藤吉はさ、この後予定入ってるの?」

「…そっすね」

「それにしても今日は暑いねぇ」

「そっすね」

「藤吉は、私とたこ焼き屋をやるために帰国したんだよね?」

「そっすね」

「おっ、藤吉お得意の思考放棄の全肯定モードだな?」

「そっすね」

「そうだよねぇ、店じまいした後、藤吉は私の買い物に付き合ってくれるんだもんねぇ、丁度荷物持ちが欲しかったんで助かるよ~」

「そっす…じゃねぇ!、いやいや何で?俺予定有るって言ったよね?えっ言ってない?そこは「…そっすね」で察してくれよ」

朦朧とする意識の中で適当に返答をしながら仕事をしてたら、このギャル店長様はとんでもない事を言い出しやがった
過去に数回経験済みなのだが、こいつの買い物に付き合ったら最後
確実に骨董市の時間には間に合わない、それどころか、阿呆みたいに積みあがった洋服やアクセサリーの荷物持ちに就任させられる未来が確定している
そんな約束された絶望を回避し、無事に希望と浪漫に溢れた骨董市へ向かうため、俺は店の掃除準備をしながら頭脳をフル回転させる

「OK、OKそれじゃ、ちゃっちゃと仕事終わらせて買い物行こうね♪楽しみだな~」

「いや、だから話を聞いてくれ…俺は予定が入ってるんだって」

「ふ~ん、普段は仕事終わり精々が古本屋に立ち寄るかコンビニでお菓子買うぐらいで直帰する藤吉にしては珍しいね、
 ちなみに聞くけどさ、その予定って、どれぐらい大切な予定なの?」

見・張・ら・れ・て・る
訳じゃなく

この店長様は幼馴染だ、今も昔も家の方角が一緒のご近所さんなのだ、だから大体週5~6で一緒に働いて、
同じ時間に仕事が終わり同じ時間に同じ方角に向かって帰る、その結果俺の行動習慣を完全に把握されてしまったのだ
他の店員はどうしたって?
ウチの店長様は天才なので基本的に何でも笑顔でこなせてしまう、そこに他者の介入する隙間は存在しない
個で完成した天才は他人を基本的に必要としないのだ
それじゃ何で俺が採用されたかって?
それは勿論俺が彼女の特別だからだよ、言わせるなよ恥ずかしい……訳もなく
「昔からの顔見知りで、今現在無職で立場の弱い藤吉ならさ、気兼ねなく無茶ぶりできる丁度良い使いッぱになりそうじゃん?」
と言う、それはそれは心の温まる言葉を投げかけられた日の事を俺は忘れない
そんな基本的に傍若無人で人の心が解らん才能人間な店長様だが、別に性格が悪い訳でも鬼な訳でも無い、元々それなりに大切な予定が入っていたなら
「何が何でも私の買い物の荷物持ちをしろ」なんて我儘は言わないぐらいの常識と人間性は持ち合わせている
…だからこそ、俺はオマエのその常識と人間性に漬け込むぜ!

「そりゃぁ、…あれだ、勿論大切な予定なんだ、残念だったな大切な予定じゃ無かったら買い物委付き合うのもやぶさかではなかったんだが、
 今回はたまたま大切な予定だったんだ、いやぁ本当に残念だ…だから今回はゴメンな。」

若干の大袈裟なブラフを混ぜながら突破口を探る
俺はNOと言える日本人だ
上司からの暴虐なる理不尽には手段を問わず徹底的な抵抗をする

「何それウケる、相変わらず藤吉は嘘が下手だねぇ…あ~成程、大切な予定ってのは嘘ってか誇張だね?予定外に空いた時間、そんでもって藤吉の趣味と
 …どうせ仕事が早く終わるなら、骨董市にでも行こうかなとか考えてるんでしょ?」

「何故解った?名探偵?いやそこまで解ってるなら素直に店仕舞いしたら解散で…」

昔から勘が鋭く頭の回転が速い幼馴染は、俺の趣味嗜好や行動習慣を完全に把握してるらしく、基本的に隠し事や誤魔化しが一切の意味を為さない

「でもさぁ、予定外に空いた時間でさ、仕事が見つからなくて嘆いてた藤吉に手を差し伸べてくれた優しい幼馴染に感謝を示すのって、私は大事な事だと思うなぁ」

「いやいや、それは本当に感謝してるってば」

「こらこら、感謝を言葉で済ますような安い男になっちゃ駄目だぞ藤吉、感謝してくれてるなら態度で示さないと、ね?」

「…ッス」

まぁそれは言い換えれば、言い合い騙しあい
言葉の勝負で俺が彼女に勝てる可能性なんて、
そもそもが存在しないと言う事でも有るんだけどね

さて、仕事が終わったら荷物持ちを頑張りますか。


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