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【詩】しいちゃん。

おふろの中で今日もしいちゃんは泣きました。

まだ小さいのに、しくしくと声をあげずに泣いています。

おかっぱ頭に手をおいて、おばあちゃんがやさしく諭すように言いました。

「でもね、シイちゃんは我慢しておきなさい。ね」

しいちゃんはまた悲しくなりました。

「お姉ちゃんはね、あれは生まれつきお転婆でわがままで、たしかに手が付けられない子だよ。でも、もうすぐ1年生になる。小学校にあがればだんだんわかってくるし、おとなしくなる。お爺ちゃんもいつもそう言ってる。お爺ちゃんは、私たちが甘やかしすぎたのも悪かったんだって」

「ごめんね」

しいちゃんはもっと悲しくなりました。

「しいちゃんはこんなに優しくていい子なのにね。でも、やりかえせばもっと意地悪してくるからね。いまは、我慢しようね」

夜、おふとんのなかに入ると、しいちゃんはまた悲しくなってしくしく泣きました。

泣いていると、おかあさんが洗濯物をしまいにきました。

そしておふとんのなかで泣いているしいちゃんに声をかけました。

「そんなにくやしいの?」

しいちゃんは、返事のかわりに、うえんうえん、と泣きました。

「くやしくて、悲しくて、ほんとうはものすごーく怒ってる?」

しいちゃんは、うえーんうえーん、と泣きました。

「わかった。しいちゃん、出ておいで」

しいちゃんは、うわーんうわーんと泣きながら、おふとんから出てきました。

おかあさんはパジャマの長袖をめくりあげて、シイちゃんの前につきだしました。

「噛みなさい」

しいちゃんは、泣き止みました。

「いい、そのかわり遠慮しちゃダメ。思いっきり噛みつくのよ」

しいちゃんはお母さんの腕をじっと見つめていました。

そしてカプッと嚙みつきました。

そしてそのままつっぷすと、わーっと叫びました。

おかあさんのパジャマのズボンは、涙と鼻水でぐじゃぐじゃになりました。
 

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