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あたたかみについて - 平木典子さん

企業勤めをやめてもうすぐ2年になります。(その間に出産したあーちゃんも、もう1歳4か月。瞬く間だ!)

新卒から長くビジネスの世界にいたわたしは心理職としては新参者なので、技術研鑽のために身近にスーパーバイザーが欲しくて(師匠はニューヨークにいるので)自分なりに探し回ってきました。でも、ヒプノセラピーという狭い分野では、これはという先輩がなかなか見つからなくて。

どうしたら信頼できる先人を見つけられるのかと悩んだ末に、より確立された心理職のフィールドで先輩や仲間を見つけたらいいかと思いたってキャリコンの資格を取ることにしたのです。

養成学校に通って試験合格したことは自信にもなりましたが、それ以上に、世界中の偉人の理論や療法を知ったことが成果だと感じて、キャリコン学者リストを作って学者の紹介ブログを書いている次第です。

今回紹介するのは、私選リストのなかで唯一の日本人女性、平木典子先生。ミネソタ大学でウィリアムソンに学び、家族療法やアサーションなどを日本に紹介した第一人者でいらっしゃいます。

「アサーション」というのは、他者の意見を尊重しながら自身の意見を適切に主張していくコミュニケーションです。「さわやかな自己主張」とか「あなたもOK、わたしもOK」とも評されます。

アサーションの基礎は、1950年代の末に「系統的脱感作法(systematic desensitization)」でも有名な南アフリカの精神科医のウォルピが、ラザロと共に開発したものです。認知行動療法の一種なのです。

キャリコン試験にちょい出演することもあるウォルピ&ラザロ

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私はネットの記事や書籍を読んでいるうちに、すっかり平木典子先生に会いたくなってしまって、ご本人が講師をされるワークショップを探して、先日参加してきました。

アサーションの具体的なステップを「DESC法」といいます。

DESCとはすなわち、D=Describe(客観的な事実を描写する)、E=Express(自分と相手の主観的な気持ちを表現する)、S=Specify(解決策や妥協案の提案)、C=Consequence(提案に対する相手のYes/Noの反応の結果を伝える)の基本の順序を踏むと、相手に気持ちよく自分の意思を伝えることができますよという技法です。ワークショップでは、心理職向けに、そこに大事な要素としてL=Listen(相手の気持ちを傾聴する)を追加したDESCL(デスクル)法が説明されました。

私は事前に書籍を読んで「うん、シンプル!わかった、できるよ。」って思っていたのですが、演習中心のワークショップで平木先生の講義を聞き、他の受講者と一緒に手と頭と心を動かしているうちに、あ!と、自分で驚く気付きがありました。

正直、憧れのアーティストに会いに行くファンの気分だったので、そんな気付きが得られるとは期待していなかったの。畏れ多い話です。

これまでの自分は、ファクト・ベースで、ダイレクトなコミュニケーションを持ち味としてきました。「英語で仕事をするなら "Short, Sweet and to-the-point"(短く、やさしげに、本質を突け)よ」と教えてくれたのは、確かベルリッツの先生でしたが、そのうちShort とTo-the-pointはできても、Sweetは置き去り気味でした。告白すると、わたしは英語下手だから事実を伝えるので精いっぱいなの、多少言葉が乱暴でも悪意はないってこと察してちょ、という甘えがずっとあったと思います。

英語ではなく日本語でも、数字という万国共通の言語を扱う職務の中ではそれが許されてきました。ビジネスのファクト(数字)とは違って、人の心のファクトはそれぞれ固有で理屈ではないと分かっていても、私は、だからこそ人間関係の基本は「あなたはあなた、わたしはわたし」だよねと思っていたのです。それまで他の人から「いい人」って思われる必要を感じていなかったし、それで許され、生きてきてしまったのです。

それが、事前課題として用意してきた個人的なテーマを使ったグループワークをしているうちに、他の受講者の視点と自分の視点とを並べて深堀していくことになって、わたし、気が付いてしまったの。

うわわ、みんなチョーいい人!?自分って随分ドライっていうか…通じない?ああ、そもそもの立ち位置が「あなたはあなた、わたしはわたし」だからか。それは「あなたもOK、わたしもOK」とは似て非なるものだ!前者はフラットで、後者は受容だ!!受容こそ、対人支援で最も大事な要素ではないか!!!

これは、ショックでした。ここまでコミュニケーションの軸足が違うなら、これまでの来談者の方で、わたしのことを、冷たいとか、厳しいとか、感じたけども言い出せなかった人もいたかもしれないと不安になりました。

ヒプノセラピーのセッションに入ると、うまく言えないのですが、わたしはわたしを手放す感じです。自分も催眠状態に入って「あなたとわたし」という概念がなくなり、自分が透明になって相手の目を通して物を見、肌感覚を通して世界を捉える感じになります。そのなかで、イメージがとりとめもなく拡散しないように忠実に聴き、丁寧に対話する装置としては存在するけれど、導くものは基本的には「あなた」の中からしか出てこない。

そのセッション自体に「わたし」が入り込むようなポイントもロジックもない(体験したことのない人には非常にわかりにくい説明でごめんなさい)、普段の自分とは完全に別モードなので大丈夫だったと思いたい、けど、本当に?と、急に自信がなくなりました。

だって、間違いなく言えることとしては、普段モードのわたしは、基本的に人の話を聞かないし、思ったことをズバズバ言うし、座右の銘のひとつは「やさしさは愛じゃない」。要するに、やさしくない。

そんな”Short and to-the point”な自分と、サイコ・セラピーのなかでも大変めんどくさいというか、間接的で長々としたものであるヒプノセラピー、その一種の対極っぷりが、むしろ、(私自身の視点からすると)ワームホールを抜けて反対側の宇宙に出たような感じですんなり馴染めた理由だったかもしれないと思いますが…

先にアサーションに触れていたら「いや、わたし別にいい人って思われなくていいし、心理職とか無理」の次元で終わっていた可能性が高いなと感じました。でも、この順番で出会って、奥深さに気が付くことができた。

というわけで、DESCLトレーニングは、普段モードの自分が(薄々は知っていたけれど)本当に日本人離れしているんだという気付きが一番の収穫で下。他の受講者もほぼ全員、心理職だったので、そもそものパネルが「相手の話を聞く人偏り」だった可能性はありますが、講義の中でも言われていましたが、日本人は概ね、相手がどう感じるかを気にして自分の思いを言えずにストレスをかかえる人のほうが多いようなのですね。

今までになかった態度・視点を得て、「わたしとはちがうあなたを思いやる言葉の使い方」を身につけるって、すごくあったかみのあるいいことかも…!!!と、素直に思えたのです。言い換えれば、すっかり置き去りにされていた”Sweet”を、今こそ本気でものにしていこうと思ったのです。

それは、平木先生の要所要所のコメントがとても暖かくて本質的で、納得がいくものだったおかげでもあります。

ソーシャル・スキルのための啓発本やワークショップがあふれる昨今。笑顔をつくってポジティブな言葉を連ねても、テクニック頼りで気持ちがついてきていないのが見え見えだよ!と突っ込みたくなる人(や企業)に対しても、今後は、内心うんざりするのではなく、この人なりの葛藤を乗り越えようとがんばってるんだなって温かい気持ちを持てそうな気がしてきました。

総合的に「わたしはわたし、あなたはあなた」を手放すところまでは、まだいけません(良さがあると信じてそのプリンシパルを採用してきたので…それは「わたしはOK、あなたはNG」というわけでもないのです。)。

ただ、自分にとってそれはどういうことか、受容の本質ってなんだろうってことを、引き続き考えながら、アサーションのエッセンスを普段モードの自分にもとりいれていきたいと思っています。

どなたさまも、ハッピーなライフ・キャリアを。

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