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【MBA小論文】早稲田(WBS) 2016年 冬 企業不祥事を考える② キーワードで読み解く

今回は、キーワード(概念)を使って前回の問題を考えます。

紹介するのは、取引コスト理論・エージェンシー問題、そして遂行責任&結果責任

なぜ、この3つの視点を使うかというと、”限定合理性”(※あとで説明します)という視点で考えた時に、取引コスト理論・エージェンシー問題は同じグループに属すからです。

実際の試験では、”知らなくてOK”なのですが、元ネタを知っていると、「あ~、それね」といえるのではないでしょうか。

さて、先にタネ明かしをすると、『なぜ上司とは、かくも理不尽なものなのか』(扶桑社新書 著:菊澤 研宗)という本はオススメです。
全文公開もしているようなので、このサイトで読んでみる価値があります。https://inumimi.papy.co.jp/inmm/sc/kiji/1-1060890-84/

この本のなかで述べられているように、限定合理性とは「人間は限定された情報のなかで出来る限り合理的に行動する」という前提に立ちます。

もう少し日常生活に則して考えてみましょう。
例えば、あなたが彼女と都内でデートをした帰り道に「ラーメン食べて帰ろうか」という話になったとします。

その時にスマホを使って、東京都内のすべてのラーメン屋さんを完全に調べ上げて、最も彼女が喜びそうな店に連れて行くということはないでしょう
。おそらく、アタマの中で思いついた都内にある限定的ないくつかのラーメン屋を思い浮かべ、連れて行くことになるのではないでしょうか。

要するに、我々は認知の限界があるため、都内すべてのラーメン屋を知り得ず(限定的)、彼女をどこのラーメン屋に連れて行くか(意思決定)は限られた情報のなかで判断せざるを得ないのです。

上記の話に関連して、我々はなぜ、日々の仕事で会議をするのでしょうか。

情報共有や意思決定など会議にはそれぞれあると思うのですが、突き詰めれば「1人で考えるよりみんなで集まった方が良い案が出る」と言えます。ひとりで限られた情報に基づいて判断するよりも、数人が集まって情報を持ち寄って考えるということは、言い換えれば、会議を行うことで限定合理性からの解放されるのだとも言えるでしょう。

取引コストを考える

しかし、“限られた情報のなかで出来る限り合理的に行動する”ということは、場合によっては、「ある案と別の案を考慮した結果、動かない方がいいという選択を合理的におこなってしまう」ということに繋がります。

例えば、食品会社が食中毒事件を起こすとします。その際、会社は「問題を公表するコスト」と「取引先に迷惑をかけて今まで築いた信頼を失うコスト」を比較した結果、「組織的に隠蔽する」という結論へと合理的に至ることがあるのです。

このように、取引コスト理論とは、人は限定合理性に基づき利己的な利益を追求するという前提に立つのです。その上で、今までかけたコストを考慮して、それを無駄にしたくないという心理が働くと言われています。

エージェンシー問題を考える

さて、エージェンシー問題について考えてみましょう。この考え方の下では、あらゆる人間関係をプリンシパル(依頼人)⇆エージェント(代理人)に分けます。例えば、先ほどの書籍では以下のような具体例が挙げられています。

患者(プリンシパル)が歯科医師(エージェント)にたんなる口内炎なのに「あなたは歯周病だ」と診断されて、二〇回分の診察料を払わされるケースもまたモラル・ハザードと呼びうる現象です。これも患者と歯科医の利害が不一致で、情報が非対称的であるために起こる現象なのです。(―以上、本文より引用)

このように、プリンシパルは限定合理的なので、エージェントの行為を全て管理しきれないのです。したがって、エージェントはプリンシパルを出し抜こうとします。

話が横道にそれますが、上記の文章で、“情報が非対称”という言葉が出てきました。ここで、下記の問題を見てみましょう。

京都大学(H28年度)で以下の出題があります。

「企業統治」(corporate governance)の諸課題とその解決の議論において、いかに列記する用語がしばしば見受けられる。これらの用語の意味を、企業統治の有効性との関係に焦点を当てて、説明しなさい。
問1)情報の非対称性(asymmetric information)とエージェンシー問題(agency problems)

情報の非対称性を「取引の当事者間に情報格差があり、情報が均一に分布していないこと」と定義します。

そこで、エージェンシー問題の発生原因を、
依頼人と代理人の間に生じる
原因1.利害の相違
原因2.情報の非対称性

上記で考えると、京都大学の問1は答えを書くことができます。

ところで、“情報格差があって、利害関係が一致していない”というのは、入試を読み解くだけの問題なのでしょうか。

例えば、カルロス・ゴーン逮捕で焦点となった“経営者による企業の私物化”はどうでしょう。

新聞や経済誌では、ゴーン逮捕の問題は以下の3つに絞っており

・有価証券報告書に報酬額を減額して掲載
・投資資金の私的流用
・私的目的での経費支出

が問題になっていますが、彼が日産の株式を40%以上保有し、ほとんど「オーナー経営者」であった点も注目すべきでしょう。

この際、プリンシパル(株主)とエージェント(経営者カルロスゴーン)と考えることができ、株主とゴーン氏は必ずしも利害が一致せず、またゴーン氏と周囲で情報に非対称性があったと言えるのではないでしょうか。

さて、長々と書いてきたので続きは次回にしましょう。

では、また。

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