見出し画像

外見は口ほどに物を言う。カケラ/湊かなえ

手元に流れるエンターテイメントには必ずと言っていいほどイケメンや可愛い女の子が登場する。
顔が整っているとだけ分かる初対面の人が小さい画面の中で恋愛を論じてたり、馴染みのないおもちゃで遊んでいたり、高そうなジャケットの襟を正しながら世の中を煽ってたりしている。

白く発光している眩しい笑顔はファンに向けられたものであり、たまたま出会ってしまった私にとっては、人生が楽しそうな人が楽しそうに人生を送っている顔の他ならず、「くそうイケメンめ…」と劣等感に駆られながら親指が自然と動き、たった20秒にも満たない世界で失笑してしまえば、さらなる劣等感が襲いかかる。

だが劣等感が落ち着いてくるとその初対面イケメンに不思議と親近感が湧いてくる。なぜか、それはイケメンだからだろう。優しそうな目をしていれば、優しそうな人という印象が生まれ時間をかけずに優しい人というレッテルを貼る。
またイケメンの場合、鋭い目つきをしていても、怖そうから怖い人にならず、なぜか強そうな人に換言され、さらになぜか男らしい人になってしまうことが多い。優れた外見はどう転ぼうと必ずプラスの印象を引き連れてくる。その逆は言うまでもない。

外見に根付くその人の印象。
しかしそれは真実ではなく個人が勝手に描いた他人の物語に過ぎない。

美容外科医の橘久乃は幼馴染みの志保から「痩せたい」という相談を受ける。カウンセリング中に出てきたのは、太っていた同級生・横網八重子の思い出と、その娘の有羽が自殺したという情報だった。少女の死をめぐり、食い違う人びとの証言と、見え隠れする自己正当化の声。有羽を追いつめたものは果たしていったい――。周囲の目と自意識によって作られる評価の恐ろしさを描くミステリー長編。
あらすじより

橘久乃は美容クリニックの院長を務める傍らメディアにも多く出演しているカリスマだ。ある日客として現れた同級生の口から出た「横網八重子」の名前に橘は何かを察し、様々な人間と連絡を取っていく。
話し相手が彩り豊かでとても面白い。橘の独白は最初と最後に講演口調で書かれているだけで、作中読者は彼女の立場で聞き役に徹することになる。

湊かなえ著はだいぶ久しぶりで忘れていたが確かにこんな作り方だった。最後に読んだのは「白ゆき姫殺人事件」で、当時大学生だったはずだ。内容伏線オチ全て忘れてしまったが(つまらなかったからではなくフツーに面白かったから忘れたのだと思う)独白のように怒涛の会話を綴りつづける書き方、あの"語りすぎ"世界観が特徴的だ

この物語も湊かなえお得意の一つの出来事が多角的に語られるスタイルをとっている。提示された謎が段々と紐解かれるという意味ではミステリー小説らしいが、ここには絶対的な正解が最後に待ち受けているわけではなく、どちらかと言うと最後まで真実がわからないまま終わる。語られた真実は他者に否定され、そこでさらに語られた真実はまた次の他者に否定される。なのでミステリーとしては少し物足りなかったが、まぁフツーに面白かった。
あと女性作家がルッキズムの地雷原に踏み込んでいく姿は頼もしい。

女性はみんな美しい! とか言いながら、そういうのに縁がなさそうなおばさんたちが横断幕やプラカード持って、ミスコン廃止運動していたんでしょう?  
そんなわけあるか、っての。
p.52

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?