君のいない世界の話

生きていくと、どうしても忘れられない人がいる。
それを未練がましく書くと、なんとも、自分のiPhoneのプレイリストを晒したみたいな恥ずかしさも感じるけれど、少しだけ書いてみたい。

その子は、人生で初めて、一目惚れした女の子だった。
写真に写る彼女を見て、雷が落ちる。
後にも先にも、この経験は一度だけ。
おそらく、走馬灯に出てくるし、これから先、酒を飲んでも、君がふと顔を出すだろう。

残念ながら、僕と彼女は一度は結ばれたものも、距離と時間と怠慢という、若さゆえの過ちというか、将来性のなさという、一言で言えば曖昧。
そんな、自分に嫌気がさして、彼女はあっさりと離れていった。

と、いっても、絶縁というわけでもなく、世界のどこかで、彼女という繋がりは、ゆるく繋がっていた。
再び、舞台に共演したり、偶然見に行った舞台に、お互い客として来ていたり、悲劇的にも教育実習が同じだったり、なんだかんだで緩く、そして、その度につまらない言い合いをしたりしながら、彼女をまた傷つけたりもした。

今、タイムマシンがあるなら
「お前ほんと、ダサいよ」って過去の自分をぶん殴ると思うけど、そのダサいも結局として、今の自分を形成してるから、彼女には悪いけど、自分を成長させる存在として、必要だったんだと思う。

いつからか、彼女とも、さっぱり会わなくなって、もう数年が経つ。
それでも、たまにインスタの投稿にささやかにいいねをしてくれるぐらい彼女も緩くどこかで生きている。

君のいない世界の話。

おそらく、それは自分の人生を180度変えていて、正反対な生き方をしていたと思う。

今いびきをかきながら、僕の部屋の床で、爆睡してる先輩も、君がいたから出会えた存在。

そして、なにより君が書く、文章に惹かれて、ちっぽけな世界でも、彼女の紡ぐ言葉には、とてつもなく可能性があった。

いつか、君がすごい人になって、ほしい。
そんな気持ちで彼女のささやかなファンとして思っている節がある。

偶然にも彼女が書いたであろう文章を久しぶりに読む機会があった。

新卒採用サイトの先輩社員メッセージのコーナーだ。
こんなところに書かれてる言葉は、当たり障りのない、とりあえず書いてみましたという、レベルしかなくて、まぁそれが普通だし、こんなところに何か書いても、誰が共感するかもわからない。

とはいえど、彼女のメッセージは、なんとも美しく、心をえぐるような一撃に満ちていた。

攻撃的だなって思ったし、彼女らしいなと思ったし、すんなりと、誰かの人生の1ページを読んでしまったような、爽快感も感じられた。

彼女はやっぱり、才能があった。
どうして、こんな人生で1番勝ち組だろうけど、1番君の才能を活かせない職に就いたんだろうっていうと君はまた、ブチギレだろうし、とても言えない。

大学時代のゴールは就職活動。
とはいえ、就職活動はゴールではありませんと人事部は皆言う。
でも、明確にゴールなのだ。
それは、幼少期から始まった人生の第1章のゴール。

自分自身、このゴールに納得もできないまま、第2章のスタートを切った。

そして、彼女もきっと、納得はいかなかったけれど、未来のことを考えて、決して悪くないゴールを選んだ。

彼女が高校時代に書いた脚本で、どうしても顧問が流したいといった歌がある。

それは、ビートルズでも、ストーンズでもなく、イーグルスの『デスペラード』

Don't you draw the queen of diamonds, boy

She'll beat you if she's able

You know the queen of hearts is always your best bet
ダイヤのクイーンは引くなよ
いつも痛い目にあってるじゃないか

ハートのクイーンこそ

君の最高の手札になる、知ってるはずだ。

この歌には、こんな歌詞がある。
あの頃に、この歌の良さなんかわかるはずもない。
でも、きっと、彼女はわかっていたのだ。
だから、その歌を採用した。

ならず者になることを選べないことを、きっと知っていたし、だからこそ、そのカードを選ぶしかなかった。

自分の手札が決していいものじゃないことは、少しずつわかってきて。
でも、彼女の手札がもっといいもので、そのカードにベットすれば、きっと多くの人に、最高の配当があるのに、なんて希望をしても、それは彼女の人生だし、彼女のカードだ。

勿体ないなんて、ことを僕がいう権利はない。
勝負しなよと、他人のカードを知らないのに言える権利もない。

君のいない世界は少し寂しい。

とはいえど、彼女が匿名で、または名前を変えて、この世界のどこかで戦っているような気だってする。

今の僕みたいに、だって君の文章は、僕なんかと比べることもできないぐらい良いもんだ。

そして、人生で初めて書いた脚本を、おもしろいと言ってくれたのが君だった。

今覚えば、僕の初めてのファンは彼女だった。
屈託のないその笑顔を見たとき、自分の世界は大きく変わった。

おそらく、これから先も、連絡することはないだろうし、それは少しの寂しさも感じる。
けれど、1本ぐらいエッセイでも書いてみてよ。
君のいる世界が、やっぱり恋しいんだ。

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