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虎たちは夜毎に訪れる

I dreamed a dream」、アン・ハサウェイあるいはスーザン・ボイルの歌として聞かれたことのある方も多いかと思う。映画レ・ミゼラブルの中で、死の近いファンティーヌが歌う、悲しくも美しい名曲。

これを、華原朋美ちゃんが、それこそ彼女のドン底からの復帰直後くらいに、鎌倉の鶴岡八幡宮で歌うのをライブで見たことがある。

ドンピシャの世代でもあって、私は実は結構彼女のことが好きなんである。フラジャイルかつタフな生き様を、頑張れ頑張れって心の中で応援しちゃう。そんなともちゃんに、この歌はちょっと痛々しいくらいにハマっていた。

が、個人的にとても好きな以下の歌詞について、

But the tigers come at night
 with their voices soft as thunder

日本語では、

狼の牙が 
 夢引き裂き、望み食いちぎり

って訳されてて、虎が狼にされてたところが、かなり無念だった。私の拙い直訳で申し訳ないが、本来は

虎たちは夜毎に訪れる
 その声は雷鳴のように柔らかく…

…それじゃ旋律に乗りにくいし、虎の咆哮なんて聞いたことないわ!(それを言うなら狼だって同じだが)てことなのかもしれないけど。

虎っていうのは目があっただけで身がすくみ、稲妻のような速さで襲ってきて、抵抗するすべもなく凄い重力で押し倒され、噛まれる前に気絶ってくらいのプレデターだよ。そして、その唸り声は、遠雷のように、柔らかく、低く、恐ろしい。近くに聞いたらもうおしまい。

ドラマ本来は娼婦を買いに来る男たちの暗喩だと思われるんだが、ファンティーヌよりよほど恵まれた境遇にある私たちも、生きている中では、受け入れたくない現実にノックダウンされる夜もある。

それは、噛みちぎられ引き裂かれる夢や望みとかいうやわなもんじゃない、容赦なく、息も吐けないほど圧倒的な存在感で狼も逃げ出すような巨大な虎だ。少なくとも私の場合は。だから、なんでダウングレードしたのかと言いたい。

その無力感を。

しかし、ファンティーヌ亡き後、ドラマの最後には、彼女がその命をかけて守ろうとした娘のコゼットは、ジャン・バルジャンに護られて、光の当たるところに届けられる。

素晴らしい原詩だし、やっぱり原作が力強いんだが、それをよく引き出した良い映画だった。「レ・ミゼラブル(2012年)」まだ見たことのない方は、ぜひ。

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