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健康とはなにか - ビアーズ

Q.「健康」って、どういう状態でしょうか?

A. WHOによる定義は、「健康とは、ただ病気でない・弱っていないということにとどまらず、肉体的にも、精神的にも、社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. - as of 2019

...体だけではないという全体性が述べられています。

今から100年ほど前に、心を顧みることの大切さを説いたのが「精神衛生運動」(mental hygiene movement)の創始者であるビアーズ。健康と言えば体のことでしかなかった、心の病は「精神病」として人間扱いしてもらえなかった時代にです。

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彼は自らが鬱病で精神病院に入った時の過酷な体験を「わが魂に出会うまで(A mind that found itself)」に著し、精神病者に対する人権保護や医療改善を訴えました。スタンレー・ホールら、時の心理学会の有力者や精神科医がそれを支持して、1908年には米のコネチカット州に精神衛生協会が設立されました。その流れが米国から全世界へ広がり、近年の「メンタルヘルス運動」へとつながってきているのであります。というのが、キャリコンが最初に学ぶ、基礎中の基礎*です。

「精神衛生運動」は、パーソンズの「職業指導運動」、ソーンダイクの「教育測定運動」と並ぶキャリアカウンセリングの三大源流です。

日本においても昨今、その社会的意識は高まる一方。2019年4月に施行された労働安全衛生法の改正では労働者のメンタルヘルスを支える産業医の整備が強化され、健康経営が一つの流行語にもなりましたよね。

でも、どんなに時代の認知が更新されて、メンタルヘルスに配慮した経営手法が進化しても、心の健康を損ねる人はゼロにはならないでしょう。集団の中で一定割合がバグるのは、生命原理なんだと思います。

心を病んでしまった人のケアは精神科医やソーシャルワーカーの守備領域ですが、キャリアコンサルタントも、ギリギリのところで踏みとどまっている未病の人たちを支援することもあります。だから、経済産業省が「健康経営優良法人認定制度」を牽引したり、厚生労働省が「THP(トータル・ヘルス・プロモーションプラン)を推進したりという制度については(試験のためだけでなく実務的にも)常に把握しておかねばなりません。

私の個人的な印象ですが、一旦人の心が壊れてしまったら、組織ができることはあまり多くはないのが現実です。企業の側に意思(=良い体制)と体力(=経営的余裕)があっても、本人が自ら牢屋に入れて鍵をかけてしまった心を解放し、完全に元の状態に戻って復職するまでの十分な支援と時間を与えることのできるケースは稀なのではないでしょうか。

私自身は、大学を卒業してから17年間は、ドライなスタンスが基本の外資系企業でで仕事をしてきたのですが、そのなかでもバリバリのタフな職種で、傍から見ると心臓に毛の生えたタイプだったと思います。

ただ、それには秘訣がありました。

環境(組織方針や上司や与えられたミッション)が嫌だけれどもそれを変える力が自分にないと判断した時には、即座に、能動的に、自分を変えるのではなく、場所を変えてきたんですね。(独立するまで3社に各6年づつ勤めましたが、各社内でそれぞれ一度は大きく役割の変わる社内転職をしているので、だいたい3年区切りでキャリアチェンジしてきています)

落ち込んでた時に友人から教えてもらった、茨城のりこさんという詩人の「自分の感受性くらい」が好きでした。「ぱさぱさに乾いてゆく心を ひとのせいにはするな」という、戦争体験者の生命力を分けてもらえるような詩なので、これを機に紹介します。

だから私は心を壊すことがなかった。自分ほど変えがたいものはないと本能的に知っていて、無理をしなかった。でも、そういうものの考え方および行動のしかたって、実はすごく特殊で外資的ですよね。日本の社会の中では、いろんな理由で自分を優先できない人のほうが多いのかもしれません。(と、今になって思うようになりました。)

場を変えれば問題ないはずの人が、限界まで我慢して、不本意ななかで退職に追い込まれたり、不必要な痛手を心に負ってしまったりというケースにあうたびに、自分ってだいぶ恵まれていたのだなと思います。

でも、今も変らず思うのは、心を壊すまで頑張るよりも、能動的に動ける力の残っているうちに何かを変えたほうが絶対に良いということ。一旦バランスを崩したら、また立ち上がるまでに膨大なエネルギーを消耗するのが心の病というもの。私自身はその辛さを経験したことはありませんが、出口の見えないトンネルに入ってしまう苦しさは、想像するだけで息が詰まる。

厚生労働省によると、うつ病の再発率は6割だとか。精神衛生運動に生涯を捧げたビアーズも、これだけ後世に残る偉業をなしとげておきながら、晩年にまた鬱を再発し精神病院で人生の幕を閉じました。

メンタルヘルスは、予防が大切なんです。

一人きりに思える時にこそ、勇気を出して早めに「助けて」という声を発してほしい。家族でも友達でも赤の他人のカウンセラでもいいから、決定的に心を壊す前に、助けを得て、新たな環境で歩き出してほしいです。

どなたさまも、ハッピーなライフ・キャリアを。

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