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多羽(オオバ)くんへの手紙 ─4─

貴代キヨ先生が教室にいることはほぼ無かったが、昼休みにはウチのクラスに戻ってきていた。
仲良し数人で集まってお昼を食べるグループがいくつもあり、貴代キヨ先生は日替わりでそれらのグループを巡っていた。
今日は私たちのグループへとやって来た。
リンと私、他2人の4人グループの番だ。

「上村さんやんな?ウチの近所の」
貴代キヨ先生が複数の地雷を踏みながらにこやかにおリンに話し掛けた。
私は気が気ではなかったが、本人から聞いてもいないことを説明することもできず黙っていた。
「引っ越してん。今は小牧やで。」
リンはサラッと答えた。
そういう子だった。周りが気にしすぎていただけで「親が離婚して…お母さんが再婚して…云々」というような湿気など、そもそもなかったのである。
「あら、そうやったん。」
貴代キヨ先生も察したのかそういう気質なのかサラッと流し、私がホッと胸をなでおろしたその時だった。
「この子、多羽のこと好きやねんて。」
私の肩をポンポンしながらお鈴が言った。
全然興味なさそうだったのに何故今なんだろう?
「ありゃ!そうなん!弟に言うとくわな。」
この人たち善意のフリして面白がってるなと思ったが、驚き過ぎると心が凪になるようだ。
「言わんでいいよ」
そう言うのがやっとだった。

✳✳✳

ほとんどおリンだろうが、噂はあっという間に広がった。
多羽とは関係なく元々私は野球が好きで、同じクラスの野球部の湯浅を「ライパチ」と呼んでいた。ライパチというのは「守備はライトで打順8番の期待されていない人」という侮蔑的な意味あいがあった。
そのライパチが今までのお返しとばかりに「今日、多羽試合出るで」とニヤニヤしながら教えてくれた。

「ダブルウィング頑張れよ」などとも言われた。ダブルウィングって何だろう?
羽か。多羽と羽田。上手いこと言うなぁと感心したものだ。

✳✳✳

今なら「ライトは肩の強い人しか出来ない大事なところなんだよ」とライパチに言えただろう。

5に続く…


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