アイデンは毎日ティティの事を考えた #映画鑑賞文

夕飯作ってて包丁で指切った。痛いわ。

好きな映画について話そうと思う。

みうらじゅん原作・田口トモロヲ監督・宮藤官九郎脚本

「アイデン&ティティ」

銀杏の峯田和伸さん、中村獅童さん、麻生久美子さん、大森南朋さん、 マギーさん。俳優さんたちの演技は素晴らしい。人間臭い。

あらすじは、1980年代後半~90年代前半にかけてのバンドブームでデビューしたバンドが、世間の流れに右往左往しながら、自分たちの道を模索していく姿を描いた青春群像劇。少なくとも僕には群像に見えた。言葉足らずだけど、ある人が社会に生きる姿を通じて、伝えたいことが伝わってきた。これが僕にとっては共感できるものだったとしか言えない。映画は好きでたくさん見ているけど、いつ見ても今の自分と重ね合わせることが出来る作品は少ない。アイデン&ティティを見ると、今の自分が感じている苦しさとか悩みとかを峯田さん演じる主人公の中島が同じように感じていると感じる。

アイデンティティ。identity。自己同一性。自分とは何か。誰しもが抱える問題を、バンドマンという形に置き換えて表した映画。明確に「自分は~だ。」って言いきるのは難しいことですね。中島はロックが大好きだけど、好きであるが故に傷つき、周りの人たちを傷つけてしまいます。そんな彼の前に現れるボブ・ディランの幻は彼が憧れる姿であるんだけど、目を背けることが出来ない現実を突きつけてくる。自分が憧れている姿と現実の自分のギャップ。せちがらい世間に、社会の掟に、世界に、折り合いがつかない。上手くいくときは一瞬で、だんだんと上手くいかなくなる。一生懸命でも周りが冷たく見えて、ついついかっとなってしまう。周りはそう思っていなくても、だ。ディランが語る言葉は、シンプルで分かりやすく真理を突いてくる。

「君の立場になれば君が正しい 僕の立場になれば僕が正しい」

そのことが分かっているけど、納得できない。「そんなことがお前のすべてなのかよ。くだらねえ、帰れよ。」

自分が嫌いなんだよね、「思っている自分」とは違う自分が。でも生きていくためには、世間の流れに抗えない。精一杯やってるつもりでも、自分の思い通りになんかいかない。そんな世の中だ、いや、それが世の中だ。だから、時々どうでもいいやって思って、その場の感情に身を任せて、適当にやっちまう。そうやって終わった後に後悔する。僕と同じだ。他の人を羨んでも上手くいかないし、自分たちの生き方に疑問ばっかり覚えて、そして嫌になる。

「いまの一位はあとでビリっかすになる 時代は変りつつあるんだ・・・」

「どんな気がする 誰にも知られないってことは 転がる石のように・・・」

でも心の中にあるのは憧れ、理想だけだ。「僕はただ、あなたのような唄が唄いたいだけなんだよ。」

そんな彼も本格的に自分の生き方を考えるけど、失敗して衝突する。自業自得なんだけど、一番大切な人を傷付けてしまう。あとで後悔しても遅いことって誰にでもあるよね。でも、そうやってもどうやっても取り返しは付かないし、現実は厳しいんだ。生きていくって難しいことなんだなって思った。いや、これは僕も同じか。生きていくってそういうことなんです。

「自分をしつけられない人はもっと馬鹿だわ。」

そう、馬鹿なんです。中島も僕も、生きている人はどこかでみんな馬鹿。だけど、馬鹿だから一生懸命になれる。自分のそういう部分を押し殺している人でもそうだと思うよ。そうやって失敗しながら、大切なものに気付いていく。

「生きることは悲しいよ 生きることはさわぎだよ」

 悲しいね。でもね、悲しくても最後に気付けばいいんだ。そのチャンスを逃してはいけない。悲しくても楽しいよ。最後の最後にでも見つけられれば。

そのチャンスがいつかはわからない。僕はそれを二回逃したと思っています。どちらも自分が自分の事しか考えていなかったからです。四年半付き合った大学時代の彼女。適当で、先の事なんか考えていなくて、呆れられるまで気付かなかった。社会人になって付き合った彼女。一方的に別れてその後に大事さに気付いても遅かった。僕にとってのティティは、結局僕のせいでティティにはならなかった。

でもいいんだ。それも僕の生き方だから。尻を拭けるのは結局のところ自分だけで、その時の行動に責任を持つしかない。やっちまった後の対応も同じ。中島みたいにぶつけるか、それとも黙るか。結果は相手次第。自分が望まない結果になっても、相手を責めることはできない。

でも、自分自身がふさわしいと思う道に行かないと、ダメになる。自分がいいって思ってもそうじゃないこともある。逆も然りで、自分が良くないなって思ってても受け入れられたりすることもある。そんな風に吹かれて、転がる石のように生きていくしかないんだ。

「人は誰でも 旅を続けなければならない

 君が必要としているものは もっと他のものだ

 君はもうそれを見つけているはずだよ」

「 いろんな価値観の中で僕らは生きている みんな生きるのに一生懸命なんだ

 自分以外の価値観を否定してばかりじゃ何も生まれない

 じゃあロックの価値って何だ?自分らしくあること

 じゃあ、自分って何だ?」

この映画を観るといつも思う。僕らは誰もが一つひとつ形も重さも色も違う転がる石で、世間にはいつでもそれを半ば無理矢理にも方向付ける風が吹いている。自分が生きたい方向とは別に。でも、大丈夫だ。だって生きていれば多分きっと上手くいくんだ。

「みんなの心の中にも きっとロックは住んでる

 そのロックはきっと言うだろう

 やらなきゃならないことをやるだけさ だから上手くいくんだよ」

#映画鑑賞文

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