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海が部屋から溢れて


♫ANANT-GARDE EYES 「色のない放課後」





海が。
いつの間にか溢(あふ)れていた。
少女の部屋から。

水位が、
ベッドより、
勉強机より、
本棚より、
窓より、
高くなっていく。

本とノート、
鉛筆とボールペン、
ぬいぐるみと枕が、
水の中で浮かんでいる。

ついに外へ溢れてゆく。
水位が上がってゆく。
街が水没してゆく。

知らない生物が泳いでいる。
何故だか怖くはない。

深い青色のクジラ。
少女の閉ざされた瞼。
そっと手を伸ばす。
温度を感じない滑らかな体に身を寄せる。

激流に包まれる。
もしかしたら連れていってくれる。
もしかしたら。

街ごとのみこまれてゆく。
海は水槽から溢れる。
教室から溢れる。
小さな惑星から溢れる。

境界線から朝日が昇る。


窓から差し込む光が少女の頬を照らす。
朝日が昇ってゆく。
潮が引いてゆく。

眼角から、海が一滴溢れ落ちる。


2023.11.16  星期四  ☀︎
(中学時代の点描画課題 題名:深海恐怖症)

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