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「想念というもの」

「想念というもの」

私は様々な人物達と話すときに「魂の遠近法」を用いる。
相手の意識状態、心的状態に即し即さずに、というある種の心的裏技である。
この方法は相手を瞬時に見抜くという洞察力がなければ出来ない。

ある日、私の若い友人が尋常ではない異様な殺気を放っていた。

眼差しの奥に強い憎悪が宿っていた。その理由を聞き出すために彼をファミレスに誘った。
このような時には淡々と話す必要がある。
「何かあったの?」

彼は初めは黙っていたが、思いつめた表情で語り始めた。
「親父を殺そうと思ってます」

私は過去にこのような状況に陥った友人を何人か知っていた。

彼が言うには父親が浮気をしていると。過去に何度かあったそうである。しかし、今回は母親がかなり苦しんでいる。故に、今度ばかりはどうしても許し難い、と。

私は彼から母親は病弱だと聞いていた。

私は彼に言った「そうか、それなら殺すといいよ」

彼は私の言ったことに少し怪訝な面持ちをした。

「その後、君も死ぬんだよ。但し、君が死ぬ前に母親も殺す事。何故か、自分の子供が父親を殺したら母親がどれだけ苦しみ、悲しむか。それをよく考えてみるといい。それでも良ければ殺していいんじゃない」

彼は額に血管を浮き上がらせ、暫く俯いて考えていた。恐らく、私が言った情景をリアルにイメージしていたのだろう。

数分後、彼の全身から憑き物が落ちたように殺気が消えた。

後日、彼から実家に帰ったら父の様子が変わっていた、と。
彼の凄まじい想念が彼の父に飛んだのであろう。彼の父がある日を境に、母親に対して急に優しくなった、というのである。

凄まじい想念は眼前に居なくとも相手に伝わる。日常でも、時空を超えてあらゆる想念、情念は飛び交っている。

己自身の想念も然り。我々は、日々、努々気を付けるべき事である。



*彼の肖像


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