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詩集

59
これから追加されるとしたらすべて新作です。
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#失恋

散り落ちた桜の下で決めたこと

ぼくは歳をとってしまったのかな 目に映る珍しいものよりも 思い出の方を美しく感じてしまう 恋がどんなものだったかわからない 好きって気持ちは様々にあるものだから けれどもぼくの心に 君の形が焼き付いたのは覚えているんだ さようならって言葉は残酷だな 次の約束なんてないのに 思い出を更新できるとまだ信じている 昨夜の雨で散った桜の下を歩く ぬかるみに落ちた花びらを避けて 隙間だらけになった桜の枝を眺めて 昨日の別れ話が信じられないぼくは 昨日の別れ話が信じられないぼくは

一人で歩いている

枝ばかりになった冬の街路を あまり暖かくないコートと いい加減に巻いたマフラーをはためかせて 一人で歩いている 柄にもなく 思い詰めた顔で ぼくは軽口ばかり叩いていたから いつしか本当の自分を見せられなくなっていた 挨拶がわりにからかうことを言うと それにいちいち応酬してくれる君が好きだった 堀割に浮かぶ二羽の鴨を眺め もう取り戻せない日々を思い 永遠に君と一緒になれないことを悔いて 一人で歩いている ブーツの紐が 解けているのも構わずに 容姿をからかったこともあった

純化

片思いだった初恋の人が夢に出てきて ぼくと何だかいい雰囲気になっている 会話なんかも順調で二人ともずっと笑顔で 未来には恐れるものは何もなくて この瞬間が幸福の絶頂で ぼくは目の前にあるこの恋を 大事に大きく育てていくだけだった 実際には 何一つまともにしゃべることができなくて 寂しそうな目でじゃあと手を振られて それを見送ったのが最後 詩は降りてくる 夢が届けてくれた儚い想いは 成就した幻という罪でぼくを惑わす 二人の背景は芳醇な花に満たされ 光でできた道を繋いだ手に託

ともしびを放す

シャツの胸ポケットに蛍が一匹 偶然に迷い込んでいた ぼくにもたらされた小さなともしびは 不意に切ない感情を呼び寄せた 橋にもたれて水の匂いを吸い込む 暗い闇のほとりに蛍が飛び交い 恋人を探し求めてる ぼくのポケットには小さなともしびが はぐれたようにぽつんと残されて 強く光って恋の炎を燃やしていた 孤独には慣れている これまでもぼくは一人で生きてきたから 君の優しさを忘れよう 君の思い出に痛みを混ぜたままにして 恋愛は難しい こんなにも好きが苦しいものとは知らず ぼくは

ひつじ雲

空を埋めて走る白い羊の群れ 頭の先に茜色が差しているのを見て胸がいっぱいになった 自転車ごとぼくは転がり落ちたようで 大の字になって眺めていたのは土手の斜面から見えたそんな景色 好きな子に告白して真っ直ぐにはっきりと断られた今日という日に とても似合いのフィナーレだなこれは それから何年かして大人になったぼくはまた恋をして また同じように粉砕されて夕暮れの直線道路を車で走っていた 失恋して泣いているときに空に浮かんでいるのは どうしていつもひつじ雲なんだろう茜色まで差