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今日、帰る家がない10代の少女たち。 虐待や生活困窮のなかで「助けて」と言えない声を拾いたい

渋谷の街をさまよっていた頃

「どこにも居場所がない」――10代の頃、ずっとそう感じていたと話すのは、一般社団法人Colaboの代表・仁藤夢乃さん。

当時は家族の仲がわるく、学校の教員ともうまくいかず、ほぼ毎日のように渋谷の街をさまよっていた。どこにも居場所や希望が見つけられず、まわりは同じような境遇の友達ばかり。ビルの屋上に段ボールを敷いて「うちら、ホームレスじゃね?」と言いながら寝たこともあった。

いまも夜の渋谷や新宿を歩けば、同じように行き場のない10代の少女たちと出会う。周りからは自由に遊んでいるように映るかもしれないが、心のうちに抱えているものは目に見えない。

「ずっと『大人はわかってくれない』と思っていました。それは、向き合ってくれる大人がいなかったということ。見守る大人がいない状態で生活をしていると、危険に取り込まれやすいんですよね。Colaboの活動を始めてからも、未成年への性売買のあっせん、リスクの高い違法の仕事、暴力、予期せぬ妊娠や中絶など、目をつぶりたくなるような現実を見てきました。日本はとくに若い女性を狙った性的搾取が本当に深刻です」

家にも学校にもいられなかった10代の頃(写真提供:一般社団法人Colabo)

仁藤さん自身は高校を中退後、高卒認定試験を受けるために通った予備校で信頼できる大人との忘れられない出会いがあった。それがきっかけで大学に進学。外の世界を知って変わっていくことができたという。

「だから、いま私がかかわっている少女たちにも、安心していられる居場所やいろいろな大人と出会うきっかけをつくっていきたい」

「今度、ごはん食べにおいでよ」

2011年、仁藤さんは中高生世代の少女たちをサポートする団体Colaboを設立。夜の街をさまよう子に声をかけたり、SNSを通じて相談に乗ったりしているほか、定期的に「ごはん会」を開いて一緒に食卓を囲んで話す機会も大切にしている。

Colaboが受ける相談で多い内容は、家族からの身体的・精神的虐待や暴力、性的虐待や生活困窮など家庭のこと。その次が、性被害や性売買など性にかかわるものだ。給食費や修学旅行費が払えない、虐待で家にいられないなどの理由から性売買にかかわる少女もいて、複合的な困難を抱えている。渋谷や新宿の街では、そうした10代を狙って声をかける性産業のスカウトがあちこちにいるのだ。

「誰でもそうだと思いますが、とくに中高生にとっては『相談する』ってすごくハードルが高い。相談窓口で待っていても出会えません。頑張ってSOSを出しても支援機関で不適切な対応をされたとか、大人に裏切られて不信感をもっている子も多いんです。だから、私たちは夜の街を歩いて連絡先を渡し、『今度ごはん食べにおいでよ』という感じで声をかけています。一緒にごはんを食べたり、話したりして関係を築いていくなかで、『この人だったら話してもいいかな』と思ってもらえることを大事にしています」

少女を取り巻く現状を身近な大人に知ってもらうための「夜の街歩きスタディツアー」も開催(写真提供:一般社団法人Colabo)

活動を始めた当初は、行き場がない少女を仁藤さんの自宅に泊めることもあったという。「今日、帰る家がない」「安心できる場所で少し休みたい」。そんな少女たちが必要なときに行ける場所をつくりたいと、2015年夏に寄付を募って一時シェルターを開所。本当は誰もが気軽に使えるオープンな場所にしたいと考えていたが、性虐待の加害者や売春あっせん業者が探しに来ることもあったため、場所は非公開にしている。

「一時シェルターには虐待や性暴力から逃れてきた子もいますし、見知らぬ人の家を転々としている子とか、『今日はママの彼氏が来るから家にいられない』『家の電気やガスが止められている間だけ泊りたい』といった利用もあります。Wi-Fiが使えるので携帯をいじって数時間を過ごすだけの子もいる。自分の家ではのんびりと過ごすことができないからです」

ある少女は、新しい彼氏と暮らす母親からのネグレクトが続き、「帰宅したら自分の荷物が全部ごみ袋にいれられて外に出されていた」とColaboに連絡をしてきた。以前は児童相談所に保護されていたが18歳になって施設を出ることになり、自宅に戻ってしばらく経ったときだったという。結局、一時シェルターを利用して身体を休めたあと、Colaboのサポートを受けて自宅を出ることを決めた。

家にも、公的施設にも行き場がない

「ママの彼氏に殴られたとか、家族がお酒を飲んで暴れているとか、保護を受けたほうがいいと思われる状況の子もいます。でも、児童相談所の一時保護所でイヤな思いをした経験があって抵抗を感じていることも多い。まだ家を出る決心がつかないとか、危ない彼氏と別れることができなくて心が揺れているときも、その子の気持ちを尊重しながら寄り添います」

一時シェルターを利用後に、新しい里親のもとでの生活を始めたり、自立援助ホームに入所したり、一人暮らしを始めた子たちもいる。Colaboでは必要に応じて、弁護士や医師、児童福祉の専門家と連携し、安心・安全な場所で生活できる方法を一緒に考えるが、シェルターを出たあとに受け入れてくれる公的施設が見つからないことも多い。そこで、2016年からは中長期シェルターとして、自立支援シェアハウスもスタートさせた。

20歳前後の女性を対象にした「自立支援シェアハウス」は各3部屋で2つある。(写真提供:一般社団法人Colabo)

「18、19歳だと自分でアパートの賃貸契約をすることもできないし、そもそも敷金・礼金などの初期費用が非常に高い。本当は、自立援助ホームや婦人保護施設などが利用できるといいのですが、手続きにすごく時間がかかったり、ルールが厳しすぎたり、ケアが必要な子ほど利用できないのが現状です。Colaboの自立支援シェアハウスは3カ月間まで家賃が無料(それ以降は月3万円~)なので、ここに住んでいる間に自立のための貯金ができます」

しかし、一時シェルターも中長期シェルターも、まだまだ数が足りていないのが現状だ。

Colaboでは、ほかにも就労支援として、面接の練習や履歴書の書き方講座の開催、就労体験や職場見学の機会づくりなども行っている。協力してくれる企業と連携することで2017年度は11人が就労に至ることができた。

「本当は、傷ついているんじゃないの?」

2018年10月からは、「Tsubomi Cafe」という新しい取り組みも始まっている。毎月第1・3水曜日は歌舞伎町に近い新宿区役所前で、第2・4水曜日は渋谷区内で、夕方から夜11時までピンク色のバスを停めて、10代女性限定で食事やお菓子、化粧品、日用品などを無料で提供する。食事はボランティアさんによる手作り。お菓子や日用品などは寄付で集めたものだ。

バスのピンクはColaboとつながった女の子たちが考えて決めた色。明るい雰囲気で「支援らしさ」はない(写真提供:一般社団法人Colabo)

「夜の街で女の子たちに話しかけても、やっぱり警戒されてしまうんですよね。Tsubomi Cafeなら、『ここに来たら、タダ飯が食べられるよ!』というノリで声をかけられますし、半屋外なので女の子も安心して来られます。Colaboへの相談件数自体は増加しているのですが、まだ『助けて』と言えない状態にある子たちと出会う機会をつくりたくて始めました」

バスの外にはテントを張り、可愛いライトを置いたテーブルが並ぶカフェスペースになる。携帯電話の充電ができWi-Fiも使用可能だ。バスの車内には寄付の衣類、化粧品や靴下などの日用品も揃っていた。なかでも人気があるのは生理用品とコンドームで、生理用品が買えずに、おばあちゃんのオムツで代用していた少女もいたという。

「虐待相談とか書いてあると親に見られたときに困るから」と仁藤さん。裏面を鏡にして連絡先を持ち歩いてもらえるように工夫した

「バスに来てくれる子のなかには家族からの虐待や性的搾取の被害に遭っている子も多い。『家とか学校、オトコのことでも、困っていることがあれば何でも聞くし、あとでLINEをくれてもいいよ』と伝えていますが、別に無理に話さなくてもいい。定期的に顔を合わせることで、関係をつくっていきたいと思っています」

Tsubomi Cafeに来た当初は「家に帰りたくないから、オトコのところを泊まり歩くしかないんだよね。そういうのも全然傷つかなくなったし。あははは」と割り切ったように話していた少女が、心を許してくるようになると「本当は傷ついているんじゃないの?」という言葉に、目をうるませるという。

「性被害に遭っても、親にも友達にも話せないんですよね。私たちのような外の人間だから打ち明けられるということもある。半年以上密にかかわって、ようやく被害のことを話してくれるということもあります。頼ってもらうには、それだけ長い時間が必要なんです」

「Tsubomi Cafe」に来た少女たちが残してくれたメッセージ

一緒に泣き、笑い、怒る伴走者でありたい

Tsubomi Cafeの活動のなかでも、今日、行く場所がないという少女に出会うことがある。

「時間帯とか本人の精神状態によっては私たちの一時シェルターに連れていくのが難しいこともあります。また、売春あっせん業者などに追われている場合には、人目のあるホテルのほうが安全だったりもするので、そういうときには止む無くホテルに泊ってもらうんです」

こうしたホテルでの緊急宿泊支援は、頻繁ではないものの定期的にあるという。都内はどんどん宿泊費が高くなっていることもあり、団体の経済的負担は少なくない。今回の東京アンブレラ基金への参加には、相談に来た少女たちが心身を休める場所がない現状を、もっと多くの人に一緒に考えてほしいという気持ちがあったと仁藤さんは話す。

街をさまよう少女に「うちなら泊れるよ」「ここにいると補導されちゃうよ」と声をかけるのは、彼女たちを利用しようとする大人だけだ。「本当は、JKビジネスの店舗数と同じくらい中高生を支援する団体ができて、スカウトではなく寄り添ってくれる大人が声をかけてくれればいいのに」と歯がゆい思いは消えない。中学生のときに仁藤さんに街で声をかけられた少女が、高校生になってから相談をくれることもあり、長く活動を続けていくことの必要性を感じている。

「彼女たちの一番の困りごとは『助けて』と言えないこと。落ち着いて考えられる環境や、一緒に考えてくれる人との信頼関係があって、ようやく初めて自分の状況に向き合うことができるんです。Colaboのコンセプトは支援団体ではなく当事者運動。支援する・されるという関係ではなくて、一緒に泣き、笑い、怒り、長い目で伴走していける相手でありたいと思っています」



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【写真】馬場加奈子 【写真提供】一般社団法人Colabo
【取材・執筆】 中村未絵:出版社、NPOでの勤務を経て、現在はフリーランスで編集・取材・ライティングを行う。

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