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もしも叶うなら、海の世界をもう一度

noteのお題企画と
音声配信アプリ「stand.fm」での
「#声ッセイ」に参加して書いたものです
テーマは「 #もしも叶うなら
音声でもお聴きいただけます


20代の頃、海外旅行に行くのが趣味で、旅行先で体験ダイビングのツアーに参加した時のことだ。

そこは、ニューカレドニアにある小さい離島のイル・デ・パン島。

真っ青な海に白い砂浜。
私の記憶で一番きれいな海だ。

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イル・デ・パン島

先に言うと、私は泳ぎが得意ではない。
泳げるか泳げないかで分けるとしたら、泳げない方に手をあげる。

平泳ぎだけは何とか25メートル泳げるが、クロールは息継ぎが未だにうまくできず、息継ぎなしで進める距離しか泳げない。

そんな私がダイビングをする決意をしたのは、好奇心からだ。

ダイビングの前日には、浅い場所でシュノーケリングをした。

イル・デ・パン島の海は、砂が白く水は透明。
手の平から餌を食べる真っ白い魚が、可愛くて興奮した余韻が翌日にも残っていた。

もっと深く潜って海の中を見たいという気持ちが、泳げないことより勝っていたのだ。

まさか海の中であんなにパニックになるとは、想像すらしていなかった。


初めて着るウェットスーツ。
頭までしっかり覆うと、とんねるずの人気番組に出てきた「モジモジくん」みたいになって、友達とお互いを笑い合った。

準備ができると現地のインストラクターの人から簡単な講習を受ける。

装着するマスクが曇った場合に行うマスククリアのやり方を教わった。

マスククリアとは
マスク内に水を入れ曇っている部分をすすぎ、その後に少し上を向いてマスクの上部を押さ押さえ、鼻からふーんと息を出し、その圧力でマスク内の水を出すというもの

これがなかなか難しくて、私は上手くできるか不安が残った。

「マスクに水が入ってきた場合も同様にして水を抜いてください」

マスクに水が入ることもあるんだと知った私は、レンタルのマスクが緩めに感じて、少しきつめに締めなおした。

現地のインストラクターがマンツーマンで付く。

私のパートナーは、日本語が話せない小柄な女性だった。

しかし潜ってしまえば海の中、身振り手振りでの会話になるので大きな不安は無かった。

いよいよ体験ツアーへ。

少し緊張しながらも静かに海へ入り、インストラクターの手を取った。


さっきまでの音が遮断され、静かなコポコポという音が耳に入って来た。

青い世界。知らない海の世界。

小さい魚が群れを成して泳いでいて、思わず手を伸ばす。

インストラクターの人は親指を下へ向けて、もっと下に潜る合図をくれた。

私は大きく頷き、海底に頭を向ける。

魚と同じ海に一緒に泳いでいる!
なんて楽しいんだー!

余計な音が入ってこない事もまた不思議な心地よさに包まれた。

海の水は澄んでいて魚がよく見え、海底の白さも反射して幻想的な世界が広がっていた。

ふと先に目をやると果てしなく広がる海の世界に一瞬、怖さを感じる。

そんな時に異変を感じた。

マスクに水が入ってきているのだ。

下へ潜って行くほど、水はマスクに入って来る。

マスククリアをしなければ。でも水中では怖くて上を向けない、という気持ちで心臓がドクドク鳴り始めた。

しばらく我慢していたら、とうとう目の真下まで水が上がってきた。

瞬きすると水が見える。もう限界だった。

インストラクターの人にマスクを指さすとマスククリアをしろの合図。

私は恐る恐る上を向いて講習を思い出しながらやろうとしたが、鼻から息を出すはずが、反対に思い切り水を吸ってしまった。

そうなると人間パニックになる。

正直どんな状態だったかあまり覚えていない。

マスククリアをするために上を向いたので、その瞬間海面が見え、はるか上にあると感じる。
(実際はそんなに深く潜っていないのだが)

私は息をすることも忘れ、海面へ急浮上するように上に泳ぎだした。

このまま海にいたら溺れる!もう恐怖心しか無かった。

スキューバーダイビングされた方ならご存じだろうが、これは死亡事故につながるのでやってはいけない行為。

講習でも言われていたのに、息が吸いたい、その一心で浮上した。

完全にパニックだった。

今思うと本当に申し訳ないが、海面に浮上しても捕まる物がなく、さらにパニックになり、私を追いかけてきたインストラクターの頭に捕まる形でやっと息を吸えた。

私の初ダイビングは、途中リタイヤという形であっけなく終わった。

一緒に潜った友達は、ハプニングもなく海に魅了されて岸へ戻ってきた。

彼女は、帰国後にダイビングのライセンスを取得した。


私は、あれからシュノーケリングしかやっていない。

怖くてもう二度と海深くには潜れないと思う。

でも、もしも叶うなら、海の青い世界をこの目で、体全体で、
もう一度感じてみたいと思うのだ。



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