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色節の島「粟島」への想い

「旅する日本語展2020」に応募した「色節の島」。なんと、「最優秀賞(小山薫堂賞)」をいただきました! 想像だにしない出来事に、驚きと戸惑いを隠せませんが・・・。素直にうれしいです!

読んでいただいた皆様、旅する日本語展の関係者様、note編集部の皆々様をはじめ、関係する全ての方々に厚く御礼を申し上げます。どうもありがとうございます!

「色節の島」の余白を埋めるようで、こういうことを書くべきかどうか迷いましたが、振り返りを書いてみたいと思います。

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「旅する日本語展2020」の募集を知ったとき、ぜひ書いてみたい!と思いました。もともと旅好きでしたし、noteを書くことの楽しさに目覚めたところでしたので、ちょうど良い機会でした。

お題は、題材となる「11の単語」からテーマを1つ選び、「今、伝えたい日本の風景」を400字以内で書くというものでした。

11の単語(色節、催花雨、気散じ、睦ぶ、已己巳己、生一本、萌芽、喉鼓、弥立つ、寧静、袖摺れ)は、いずれも馴染みのない言葉でした。ただ、それらの言葉の意味を知るにつれて、日本語の美しさに惚れ直しました。

「色節(いろふし)」は、「晴れがましい行事」という意味とのことです。なぜだろうと思いました。「色」は、色彩、色々・・・、「節」は、季節、節目・・・。そのように考えながら、僕は「色節」をいう言葉を「鮮やかな色がたくさん重なり合っていて、季節の節目を祝う晴れがましい行事」と勝手に解釈しました。

情景はすぐに浮かびました。新潟県の粟島に行ったときのことです。あのとき、粟島の「島びらき」に参加して、見たことや感じたこと。それこそが、僕にとっての「今、伝えたい日本の風景」でした。

ところが、それを書くのが大変でした。

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「粟島」に行ったのは、5月です。毎年5月の連休に粟島の「島びらき」は行われます。

当時、僕は新潟市内に住んでいました。前年の夏に、転勤のため、東京から新潟へ引越してきたのです。

つまり、粟島に行ったのは、僕が初めて迎えた「新潟の春」でした。

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粟島行きのフェリーに乗り込むと、人でごった返していました。船内は既に満杯で、座る場所はありません。デッキへ出ましたが、甲板のイス席も満席でした。

甲板のわずかなスペースもゴザを敷いて地べたに座る人で埋まっていました。どうしようと思っていたら、親切な人たちが少しずつ場所を譲り合って、僕が座るスペースを作ってくれたのです。自分のスペースが狭くなってしまうのに、それでも僕のために譲ってくれたのです。

新潟に来てから、どれだけ新潟の人に親切にしていただいたかわかりません。東京から出てきた人間として、新潟の人の印象は、シャイで、我慢強くて、とにかくやさしいのです。

僕は、新潟の冬がそうさせているのではないかと思いました。

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僕が抱いていた冬のイメージ。それは東京で過ごしてきた冬です。空は晴れて澄みわたり、夜空の星は賑やかに瞬いている。

ところが、新潟で過ごした冬は違いました。空は重く曇っていて、風は冷たく強く吹く。雪が降れば、積もった雪に振り回される。

新潟の厳しい冬。その自然を忍ぶからこそ、ここに住む人たちは、お互いに思いやる気持ちが育まれ、やさしくなるのではないかと思いました。(決して東京をdisっているわけではありません。僕は東京出身です。)

僕自身、新潟の冬を越えて迎えた「春」は格別でした。春がこんなに待ち遠しくて、美しいものだとは思ってもいませんでした。

新潟の春。それは、空がとっても広くて、雄大な川は澄んでいて、見渡す限りの緑は萌えていて、花はきれいに咲いていました。あの冬を越えてきたからこそ、こんなに晴れ晴れとした気持ちになるんだと実感しました。

そんな新潟の春の景色と、人々のやさしさに触れながら、僕は粟島に向かったのでした。

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フェリーのデッキで手すりにもたれて海を眺めました。水面がキラキラと輝いていました。

その日も空は晴れていて、波は穏やかでした。船は長い周期で揺れながらゆっくりと進みます。

手すりから少し身を乗り出すと、海の風が頬に当たってとっても気持ちがいい。

そのまま下を眺めると、船が砕いた白い波しぶきがあがっていて、見ていて飽きませんでした。

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目の前の海で、何かが飛び跳ねたような気がしました。

間を置かずして、また何かが飛び跳ねました。

魚かなと思いましたが、違っていました。それが何かがわかっても、しばらく信じられませんでした。

野生のイルカの群れだったのです。

イルカたちはしばらく僕らに寄り添って、イルカショーのジャンプと全く同じ、あの弧を描くような愛らしいジャンプを何度も見せてくれました。

僕らの前で存分に遊んだイルカたちは、まるで手を振るようにして、海の彼方へ消えていきました。

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ほどなくして粟島が見えてきました。

山の緑が美しく感じられました。もう、楽しくて仕方ありません。「早く粟島に上陸したい」と、はやる気持ちが抑えられません。

でも、それを知ってわざと焦らすかのように、粟島はゆっくりと近づいてくるのです。

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僕らを出迎えてくれたのは、漁船の大集団でした。

どの漁船も大漁旗を誇らしげに空高く掲げ、僕らのフェリーに併走します。

色とりどりの大漁旗。その色彩が幾重にも連なり、空と海の紺碧に映えわたっていました。

僕らは一斉に手を振りました。

「また来たよ~」という人も、「はじめて来たよ~」という人もいたのでしょう。

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まもなくフェリーは島の岸壁に接岸します。眼下では、鮮やかな法被(はっぴ)を着た島の人たちが手を振ってくれています。島の太鼓のリズムが胸の鼓動を高鳴らせます。

祭りは始まっていました。

フェリーの下船口には、早くも行列ができていました。

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港で話し込んだおばあちゃん、借りた自転車で感じた島の風、わっぱ煮を作ってくれたおじさん、ウマすぎて感動した島のコロッケ、すべて忘れられない思い出です。

いつだって島は、大切なことを教えてくれます。でも、それが何なのかは、上手く言葉にできません。

この日ばかりは、シャイな新潟の人も、見知らぬもの同士、自然と会話を交わしました。みなが笑っていました。

結局、島は、人との出会いなんです。



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さて、この風景を400字に納めなければなりません(上記でも1500字ほど)。僕にとってそれは困難を極めました。何度も試行錯誤しましたが、どうも上手くいきませんでした。でも、この作業は、パズルのようでとても楽しい時間でもありました。

結局最後は、あまり深く考えずに、見たこと、感じたことを、そのままの言葉で並べるだけにしました。

まさに偶然だと思います。たまたま、あのような言葉が選ばれ、あのような配列になっただけです。それを、たまたま、関係する皆さまに読んでいただけたのです。

もしかしたら、400字という制限によって、ほどよい余白が奇跡的に生じたのかもしれません。素人のラッキーパンチです。二度と書けないと思います。


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さて、2020年の5月。粟島の島びらきは、コロナの感染拡大防止のため、中止になりました。

粟島にとっては長く厳しい冬が続いています。皆が待ち望んでいる本当の春は、粟島にはまだ訪れていません。

でも僕らは知っています。冬の季節が終わると、春が必ず訪れるのです。

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昨今の状況如何にかかわらず、誰しもが、つらく苦しい気持ちになるときがあると思います。

ただ、そのようなときに、「春は必ず来る」だとか、「明けない夜はない」と言われても響きませんよね。そんなことはわかっている。そう思えないから絶望しているんだ、と。

その冬は先が見えないほど長いかもしれません。

その冬は今までよりもずっと厳しいかもしれません。

でも、長く厳しい冬を過ごせば過ごすほど、美しい春になる。人にもやさしくなれる。そう、思うのです。

こればかりは、そう信じるしかないと思います。

だから、この先、どんなときにでも、春が来るのを信じられるようにしたい。そう思って、自分に言い聞かせるようにして、最後の1文を書き記しました。

もしも、この想いが誰か1人でも届けばこんなにうれしいことはありません。

そして何よりも、粟島がまた、あの美しい春の色に染まる日を迎えられることを心から願っています。





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改めて、自分が受賞するとはこれっぽっちも思っていませんでした。このようなことになるのならば、もっときちんとするべきだった。もっと時間をかけるとか、何かやりようがあったと思うのです。それだけが悔やまれます。

サムネイルの「絵」のことです・・・(笑)

ない方がよかったんじゃね。・・・どうか、それだけは言わないで。本人が一番わかっているから。

ああ、絵がもっと上手くなりたい・・・。

著作者人格権は行使しませんので、煮るなり焼くなりしてほしい。

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最後になりますが、noteで皆さんの記事を読んだり、交流させていただいたりすることが、日頃の励みと活力になっています。書くことの楽しさをnoteに教えていただきました。

今回のことを励みに、これからも不定期ではありますが、そのとき浮かんだことを素直に綴っていきたいと思いますので、僕の成長(絵も含めて)をあたたかく見守っていただければうれしいです。

ありがとうございます!


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Special thanks and congratulations HANAMARUE!

今回、僕のミスにより、note運営の方からの受賞のお知らせメールが、迷惑フォルダに入ってしまい、この吉報に数日間、気が付きませんでした。

そのピンチを救ってくださったのが、「はなまるえ」さんです。もともと、はなまるえさんは、この「色節の島」を褒めてくれて、ご自身のnoteで紹介してくれたという経緯もあります。そのとき、すごくうれしくて励みになったのを覚えています。

今回の「旅する日本語展2020」では、はなまるえさんも、「妙高山は見ていた」という作品で賞を受賞されました。はなまるえさんは、なんと11の単語すべてで作品を発表し、どれもすばらしいのですが、その中で「新潟」の作品が選ばれたのが、個人的にはすっごくうれしいのです!

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ちなみに僕のサムネイルの謎の絵は、PCのタッチペンを使って、最初からPCにインストールされていたお絵かきソフトで描いています。ソフトを使いこなせず、鉛筆の線を選択して描いています。実はひそかにnoteで絵を練習しているのです・・・(注:はなまるえさんからの質問の回答)



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