「リズと青い鳥」に学ぶ演出技法【愛ゆえの別れ】

この映画内の絵本、楽曲には「愛ゆえの別れ」と言われる章があります。リズと青い鳥がお互いのことを考え、別々の道を歩くという章のことですが希美とみぞれも最終的にお互いのことを思い別々の道を進むことになります。

みぞれの全力の演奏後、理科室での希美とみぞれのシーン周辺に関する演出をまとめていこうと思います。

絵本とのリンク
希美が絵本の「かごの開け方を教えたのですか」というセリフを、高台のベンチに座って言うカットですが、色合いや構図が絵本のカットに似ており、藤棚の形も四角形で挿絵の枠のようでもあり、青い鳥(みぞれ)を留めていた鳥かごのようにも見えます。

希美の横にはみぞれがおらず、これは青い鳥を解き放ったあとのリズと重ね合わせになっています。

枠を見せること = 鳥かご、箱のように、絵につける額縁のように見える

画面手前側に草花を配置したことで、絵本のパートに近い構図になっています。

引用元:リズと青い鳥

みぞれはのぞみに対し「大好きのハグ」をしながら自分の思いをぶつけます。

その際にみぞれはつま先立ちになるのですが、絵本の中でも青い鳥はつま先立ちでリズに抱きついています。

同じ動き = 同じ存在、リンクした存在

引用元:リズと青い鳥

ここまでの物語ですでにセリフなどでみぞれが青い鳥であることを言及されているのですが、ここで演技の面でもみぞれが青い鳥であることを強調しています。

目を見せないこと
映像作品において目を見せないことは様々な意味合いを持って使われます。希美は自分には才能がなくみぞれは飛び抜けた才能があり、嫉妬や現実を受け止めきれないことを、目を見せずに語ります。

ここでは目を見せないこと、相手に目線を合わせないことで、心の中のくらい本音を語りつつ相手を拒絶する演出になっています。

目を見せないこと = 心の内側を語る

目線を合わせないこと = 拒絶

引用元:リズと青い鳥

大好きのハグ
みぞれは抱きついた状態位でお互いの好きなところを言い合う「大好きのハグ」を半ば強制的に希美にします。

このとき、互いの距離がゼロになり思いを伝え合うのですが、お互いに掛ける言葉がお互いのほしい言葉とはずれています。

みぞれ = 希美の全部が好き(希美に自分自身(みぞれそのもの)が好きと言ってほしい)

希美 = みぞれのオーボエが好き(みぞれのフルート(音楽の才能)が好きといってほしい)

そのため、どアップのカットでも希美は目元も含めて笑顔になることがなく、希美から「みぞれのオーボエが好き」という言葉が出た際にカメラが引きの絵になってしまいます。半ば突き放すような引いたカットが挟まれ、みぞれのアップに向かいますが、みぞれも嬉しいというよりびっくりしたような理解できていない表情になっています。

引用元:リズと青い鳥

その後みぞれの口から「希美のフルートが好き」が出てこないため、希美は吹き出してしまいます。

クローズアップで笑顔にならない = 嬉しくない

引きの画 = 強制終了、ショックを与える

「大好きのハグ」の部分ではお互いに相手から言ってほしいことを投げかけており、最終的にその言葉は相手から出てこないという残酷なシナリオになっており映像演出もそれに沿ったカット割りと演技になっています。

みぞれは気がついていないようですが、希美はこの埋められないズレに気が付きそれをどうこうするのではなく、受け止めて進む決意をします。

まとめ
これ以外にもこの下りにはたくさんの技法が詰まっているのですが、わかりやすい部分を切り出してみました。

単純なハッピーエンド、バッドエンドではなく、ひたすら二人の人間に寄り添う稀な作品であり、最も大切なシーンで残酷に現実を突きつけることをカット割りなどを通して語りかけています。

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