開店してるんだけど明かりすらついていない電器店

開店してるんだけど明かりすらついていない電器店

ちょっとひなびた商店街には、やってるんだかやってないんだか分からない電器店がかならずある。

展示してある液晶テレビのフチは妙に分厚く新古品様であり、だいぶ日焼けしている値札を見ると眉をひそめるほど高い。客に売ってやろうとは露ほども思わない、という気概を感じさせる。

ひとけの無い店内のカウンターには分厚いパンフレットやダンボールが乱雑に置かれ、まるで随分前に打ち捨てられたかのようだ。にもかかわらず「べつに入ってきてもいいよ」くらいの感じで、店先の引き戸は人ひとり分くらいの幅で開放されている。夕暮れになれば、この店もつつがなくシャッターが閉まるだろう。そして翌朝シャッターは開くのだ。昨日の状態のままに。

どうやって生計を立てているのかというと、まぁ基本的には近隣での電気工事をやっているとか、あるいは不動産をたんまり持っているとかそういうことなんだろうけど、それにしても店構えを諦め過ぎではないだろうか。もうちょっと小奇麗にしてもバチは当たらないと思う。

このような電器店の他にも、店内が夜中のように暗い洋品店、半ばレトロ趣味に片足を突っ込んでいる品揃えの玩具店など、ひなびたアーケードにはこういった店舗が軒を連ねている。そしてそれらは不思議なことに滅多に潰れることがない。

まるで美術館の展示品のように、ふと気がつけば十数年そのままなのだろう。それぞれの店による複雑な事情が渾然一体となり、古びた商店街はいつまでも白昼夢のような感覚を僕らに与えてくれる。

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