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【妊娠中の胎児発生解説note】⑤妊婦の体内には孫の細胞が! 生殖細胞のはるかな物語

 とんでもないことに気づいてしまった……。私の体の中に、孫になる細胞あるやん!!! 胎児が男の子であれば精子になる細胞、女の子であれば卵子になる細胞が既に作られています。お腹にいる赤ちゃんが生まれて、大人になって、いつかパートナーと出会ったら、孫をつくることになる細胞。今私の中に3世代の細胞がいると思うと感慨深い……! 
 今回の記事では、胎児の中で起こっている孫の細胞作り、つまり精子や卵子になる細胞の発生過程を解説します。

●妊婦の体内には孫の片割れの細胞がある

 筆者は本記事執筆時点で妊娠8ヶ月の妊婦です。自分の体内に別の生命体(子)がいるというだけで驚きなのに、さらに別の生命体(孫)になる細胞がいると思うと衝撃です。

図1 母-子-孫 三位一体

 孫になる細胞は、受精後1-2ヶ月の早い段階でできています。この時点ではまだ精子や卵子ではなく、始原生殖細胞と呼ばれます。精巣や卵巣のもとは、デフォルトでは卵巣になるようにできており、男の子が持つY染色体があると精巣になる仕組みになっています。始原生殖細胞が精巣/卵巣のもとに入ると、将来精子/卵子になることが決まります。
 受精後1-2ヶ月の妊娠初期はまだ子(胎児)が順調に成長するかはっきりしない、妊婦やパートナーにとって不安の大きい時期ですが、その頃に孫の細胞が作られ始めているのですね。

図2 精巣/卵巣のもと、精子/卵子のもとのできかた

 始原生殖細胞が精子/卵子になると決まると、減数分裂を開始します。通常の細胞分裂とは異なり、常染色体1セット(22本)と性染色体1つ(X or Y)を持つように分裂します。

図3 減数分裂


●Y染色体は「子を男にする」役割しかない

 私たちの全ての細胞は、常染色体22対(44本)と性染色体1対(男性ならXY、女性ならXX)を持っています。

図4 正常男性の染色体(図中の枠及び文字は筆者記載)
出所)Qlife, 染色体の数・構造, https://www.qlife.jp/dictionary/item/i_300526000/

 男女とも必ずX染色体を持っており、X染色体には常染色体と同じように生きる上で重要な遺伝子が1,000個程度乗っています。つまり男女ともX染色体は全身の細胞でしっかり働いています
 一方で、Y染色体は男性にしかないので、生命維持に必須な遺伝子などは乗っておらず、男性になる性決定に必要な遺伝子Sryくらいしか乗っていません。Y染色体があるから男性ができ、生物学的男女の区別ができているので大事といえば大事ですが、サイズも小さいしほとんど遺伝子乗ってないし、他の染色体に比べたら貧弱だなと思いますw 

 Sry遺伝子さえあれば男性になるので、Y染色体以外の染色体にSry遺伝子が移ってしまえば、Y染色体の存在意義はなくなります。実際に遺伝子組み換えで別の染色体にSry遺伝子を入れると、たとえXXの個体であっても男になることが分かっています。ヒトの先天性疾患でも、Sry遺伝子に変異がありXYなのに女性として発育しているケースもあります(アンドロジェン不応症候群)。

●X染色体は他の染色体の2倍頑張っている

 X染色体には常染色体と同じように生命維持に重要な遺伝子が乗っています。常染色体に乗っている遺伝子は父由来、母由来と2つありますが、男性の場合X染色体は1つしかないので、常染色体と同じレベルで働かせようとするとX染色体を2倍活性化する必要があります。X染色体にはきちんと調節する仕組みが整っていて、本当に2倍活性化しているようです。
 女性はX染色体を2本持っているから問題ないように思いますが、不思議なことに「(女性の場合)片方のX染色体を働かないようにして、もう片方のX染色体を2倍頑張らせている」ようです。父由来、母由来どちらのX染色体が不活性化するかは細胞によってバラバラのようです。男性に受け継がれるX染色体と揃えるためなのかわかりませんが、X染色体だけが持つ特別な仕組みですね。

出所)ASHBi WPI Kyoto University, 霊長類におけるX染色体遺伝子量補正プログラムを解明, 2021年11月19日, https://ashbi.kyoto-u.ac.jp/ja/news/20211119_research-result_saitou/

●私たちは遺伝子の乗り物にすぎない

 リチャード・ドーキンス著『利己的な遺伝子』という本で、私たちヒトは遺伝子の乗り物にすぎず、遺伝子が生き残るため様々な進化を遂げ、ヒトのあらゆる行動につながっているのだと言われています。
 今回、妊婦の体内に3世代の細胞があることを思い出し、私たちは遺伝子の乗り物にすぎないのだなぁ、と気づきました。無事出産し、新しい生命を外界に出すことができれば、一応遺伝子の乗り物として最低限の役割は完了です。でもヒトの赤ちゃんはとても未熟なので、パートナーや家族、社会の人々と協力しながら子が一人のヒトとして自立できるように育てるまでが、遺伝子の乗り物としてのヒトの役割なのだと思います。
 私の場合は胎児が男の子と言われているので、胎児が持つ精子のもとの細胞から将来精子が作られて、いつか受精して孫になるところまで育てるよう遺伝子にプログラムされているのかもしれません。もちろん私の子がどのように生きたいかは全くわからないし、結婚しない子どもほしくないならそれでいいと思いますが、生物種としてのヒトは遺伝子を残そうと振る舞うのだなと思います。

図5 ヒトが遺伝子の乗り物であるイメージ図


 今回は妊婦の中に3世代の細胞がある状況と、性染色体の興味深い特徴について解説しました。
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《終わり》

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