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【UW映画感想】#5『ザ・キラー』【芳賀隆之】

“お茶目おじさまの殺人ロードムービー”

待ってました、デビットフィンチャーの久々の新作。
フィンチャーと言えば、言わずと知れたスリラー/ミステリーの巨匠で、セブンやファイトクラブ、ソーシャルネットワークが有名ですね。映画フリークによるベスト映画に軒並み名を連ねる映画ファン唸らせの名匠。かく言うわたくしももちろん、敬愛しております。

さて、ネトフリと専属契約してからの2作目の本作。配信日に見させていただきました。結論から言うと、めっちゃ好き。やっぱりこの人、サイコー。
でも賛否わかれる内容です。何せ淡白。退屈。映画的カタルシスもほとんどない。主演のマイケルファスベンダー以外にほとんど登場人物はいないし、劇中ずっと一人称語りをする独特なスタイルは、近年の殺し屋映画とは真逆をいく、実験的な趣を感じます。

けれどもそこはフィンチャー。
映像に迸る美的センス。
非常にミニマルな絵作りなのに、映像自体はゴージャスでリッチ。
とにかくスマートなんですよね。余計なものは一切なく、出てくる美術や衣装が本当に洗練されている。だから、いくら淡白でも見ていて気持ちいいんです。
気分があがるんです。削ぎ落とされてるからこそ役者の表情や仕草がキリッと際立つ。初期の作品に比べると絵作りにおいてはさらに洗練されていて、もう、キレがすごいんだよね。
150キロのストレートなのに、めっちゃ早く見える藤川球児的な。
昨今映画は2時間をゆうに超える作品が多い中、ほぼ2時間でピシャって抑えてるところも彼の意匠を感じる。
音楽・音響の使い方もスマートで、特にお気に入りは冒頭殺人に失敗して逃げるシーン。逃走という緊迫するシーンなのに、美しいアンビエントミュージックとスムーズな電動バイクのエンジン音が見事に調和してビューティフル。(なんと美しい夜のパリ!)。
でもでも、カット割やらアングルやらで、ちゃんとヒヤヒヤする。
劇中歌がTheSmithだけなのもサイコー。
他に言及したいところは沢山ありますが長くなるので割愛。

いわゆる一人称視点の内省的な映画なので、静かな空間でひとりゆったり鑑賞するのがおすすめ。そのスマートさに感化され、見た後ちょっとだけ所作が美しくなったりしちゃうかも。

ちなみにこのフィンチャー監督。テイク数が多い事で有名で、多い時には1つのカットに100テイクもするんだとか。完璧主義たる所以。テイク数が多いで有名なのがもう1人。スタンリーキューブリック監督。彼もまた役者泣かせの監督である。しかし、だ。なぜキューブリックが何テイクも撮るかと言うと、「役者をどう動かすか演技プランが思いつかない」かららしい。ある種役者任せの演出なしである。そんなフィンチャーとキューブリックには共通点があり、いわゆる映像演劇の学校の出自でなく、フィンチャーはイラストレーター/アニメーターであり、キューブリックは写真家。役者がどう動くかよりも、絵をどう作るかを重視してるところが、共通している。だから彼らの作品は、ビジュアルが抜群にいい。と勝手な解釈で2人を括ってみました。

さて、せっかくフィンチャーに触れたのだから次回も彼の作品についてレビューしようかと思います。

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