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元バレーボール日本代表・越川優が北海道でのプレー続行宣言!東京五輪代表におくる言葉とは(廣岡俊光)

  いまをさかのぼること13年。男子バレーボール日本代表が、4大会ぶりとなる北京オリンピック出場を決めました。植田辰哉監督のもと、メンバーにはキャプテン荻野正二、山本隆弘、宇佐美大輔、石島雄介・・・当時大学生で代表入りしていた清水邦広、福澤達哉。そのなかでひときわ輝きを放つ選手がいました。豪快なバックアタックで得点をたたき出し、チームをけん引した越川優選手です。

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 その後、2016年のリオ五輪出場を逃した越川選手は、2017年ビーチバレーに転身。そして去年、北海道旭川市を本拠地とするV2・ヴォレアス北海道の選手として、3年ぶりにインドアバレーに復帰し、インドアとビーチの『二刀流』で東京五輪を目指すことを決意します。

 昨シーズンV2の全日程終了後に、ビーチバレー東京五輪最終予選への出場を思い描いていた越川選手。しかし、コロナ禍によるV1・V2入替戦のスケジュール変更によって、追いかけ続けた東京オリンピックへの挑戦は断念せざるをえませんでした。

(詳しい経緯はこちらの記事にまとめました)

 迎えたV1・V2入替戦は、あと一歩のところで敗退。チームは次シーズンもV2で戦うことが決まりました。そのなかで注目されていた越川選手の去就でしたが、7月16日、来シーズンもヴォレアス北海道でプレーすることが正式に発表されました。

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~越川選手コメント~
この度、選手として2021-22シーズンもVOREASにてプレーすることが決まりました。契約継続のオファーを早いタイミングで頂きましたが、たくさんのことを考え、答えを出しました。選手として、1人の人として、何がプラスで、どこで何をする事がプラスなのか。降旗GMともたくさんの話をし、ヴォレアス北海道にとっても、越川優にとってもプラスになる形を探り、今日に至りました。2021-22シーズンは、選手兼コーチ、チームディレクター(GM補佐)、アカデミーアドバイザーとたくさんの役職を預かることとなりました。そして、背番号も「7」を関根俊哉から、受け継ぎました。しっかりとそれぞれの立場での役割・責任を果たし、今シーズンこそはV1昇格に向けて、皆さんと共に進んでいきたいと思っております。2021-22シーズンも、ヴォレアス北海道共々、たくさんの応援よろしくお願い致します。

 今回「契約合意会見」が、UHB北海道文化放送の局内で行なわれました(UHBの一員としてクラブと越川選手に感謝します)。北海道で2年目のシーズンを過ごすことを決意した理由、そして東京オリンピックを戦う日本代表、ともに戦った仲間たちへのおもいなどについて、会見後にホッと一息ついていた越川選手に聞いてみました。ぜひ最後までご覧いただけるとうれしいです。(聞き手・著:廣岡俊光)

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■ ヴォレアスでプレーを続ける理由

――会見おつかれさまでした。来シーズンも北海道でプレーを見られるのはとてもうれしいです。まずは、引き続きヴォレアスでプレーすることを決めた理由を教えて下さい。

 はい。進路を決めるにあたって、自分で何をやりたいというのは正直ありませんでした。一番大事にしているのは、ぼくを必要としてくれているところで働きたいということ。それがチームから伝わってきたのが大きかったですね。

――会見では選手以外にも、コーチ、チームディレクター(GM補佐)、アカデミーアドバイザーとしての役割を担うことが発表されました。そういった部分でも必要とされていることを感じましたか?

 そうですね。チームから求められることと、自分ができることが一致しました。仮にこれをやってほしいと言われても、できないことはできませんと言うしかありません。あとは選手以外の部分に関しては、現役をやめたあともプラスになると思っています。

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――北海道で迎える2度目のシーズン、なにをやっていこうと考えていますか?

 まず選手として日々成長していくのは当たり前。それに加えて昨シーズン、チームを作り上げていくなかで、足らなかったこともたくさんありました。メンバーが変わって方向性が変わるところもあると思いますが、去年やりきれなかったことを今年はやっていきたいですね。

――やりきれなかったこととは、具体的にはどんなことでしょうか?

 昨シーズンはチームとして戦いきれなかったと思っています。チームとは、フロント、スタッフ、選手、全部ふくめてという意味です。

 外国人監督(エド・クライン)なので、選手と監督のコミュニケーションは課題です。お互い歩み寄らなくてはいけない。監督だからとか選手だからとか、どっちが上で、どっちが下とかは関係ありません。それぞれの役割をまっとうして結果を出していくためには、もっとコミュニケーションを取らなくてはいけないと思っています。

 やっているつもりでも方向性が違うからあわないとか、お互いいいものを持っているのに、それを繋ぎあわせられないのはもったいないですよね。お互いが最大限のちからを発揮する、お互いに理解し合う、そこから生まれるプラスアルファが大事です。

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 コートのなかには6人しかいないですけど、1+1+1+…ではなく、どこかで掛け算があって、そこに監督の知識が入ってきて、というのがチームだし、バレーボールはそういうものだと思います。掛け算ができるチームにしていきたいです。

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――次のシーズンにむけてチームの顔ぶれも変わりましたね。

 このオフに創部当初からのメンバーが減りました。彼らが作ってきてくれたものは、間違いなくこのチームの土台になっています。ただ変えていかなきゃいけないところは絶対にあって、変えるためには、考え方のちがう人間を増やす必要があります。

 ヴォレアスにきて感じたのは、創部当初からの選手が多くいて、彼らが強い思いを持っているということでした。それは大事なことです。ただ変革していこうというときには、そこに固執しない柔軟な考え方を持っていなければいけない。選手とフロントのあいだにも、考え方の違いがあったと思います。それをひとつにしていくには、考え方を変えられる選手が必要。そういう転機を迎えていると感じています。

――『考え方を変えられる選手』に越川選手自身がなるということですか?

 いや、そこは自分ではないですね。自分は、そういうことが大事なんだよ、ということを選手に伝えられる人間だと思ってます。

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――では、変えられる選手はいまチームのなかにいますか?

 いますよ。でもみんながそれを感じていないといけないと思います。選手もフロントも変わらなきゃいけない部分がある。軸がずれなければいいんです。大きい幹から枝葉が分かれたその先は、それぞれが個性を生かすところ。でも個性だけじゃダメ。それを監督やコーチ、フロントもそうですし、選手にも理解してもらわなきゃいけないですね。

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――越川選手にとってキャリアのなかで初めてV2というカテゴリーで送ったシーズン。1年間戦ってみて何を感じましたか?

 チームによってのレベルや目指しているものの差が、V1よりもV2のほうがありました。だからヴォレアスのようにV1に上がりたいと思ってやっている選手・チームと、そうではないチームのあいだに、バレーボールのレベルの差ではなくて、考え方の差があるなと感じました。だからV1よりもV2を組織していくほうが難しいんだろうなと。

 試合をやっていても、ネットをはさんだ反対側のコートの選手との温度差も感じるし、うちの選手たちもけっして一流ではないから、相手に引っ張られそうになるんです。逆に、相手がV1のようなチームだったらこちらが触発される。だから天皇杯や入替戦は、あれだけのパフォーマンスが出たと思うんです。

 ヴォレアスの選手たちは持っている能力は高いけど、経験がないから相手に影響されやすい。そういったところは一番注意していましたね。お客さんが入った試合なら『試合を見せる』という目的ができるけど、お客さんがいないリモート試合は、そこをコントロールするのが大変だなと思いました。

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――今シーズンもV1昇格を目指す戦いになります。前のシーズンで入替戦を経験したことをふまえて、どんなシーズンにしたいですか?

 今回入替戦を経験したメンバーがぼくをいれて10人いて、その10人がどう感じて、どう行動していくかが大切だと思っています。思いは人それぞれだし、考え方もいろいろあるけど、それをチームとして1つのベクトルに向けて合わせていくのが、キャプテンやベテランの仕事。それぞれの思いの交通整理が自分の役割だろうと思っています。

――もちろん整理やまとめていく役割も大切ですが、まだまだプレーでチームを引っ張っていってくれますよね?

 それは・・・時と場合をみてですね(笑)。でも自分がそれをやっているようなチームだと勝てないと思っています。そのへんはうまくまわりを触発したいですね。

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 監督も5年目になるので、ずっとやってきたメンバーは良くも悪くも慣れています。でもそれだとチームに化学変化が起こりません。どんな強いチームでも続けて勝つのは難しいし、絶対にいつかは負ける。ぼくも何度もいろんなケースを見てきました。勝っている、うまく進んでるときこそ、プラスの化学変化が必要だと思っています。

 仲良しグループである必要はありません。でも目標に向かって進む道は、一緒じゃないといけない。そこに向かっていけない人間はプロじゃないと思っているので。目指すものを共有できるチームじゃないと、入替戦には勝てないと思います。

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■ 北京五輪をともに戦った仲間たちへ

――東京五輪、いよいよ開幕です。北京でともに戦った清水邦広選手が、最年長で代表入りを果たしました。一方でおなじく北京五輪メンバーの福澤達哉選手は、残念ながら代表から外れ、現役引退を発表しましたね。

 清水はチーム唯一のオリンピック経験者だから、試合に出る出ないに関係なく、チームをうまくコントロールしてくれるんじゃないかなって思ってます。ああいう、ちょっとふざけてるやつですけど(笑)。でもやるときはやるやつだから。

 北京オリンピックに最年少の大学4年で出て、そこからいま最年長になって、いろんな思いがあると思うんですよ。代表からは外れてしまったけど福澤と一緒にという思いもあっただろうし・・・それはそれ、これはこれだとぼく自身は思っているけど、いろんな思い、いろんな期待がありますね。

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 自分は日本代表をあきらめた・・・ビーチも含めて、オリンピックを目指すという道からは外れました。だからこそ、彼らがそこの道に居続ける理由は、もちろん自分にもいままであったからよく理解できます。だからこそ福澤は、今回代表から外れたことで引退という決断をしたのかもしれない・・・真意は直接聞いていないので分からないですけど。でも、そこにかけてきた選手たちだと思っているので。

――福澤選手はブラジル(2015/16シーズン)、フランス(2019/20、2020/21シーズン)と、海外でプレーしました。イタリアに渡った越川選手と同じく、キャリアの中で海外に舞台を求めた選手のひとりです。

 2014年に日本代表のキャプテンをやっている時に、福澤が副キャプテンで、2人で話す機会がたくさんありました。その時から、いつか絶対に海外に出てやりたいって言ってましたよ。そういう思いを持って海外でプレーする選手たちが、ぼくより下の世代にはいます。(石川)祐希、マサ(柳田将洋)、福澤・・・

 ぼくが一番大きいと思うのは、代表が海外クラブ所属を認めてくれるようになったことです。これまでは、選手個々のことよりも、代表のスケジュールを守れるか、合宿に参加できるかとか、そういうところが重要視されていました。

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 ぼくは自分自身のことを、代表合宿に参加できなくても、それでも必要だとは思われなかった選手だと思っています。環境もレベルも違うから、いまの選手たちと比べることはできないですけど。いまは理解が進んでいますよね。そういったことが、世界と戦う中でプラスに生きてるんじゃないかなと思っています。

――今後、日本代表の中心が海外組という、サッカーのような状況がバレー界でも起こりうるでしょうか?

 いま代表選手で海外でプレーしているのは(石川)祐希だけですよね。古賀太一郎や川口太一ら、海外に行く選手はいました。レベルに関係なくいえば、アジア圏でプレーする選手はいる。でも代表となると福澤、石川、柳田くらいですよね。

 でもことし、西田(有志)や関田(誠大)が海外に行くことで、やっとサッカーのような形に近づく気がしています。代表で結果が認められて、海外クラブでプレーして、戻ってきて日本代表でプレーするという・・・自分が代表に入っていたのは10年前。時代は変わりました(笑)。

※筆者注    西田選手については複数メディアによって、バレー界の最高峰、イタリア・セリエAのヴィーボ・バレンティアへの移籍が報じられている。同じく関田選手についても、ポーランドのルビンへの移籍が報じられている。

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■ 東京五輪を戦う日本代表へ

――これまでだれよりも五輪に強い思いを持って戦ってきた越川選手の目には、いまの男子日本代表はどう映っていますか?

 いちファンの目線で「どんな戦いをしてくれるんだろうな」という期待する思いが強いですね。(石川)祐希と高橋(藍)くんは、同じポジション(アウトサイドヒッター)として気になります。北海道出身のリベロの山本智大選手も。北海道のテレビ局としては、代表に入ってくれてよかったですね(笑)。

 やっぱりオリンピックって日本人にとって特別な大会ですよね。オリンピックに地元選手が出るとなると、県やまちをあげて応援しようとなる。競技に関係なく『日本』を応援してくれる。それってオリンピックだけだと思いますし、そういった思いを感じられる選手はオリンピアンだけだし、それを背負って戦えるのもオリンピアンだけです。

 彼らには楽しんでほしいですね。ぼく自身オリンピックに出て感じたことがたくさんありました。それをこれから先の人生にいかしてほしいという思いが強いです。

――さいごに、東京五輪を戦う日本代表へのメッセージをお願いします。

 (石川)祐希はぼくが日本代表でキャプテンをやっていた時の、1年目の選手。それがいまやキャプテンを務めている。すごく期待していますし、やってくれるんじゃないかと思ってます。

 祐希だけではなく、自国開催のプライドを見せてくれる選手たちなんじゃないかなと思うんです。そういうプレッシャーに強そうな選手が多いなって。完全にファン目線(笑)。さまざまなプレッシャーをプラスに変えてくれるんじゃないかなという期待をしながら、見守りたいという思いです。

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