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ヨーロッパ退屈日記


俳優としてヨーロッパに長期滞在した著者は、当地での見聞を洒脱な文体で綴っていた。上質のユーモアと、見識という名の背骨を通した文章とはこのことだな。サブタイトルの〜この本を読んでニヤッと笑ったら、あなたは本格派で、しかもちょっと変なヒトです〜がとてもわかる気がした。正直クスッとしてしまう。語学力と幅広い教養があるから表現できる、そんな絶妙な感覚がとてもツボだった。

山口瞳は本書をこのように推した。「私は、この本が中学生・高校生に読まれることを希望する。汚れてしまった大人たちではもう遅いのである」。

『バックという言葉には僧侶という意味があるのだそうである。』

『ビールのジョッキの把持は左側にこなくてはならない。手の甲の指の付け根のあたりに乗っかる感じ、これが純正ドイツ調の正しい握り方である。』

『格式の高いレストランでは、いいお酒というものは、必ず幾分か飲み残しておくのが不文律というものである。それを少年の試供品にするわけだ。』

『病的である、ということが芸術家の重要な資質である。』

『第一段階、音楽が無意味な冗長な精神的圧迫であることをやめて、美しく愉しいものとして姿を現す。第二段階、演奏の巧拙を聞き分けるようになる。第三段階、楽器を習う。』

『ある場面を、君が演じる場合仮に十の動きが必要だったとしよう。これを五つの動きで演じることを考え給え。五つで演じられるようになったら、三つの動きで演じることを、更に一つの、更に全く動き無しで演じることを考えることだ。』

『紳士として、最も失ってはならないもの、それは心のゆとりである。』

『自分の嫌いなものをあれこれ考えるのはとても愉しいことです。美的感覚と嫌悪の集積である、と誰かがいったっけ。』

『自分の権利が少しでも犯されそうになろうものなら、ただちに冷たい叱責をまなざしに浮かべて、激しく抗議してするに違いない振幅の狭さが感じられて気が許せない。』

『週刊誌と香水入りおしぼりの国、男が女よりも先にタクシーに乗り込む国、折角の風景を無数の広告ですっかり台無しにしてしまう観光国、下水もないのにテレビだけは7つのチャンネルを持つ国、日本。』

『予算がない、計画性がない、技術不足、お役所仕事などといってみるより先に、煎じつめればわれわれの無関心が悪い道を作っているのだ、という事実を再認識すべきではないでしょうか。』

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