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行雲流水

何重にも厳重なロックをしたはずなのに、ふとした折に噴き出てくる忌まわしい記憶。

その『記憶』にモレナクくっついてきていたのは、体を貫く耐え難い『痛み』。

そうか…。
『記憶』と『痛み』が連動しているのがつらかったんだ。
そうだったんだ…。

耐え難い痛みは、よけいなオマケみたいなものだったらしい。
ようやく『痛み』と『記憶』が切り離されてくれたらしい。

『記憶』がつらいのだと思い込んでいた。
だから、思い出すのがツラいのだと勘違いしていた。

ツラいのは、記憶そのものではなく、モレナクくっついてきていた痛みのほう。

いろいろ腑に落ちた気がする。

つらかった。
自分の記憶に何度も押し潰された。

ようやく、いつでもそこに入り込める記憶になりつつある。
まだ少し、おそるおそるだけど…。
まだ少し、息を止めて身構えてしまいそうになるけど…。

少しずつ、懐かしい記憶へと変わりつつある。

子どもの頃、遊びに行ったおばあちゃんの家。
いとこたちと遊んだ冷たい川。
親戚揃ってワイワイ出掛けた夏の海。

つらい記憶が、そんな懐かしい記憶と同列に並んでいる。


ほんの少し温かくて、少し色褪せていて
ほんの少し懐かして、少し優しい。

封印する必要がない。不思議だ。

長い長い時間を苦しんだ。
抜け出せる方法はなかなか簡単には見つけられなかった。
抜け出せるはずがないと思っていた。

抜け出せるはずがないと思っていたものから抜け出した。
ホッと胸をなで下ろしている。大きな安堵感の中にいる。

でも、まだなんだか慣れない『安堵』。

『苦しさ』は自分にとっての当たり前のものとなっていた。
それはそれで慣れきっていた『重し』。

気づいたら外れてしまっていた。なんだか心許ない。
『重し』を肩に乗せていない私を、私は経験したことがない。
未体験の領域に踏み込んでいる。

自分の苦しみと向き合うことは、私にとっての当たり前の日常だったし、
そんな張り詰めた緊張感が、ある意味私を支えてきた。

今、自分の中を深くのぞき込んでみても、あまり苦しさは見つからない。

見つからないのが不思議で、どこかにあるはずなのだけど?…と
もっと前傾姿勢になって見つけようとしたりしてしまう。苦笑。

フワフワと心地よく漂っている私に慣れるのは、少し時間がかかるのか。

今はまだなんの気力も沸かない。疲れ切っている。
次の目標など、なんにも見えてこない。

それでいいのだと思う。
しばらくは心許なくゆらゆらと揺れていよう。

ここから先は未体験ゾーン。

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