蝉が鳴いて夏


 蝉が鳴いて夏

と 何度も書いてきた

一年だけ

蝉が鳴かない夏があった

僕の夏は

何処で迷ったのか

友だちには蝉は鳴いているよ

と 言われたが

原発神話が崩壊した年

耳の中が

静まり返っていた

雨戸があれば雨戸を閉め

部屋中のカーテンも

閉め切って

放射能の知識のない地層は

三月の霙を

抱き抱えたままだった

寡黙なものは寡黙へと

急いでいたときだ

ガソリン給油ホースへと

車の縦列が続いていた

車道を 蟻の群れが

夏に向かって

ゆっくりと歩いていた

その姿が 

朦朧としながら

視野の中で

大きくなっていって

夏に入ったが

まだ蝉は鳴かなかった

あの夏は

何処で迷ったのだろう

答えを見えだせないまま

12年が過ぎた

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