見出し画像

空白越し




僕はいつもあの窓際の席に座り、窓の外を眺めている。

誰かがドアをノックするのを待っている。

ノックされたら、少し浮き足立って、ドアを開けに行く。

ちょっと待ってね。今すぐ。

ドアの向こうの君を目にして心が和らぐ。

ドアをかたどった空白越しにお話をする。

背後の窓で太陽が傾いていくのを感じる。

辻褄合わせの言葉が満たしていく。

ボタンをかけ間違えないように細心を払う。

遊びに行こうだなんて言って手を差し伸べてくれる。

その手を何よりも残酷だと時に思う。

しかしこの部屋は寒い。寒さに慣れてしまっている。寒さは僕の中にある。

ごめんね、遊びには行けない。

その手を僕はとれない。

それでもいいと言うのなら、もう少し話そう。

もう少しだけ。

でもやはり、この部屋は寒すぎる。

君には太陽が落ちてしまう前に行ってもらわないといけない。

寒さで凍えてしまわないように。

さあ、行っておいで。

辻褄合わせは辻褄合わせでしかない。幸せは仕合わせでしかない。

太陽が落ちる。僕はドアを閉める。

空白が塞がれる。

僕は窓際の席に戻り、窓の外を眺める。

誰かがドアをノックするのを待っている。


2023.12.4 星期一 晴れ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?