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下北沢で観る『Blue Giant』と『ぼっち・ざろっく』の輪郭

今年の2月に公開されたジャズを題材にした劇場アニメーション『Blue Giant』をnoteに起こしはし無かったが観ていた。原作は未読だっただが、元々予告でなんとなく気になっており鑑賞候補に入っていたというのと、HIGH&LOWのおかげで山田裕貴に特別な感情が抱く者として、そんな彼が主役の声優をやっているとなれば気にもなろうというもの。

熱い青春ストーリーと演奏を映像表現としてこうなるの!?というものとか、そもそもジャズなどオシャンなもの、手の届きにくいものだと考えていた私は魅了され、サントラのリピートが止まらない日々だった。

その後1か月程度経ち、2022年の一大ムーブメントとなり、今もなおブームが続いているぼざろこと『ぼっち・ざ・ろっく!』のアニメを今更感を覚えつつも視聴した。
幣アカウントはかつて大ムーブを巻き起こした「けいおん!」は通ってはいないが、それなりにロックバンドの音楽を聴いてはいたしライブにもそれなりに行っていた。

なので「これは観たら絶対ハマるし、今の自分の追っているコンテンツのキャパを喰ってしまう沼かもしれない」という理由からあえて遠ざけていた。
しかし3月、いろいろな縁が巡り、もはや全方位から銃口を向けられているジョン・ウィックのポスターのようになっていたたため、観念し、視聴したところ案の定ズブズブと沼に堕ち、結束バンドのアルバムを聴き込むことになっていったのである。


どちらもジャズ・ロックというジャンルの違いこそあれど、音楽に関わるアニメーション作品。しかもそこまで期間が離れずに公開したというタイミングも含めてこの2作に相似性のようなものを感じ取ったのである。

そしてさらに時間は流れ、2023年のゴールデン・ウィーク
下北沢のミニシアター、「トリウッド」でBlue Giantの上映を行うという告知を見た。映画では下北沢は登場しないが下北沢は『音楽の街』であるといったご縁によるものだろう。
だが、下北沢は何を隠そうぼっち・ざ・ろっく!の聖地である。

……行くしかなくない?
と言うことで先日下北沢へ人生初上陸し、Blue Giantの再びの鑑賞と、ぼっち・ざ・ろっく!の聖地巡礼を行ったのである。私が感じ取った、相似性とやらの輪郭を掴みに。

着いたぜ。

人込みは苦手なオタク、客引きにはあっ、あっ、となってしまったが、方々の体で映画館にたどり着いた。
ミニシアターのトリウッドには黄色いソファのような座席が大体50程度。この規模のミニシアターの経験自体が無い。

約2.3ヶ月ぶり2度目の鑑賞。ストーリーの大幅を知っているからこその気づきもあるし、忘れていたことも思い出した。

相似性を覚えたと上で書いたのだが
Blue Giant→ぼっち・ざ・ろっく!→Blue Giant(2回目)を経て気づいたことは、そもそも両作品とも同じようなことを言っているな…。ということである

2作に共通しているのはバンドの中にカリスマ的素質を持つキャラと、全くの音楽未経験者の両方いることだ。
ぼっち・ざ・ろっくには前者が主人公でギターの後藤ひとり、後者はボーカル兼ギターの喜多郁代


Blue Giantでは前者が主人公でサックス担当の宮本大。後者はドラム担当の玉田俊二がそれにあたる。

玉田も喜多ちゃんも主人公のカリスマ的素質に影響を受け、まったくの素人でありながら少しずつ必死で成長をしていく。そしてどちらも最後のライブでのソロパートで自身の成長を視聴者に刻み付けていく。ただその影響を受けた相手の性格が後藤ひとりと宮本大とでは真逆もいいところなのだが。
というか後藤ひとりは宮本大みたいな人苦手だろうな…

Blue Giantではとある老人が「私は君の成長するドラムが聴きたくてライブに来ているんだ。」とライブ後に玉田に語り掛けるシーンがあるがひょっとしたら結束バンドのライブを見に来る客にも喜多ちゃんの成長していくギターを見に来ている人がいるかもしれない。

バンドとは

ぼっち・ざ・ろっく!ではベース担当の山田リョウは「個性を捨てたバンドなんて死んでるのと一緒。」「バラバラな個性が集まって一つ音楽になってそれが結束バンドの色になるんだよ。」と語る

一方、Blue GiantではJASSのピアノ担当の沢辺雪祈が「バラバラでもいい。アイツ(宮本大)とジャズをやりたい」と語る。
どちらもバンドの中で個性を持つもの同士がバンドという共同体の中で噛み合うことでバンドが動くものだという言及がなされる。

しかし、バンドというものの見方はこの2作はとても対照的だ。ぼっち・ざ・ろっく!では作中で結成されたバンド:結束バンドについて5話で主人公、後藤ひとりが(チヤホヤされたいという願いは変わらないけど、この4人で人気者になりたい)というこの後藤ひとり、喜多郁代、伊地知虹夏、山田リョウのでこその結束バンド、ようするに「第二の家族」的とらえ方をする。

一方で、Blue Giantでは冒頭より「一生同じメンバーで組み続けることはない。」と沢辺が語る通り、宮本大、沢辺雪祈、玉田俊二の3人でJASSを結成して前進していくにしても、劇中で10年くらいは立ってるであろう後日のインタビューのような映像が差し込まれるように初めから別れが提示されているのだ。

それはもちろんロックとジャズによるジャンルの違いはあるだろうが、この違いによる作品のエネルギーの向かうところは大きい。
Blue giantのキャッチコピーは『二度とないこの瞬間を全力で鳴らせ』はそれこそ同じバンドで永遠に組み続ける事は無いからこその言葉で、JASSの最後のライブを終え大がミュンヘンへフライトするシーンで締めくくられる。

ぼっち・ざ・ろっく!のアニメの最後の言葉は「またバイトかぁ」と後藤ひとりが日常のなかに生きていく姿で締めくくられる。
ぼっち・ざろっく!の原作はまんがタイムきらら:いわゆる日常系作品を多く輩出している雑誌に連載されているので、もしジャズ題材のきらら作品が出てきたらどうなるのだろうか、と思うところはある。


蒼さと青い炎

ブルージャイアントというワードは「あまりに高温なため赤を通りこし、青く光る巨星」という意と語られ、転じてすごいジャズプレイヤーのことを指す。と仙台での大の師匠が大のことを指している。大は「世界一のジャズプレイヤーになる」と言い続けそれを信じて疑わない。苦を苦とも思わないほど練習を重ねる。
それは声優の山田裕貴の好演、というより山田裕貴自身が「俳優王に俺はなる!」という宣言をするような人物性も相まって青臭さにドラが乗ったようなキャラクターとなっている。
大は悩まず、主人公的に前に進み続ける。その代り精神的成長は雪祈、技術的成長は玉田に割り振られることになる。特に雪祈の精神的成長は白眉だ。

「内蔵をひっくり返す」とは劇中では自分をさらけだすということの比喩として語られ『勝つためのジャズ』を行ってきた雪祈にはそれがない。小手先だけのピアノと劇中でのJASSの目標としていた『So blue』のオーナー、平に指摘される。その後雪祈は挫折の後、自分を見つめ直すことになる
その後新たにチャンスが巡ってくる。「いっぺん死んで来い」と発破をかける大。「内臓をひっくり返してやる!」と自分をさらけだすようにピアノソロパート見事に引き切った雪祈。


一方で、ぼっち・ざろっく!の作品のキーポイントは『後藤ひとりの精神的成長』と言ってもよい。それこそ「内蔵をひっくり返す」と言えるシーンがある。いや胃液ダムのように放出させていたシーンのことではなく。
ターニングポイントでもある5話。ライブハウスでライブをするための結束バンドのオーディションの日。
そもそもひとりは根暗でありながら「バンドやれば根暗でもチヤホヤされる。みんなにチヤホヤされたい」という不純すぎる動機からギターを始めた人間だ。孤独に練習を積み重ねたおかげで『ギターヒーロー』というソロギターの配信者としては人気者の地位と手に入れた。

だがバンドを組むということは1人で弾くことにはならない。
"後藤ひとりとしてのギター"は周りと合わせなくてはならないため周りと合わせられないという未熟さが作中でも指摘されていた。
だがこのバンドでチヤホヤされたいという気持ちを持つようになったひとりは、ライブ中、「こんなところで終わるわけにはいかない」ギターヒーローとしてのテクニックが覚醒する。
そして見事結束バンドはライブハウスのオーディションに合格する。


もうひとつ、おそらく作詞がそれにあたるだろうか。
4話。当初の後藤ひとりは喜多ちゃんのような陽キャが歌うのだから「明るい歌詞にしよう…青春ソングかな。暗い歌詞だったらいくらでも書けるけど…そんなの望まれてないだろうし。」と思ってもいないことを歌詞として練り上げる。
その後、山田リョウに歌詞を見せたところ、彼女は昔別のバンドにいたこと。そのバンドの青臭いけどまっすぐな歌詞が好きだったこと。だが売れるために歌詞を売れ線にしていくことに嫌になりバンドを抜けたことを語り、上記の「個性を捨てたバンドなんて死んだのと同じ」「バラバラな個性が集まって一つの色になってそれが結束バンドの色になる」という言葉を語る。

思ってもいないことを書き上げた歌詞はおそらく雪祈が言われた小手先のピアノと同じものであろうし

『一瞬でもいいから ああ、聞いて 聴けよ』
と、5話で歌われた『ギターと孤独と蒼い惑星』の歌詞にもあるように自身の暗い鬱屈とした感情を歌詞にとして吐き出すひとりの心境は身を削る思いであったろう。

青春の青臭さ、とでもいうべきものを異なる2つのアプローチで描いた2作のアニメーションが同時期に生まれた事実に私は奇妙な感慨を持ってトリウッドの扉を開け、下北沢の街の空気を吸ったのである。
下北沢はコーヒーの匂いがした。

音楽の街、下北沢


その後、下北沢を巡ってみた。
ぼっち・ざ・ろっく!のアニメに登場したライブハウス、あの公園、アー写の壁。ヴィレッジヴァンガード。

ヴィレバン


虹夏ちゃん達がコーラを買ったとこ

そこかしこを巡れば、結束バンドとすれ違うような気がしてくる。
路地裏に入れば後藤ひとりが苦悶の表情を浮かべて膝を抱えてそうな気がするし、古着屋に入れば伊地知虹夏と山田リョウが物色してそうな気がするし、見上げて2階にあるオシャレなカフェの窓際に喜多郁代が座っていそうな気がする。

アー写候補として回った階段


JASSのメンバーは……下北沢はジャズのライブもやっているらしいし 、ライブの為に下北沢に降りていそうな気がする。今度聖地らしい墨田区の辺りにでも行ってみようか。


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