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詩集

59
これから追加されるとしたらすべて新作です。
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#愛

普通の人生

百年前 ぼくがいなかったように君もいなかった 百年後 ぼくはいなくなっていておそらく君もいない ぼくたちはたった百年の間の しかも二人でいられるたった数十年を一緒に過ごし たった数十年のうちのたった数年間を 愛し合う時間に使った ぼくたちはおそらく歴史には残らない もう死んでしまった昔の人と言われて一括りにされ 名もなき人の中に混ざり合って最後は消えていく それでいい それが普通の人生 百年後に何も残さない 人々の記憶に長く名前を覚えてもらうことをせず 生きてきた証

悪いことを考えよう

悪いことを考えよう 今から悪いことを考えようよ ぼくも考えるから君も ぼくはまず君が死ぬことを考えたよ 次に君と離れ離れになること 君とおしゃべりができなくなることを考えたよ 次に君が悲しんでいることを考えたよ 君がぽろぽろと涙をこぼして ぼくの目の前から去ってしまうことを考えたよ 次にケータイをなくすことを考えたよ 一日中君と連絡がつかなくて 深い孤独に突き落とされることを考えたよ 次にぼくの記憶が全部なくなることを考えたよ 自分が誰なのか分からなくて 誰に会っても

ファミレス

深夜10時のファミレスでぼくは彼女に 「昨日、線路から猫の声が聞こえてね」 というどうでもいい話をしていた 柵に近付いて見てみたら線路の真ん中に仔猫がいたんだよ 枕木と枕木の間に蹲って鳴いていたんだ 柵を登ろうと足を掛けたよ遮断機が下りる音がしたって構わない 助けてあげようと思ったんだだって俺しかいないから 彼女は辛抱強くぼくの話を聞いていた ぼくが正面から向き合ってくれることをこのときはまだ信じて 深夜11時のファミレスでぼくは彼女に 「この間、国道を亀が横断していてね」

交流

ぼくが放った言葉をあなたが受け止め 嫌な感じがまるでない言葉になってあなたからぼくに戻ってきたら それが「交流」の1サイクル あなたから貰った言葉にぼくが親愛の気持ちを ちょっとだけ込めて返したときあなたに笑顔が生まれたら それが「交流」の2サイクル ぼくはどうしようもなく照れてそれでもあなたの手を握りたくて 勇気を出して握ったらあなたも一瞬強く握り返してくれる それが「交流」の3サイクル 言葉も気持ちも行きっぱなしではだめで一方的でも意味がなくて 行ったらあなたから返