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常勤監査等委員2年目を振り返る

2022年1月に常勤監査等委員に就任し、今年で2年目。
昨年の年末に、以下のnoteで1年目の仕事の振り返りをしました。

今年も備忘録的に2年目の振り返りをやっておこうと思います。


はじめに

2023年に会社が東京証券取引所に上場しました。

氷河期世代で29歳までほぼフリーターだった人間が、そこから20年間、バックオフィスで七転八倒し続けてきました。
特に経理を中心としたキャリアパスを考えたとき、上場企業の経験が転職市場での評価を高めるためと思い、どうにか上場企業への転職の可能性を探ってきました。
しかし、学歴もなく、職歴もパッとしない上場企業未経験者が上場企業へ転職するのは、容易ではなかったのです。

では、IPO準備企業に入って上場できれば、結果的に上場企業の経理経験が積めるではないか、という博打的思惑で、IPO準備企業に転職しました。
今勤めている会社がIPO準備企業としては2社目ですが(前職はIPO断念)、まさか取締役常勤監査等委員として上場を経験するとは思ってもみませんでした。
上場してから最初に出版された四季報を購入し、自分の名前が載っているのを見て、上場企業の監査等委員としての実感と責任感が湧いてきています。

今年はとにかく上場審査の思い出がいっぱいですが、その前に、監査等委員の1年目の経験を踏まえて、公にできる範囲で2年目を振り返ってみたいと思います。


2年目の監査等委員活動の振り返り

前記noteに記載したとおり、1年目で決めたことは、自分らしい監査等委員のスタイルを確立することでした。

具体的には、以下のようなことです。

「社内の現状把握やリスク情報の収集に努め、得たものを私なりに分析・評価し、監査等委員会でそれを共有・議論することで、非常勤のみなさんが適切に判断できるインフラを作ること」

2年目は、手始めに1年目の監査業務の改善を心がけました。

2年目で最初の監査等委員会で、非常勤監査等委員のみなさんに、私の職務執行に関してご意見をお伺いしたところ、よりタイムリーな情報共有が望ましいとの声をいただきました。
そこで、毎月定例の監査等委員会の招集通知時に、前月一月分の私の監査活動に関する資料提供を行っていたのですが、それを週次の資料提供に変えました。
言われてみれば、一月分の監査活動の根拠資料はそれなりの量になりますので、それを一度にドンと共有されても目を通すのは確かに大変です。

また、新しい取り組みとして、社員同士の業務チャットや雑談チャットのやり取りに毎日目を通すようにしました。
当社は全社員リモートワークが中心で、連絡にはチャットを多く使用しています。
倫理感や経営者の姿勢などが影響する組織的風土は、内部統制の基盤として重要視されています。
経営理念やコンプライアンスに反した行動や意識が見え隠れしていないか、これらのチャットでアンテナを張っていました。
また、チャットによく「いいね」をスタンプしていたので、社員の皆さんに「いつもスタンプをくれるukakさん」と、私の存在を認知してもらうことができました。
世の中のコミュニケーション強者の監査役の方々と違い、コミュニケーション下手の私(ストレングスファインダーの34の資質の最下位がコミュニケーションという体たらくぶり)としては、呑みニケーションのようなものを介さずに、社員一人一人に名前を憶えてもらえたので、これは嬉しい副産物でした。

月1回の定例の監査等委員会では、私は常勤監査等委員なので、議長としてファシリテートしています。
定時取締役会の直前に監査等委員会を開催し、取締役会の決議事項や報告事項について事前に確認します。
私から各事項の内容について、非常勤の社外監査等委員の方々に一通り説明するのですが、あえて巧く詳細に説明し過ぎないようにしています。
(もともと話すのが不得意なので自然とそうなるのですがw)
その方が社外役員の方から質問や確認したい事項が出て来易いようなのです。
しかし、議長役に大分慣れてきたとはいえ、コミュ障ゆえに毎回ドッと疲れます。


上場審査の振り返り

上場審査から上場までの大まかな流れは、以下のように進みました。

証券会社の中間審査→証券会社の本審査→東京証券取引所へ上場申請→東京証券取引所の上場審査→上場承認→上場

証券会社と証券取引所ともに、監査等委員が質問に対応する機会が何度かありました。

①証券会社の中間審査

監査等委員会による質問書回答と、その回答書にもとづく常勤監査等委員へのヒアリングがありました。
質問内容は、どんな会社でも共通しているような、以下のような一般的な内容が多いのではないかと思います。

  • 監査等委員就任までの経歴

  • 監査等委員就任の経緯

  • 常勤監査等委員の出勤状況

  • 他社との兼任状況

  • 監査等委員会の職務執行の環境状況

  • 取締役会の相互牽制機能に関する見解

  • 取締役会や監査等委員会での意見・指摘等の内容

  • 経営者の法令遵守に対する姿勢に関する見解

  • 重点監査項目を設定した理由

  • 認識しているビジネスリスク・内部統制リスクについて

  • 代表取締役や業務執行取締役等とのコミュニケーション状況

  • 監査法人や内部監査部門との連携状況

  • 指摘事項の改善状況 など

②証券会社の本審査

監査等委員会による質問書回答と、その回答書にもとづく監査等委員全員へのヒアリングがありました。
会社の状況において大きな変化がなければ、質問内容は中間審査とほぼ同様になるのではないでしょうか。

③東京証券取引所の上場審査

監査等委員会による質問書回答と、常勤監査等委員と独立役員へのヒアリングがありました。
質問書はおそらく各社でかなり内容が違うのではないかと推察されるので、質問項目については記載は控えます。
また、ヒアリングの内容は必ず質問書に対する回答書を基にしたもの、というわけでもなかったです。
質問書とヒアリングのそれぞれにおいて、証券会社からの一般的な質問と比べて、内容が深掘りされており、感じるプレッシャーが強かったです。
会社の事業状況や内部管理体制、監査等委員としての社内外における役割について十分に理解し、日々監査等委員としての活動をしっかり行っていないと答えられないような、突っ込んだ質問内容が多かった印象です。

④東京証券取引所の社長説明会

社長、CFO、私(常勤監査等委員)が出席しました。
主に社長と私へのヒアリングで、質問項目数としては社長が7割、私が3割くらいだったと思います。
(東証の廊下のカーペットがフカフカで、ドラマ「半沢直樹」に出てくるような会議室に通されました)


3年目に向けて

上場準備の中で、監査等委員という役割を担うにあたって、特に肝に銘じていたのは、「上場するために監査をやっているのではない」ということでした。
つまり、何か問題を見つけ、その結果上場が延期になったとしても、問題を明るみに出すことを躊躇してはならない、という覚悟を持たなければいけないと考えていました。
全社一丸となって内部管理体制を築き上げてくれたおかげで、ありがたいことにそのような事態が起こることはなく、無事上場を果たすことができました。
しかし、今後は上場企業という社会の公器としての責任が加わるため、監査等委員監査もそれに合わせてレベルアップしていかなければなりません。
さらに、上場審査のような明確に評価される機会もないため、自分で自分を律し、精進していく必要があります。
今度は上場企業としての監査等委員監査について五里霧中状態ですが、情報収集と勉強に励んで取り組みたいと思います。

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