カタンコトン
古い車両がゆらゆら、カタカタ。
前後に、左右に、上下に、くるくる回って。
微かに誰かの甘い香水の匂いが鼻を刺激する。
カバンに入っている携帯が鳴った気がする。
眩しい気がして、瞼をゆっくりとあげる。
どこに向かっている?
僕らは街を抜けた。
森を抜けようとしている。
窓から見える濡れた黄緑が五感を潤す。
まるで夢の中にいるようで、僅かに霞んでいる。
水が束になって、僕の心の上を這うようにして流れていく。
心は砂漠に向かっている。
僕は一人で電車に乗っている。
もうずっとずっと、ずっと昔から乗っている気がする。
昨日だったかもしれないし、今朝だったかもしれない。
僕は何かを探していた気がする。
何かを求めてこの電車に乗った気がする。
だから君に出会えた。
だからあの子は少し前の駅で降りた。
だから今は一人で座っている。
雨が濡らし続けるように、僕は電車に乗り続ける。
どこに向かっている?
僕は一人で僕を探しに行く。
2024.5.1 星期三 雨
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?