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ついに「保活」がドラマになった!/『男コピーライター、育休をとる。』第9話(保活回)を語る

僕(魚返洋平)の著書『男コピーライター、育休をとる。』がWOWOWでドラマ化され、7月9日から放送・配信がスタートした。
主人公・魚返「洋介」を瀬戸康史さん、妻の「愛子」を瀧内公美さんが演じている。
ノンフィクションエッセイである原作にドラマならではの脚色や創作が加わり、もうひとつの魚返家の話が誕生した。まるで平行世界に転生した自分たちを見るような不思議な感覚だ。

このnoteでは、「原作者 兼 視聴者」の視点で、ドラマの各話に沿って原作(実話)との比較を楽しみつつ、ちょっとした裏話なども話していきたい。ネタバレというほどのものはないけれど、一応、各話を観た後で読まれることを想定しています。

(本記事のサムネイル画像は第10話の場面写真を使用しています)

#9  魚返家の保活 前編

第9話と第10話は「前後編」仕立てになっており、洋介と愛子の「保活」が描かれる。2話合わせて30分に満たないが、それでもテレビドラマで保活そのものにこんなにフォーカスしたことは、かつてなかったんじゃないだろうか。たぶん。

原作でこれに相当するのは【第5章 わが家の保活体験記】と【第12章 続・わが家の保活体験記】で、それなりのページ数を割いている。

保活の顛末を、僕はできるだけ詳しくドキュメントしたかった。
ただ、具体的な保育園の名前を出すのは避けたい。かといって保育園をAとかBとかイニシャルなんかで呼んでしまうと、ただでさえ「説明」要素の多いテーマだから、文章が単調かつ退屈になってしまいかねない。
では、保育園たちにニックネームをつけてやるのはどうか?

なんでもいいのだが、なにか楽しくて派手なニックネームを、と考えた結果、「アカデミー主演女優賞の受賞者の名前」にすることを思いついた。
このメジャー感。深刻になりがちな保活の労苦も、ケイト・ブランシェットやナタリー・ポートマンやエマ・ストーンが(文字面だけでも)登場してくれれば華やか、かつ前向きなトーンで彩れるんじゃないかと思ったのだ。
保育園へとつづくレッド・カーペットが、見えた。

だがしかし、これがドラマでそのまま採用されるとは。
「ええっ、ほんとにそのままやるんですか?」と脚本を読んだとき驚いた。でも、思えばニックネームという手法がそもそも映像と相性が良かったのかもしれない。「保育園の擬人化」ができるのだから。

そんな派手なギミックは第9話からさっそく登場するが、あくまで名前を拝借しているだけで、実際にハリウッド俳優が登場するわけじゃない(そりゃ当たり前だ)のもちょっと面白い。

さらに、通常のドラマでは避けるであろうややこしい詳細情報。これらを人形劇で整理する手法も、Eテレばりに効果的だ。第2話の屋上のシーンと通じるものがある。

ほとんど本当、すこし嘘

そうしたトリッキーな演出の一方で、「保活激戦区」の過酷さ・シビアさについて劇中で描かれていることは、かなりリアルだ。

認可保育園を第30希望まで申し込める、というまるで誇張のような話も僕の住む地域の現実だし、「58園を見学候補にした」ことや、認可保育園が全滅だったことも、実体験。
認可外保育園に「手紙を書く」という非公式な手段も実際に試したわけだが、これがどの程度意味あるものか、いまもって諸説あり、謎は深まるばかりだ(このへんの話は、かつて「東洋経済オンライン」の記事にも書きました)。

ただ、東京都で保活を経験した人がドラマを観ると、すこしだけ「嘘」があることに気づくだろう。それはスケジュールについて。

ドラマでも原作同様、年度はじめ(4月)の入園を狙っている設定だが、その場合、申し込みから結果通知までの時間がこんなに短くはないということだ。

僕の場合、保育園見学を9月からスタートし、11月末に認可保育園の申し込み(認可外は年末から年始にかけて)。結果が分かるのは、年をまたいだ2月以降だった。つまり保活にはトータルで約半年を要したわけだけれど、ドラマでは脚色上、期間がギュッと圧縮されている。
洋介と愛子のドタバタも、そのぶん濃縮される。

こんなに大変だった保活だが、育児それ自体とちがって「ゴールがはっきりしている」ぶん、ある意味では気分転換になった面もあって、ドラマにも出てきたパン屋めぐりはその象徴だった。

僕の妻は、愛子の好物キムチラーメンには興味がないが、パンには目がない。完成したドラマを観た妻が、劇中に写ったパン屋さんを見て、瞬時に店舗(ロケ地)を特定していた。「23区内だったらだいたい分かる」とのことである。そういうものか。

細部についてもうひとつ。
劇中の「シュワルツェネッガーが保育士」というのは、映画『キンダガートン・コップ』を指す小ネタとして原作に書いたものだが、細川徹さんの脚本はここにわざわざ『キンダガートン・コップ2』のドルフ・ラングレン(僕はまったく知らなかった)をかぶせている。なんて細かな! 細かな川と書いて、こまかわさん、じゃなかった細川さん。

余談を重ねてしまったが、今回はいったんここまで。つづく第10話については次回、すこし真面目な話をします。

(つづく)
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