Shell Lover #習作
その街には不釣り合いなほどにひどく清潔な良いイタリアンバルの、小さなボックス席に僕らはいた。
「君は"エス・エフ・シー"、なんだね」。
彼女はまるで、自分自身の出自を確認するかのようにゆっくりと発音した。切り揃えられたショートヘアの下に伸びた白い首筋がゆっくりと上下している。僕は彼女の形のいい鼻に目線を移した。
「そうだったかもしれないし、そうでなかったかもしれない」。
僕はそう言って、スコッチを傾けた。彼女と向き合ってから、喉ばかりが渇いていて、思考することが難しくなっているようにも思えた。
「そして、君は弁護士でもある」。
彼女は僕の答えを期待していないように見えた。両腕につけている小粒な貝殻が連なっているブレスレットは僕の好みで、今夜も僕が触れるであろう彼女の小さな女性器を想像させた。
「少し前まではね」
「今は何をしているの?」
「何もしていないよ。毎日熱いブラックコーヒーを自分で淹れて、本を読んでいるだけ」
「私のこと、からかっているみたい」
彼女はわざとらしく苛立っているような声を出したが、コブサラダをほおばる頬は穏やかに緩んでいた。
「からかってはいない。僕はいつだって、君には本当のことしか言わない。正直なところ僕自身が戸惑っているんだ。この毎日を生活、と呼んでいいのかということについて」
「私には、生活だと思えるわ。君自身がそのことについて考えている限りは」
「一体君は、どんな生活をしているの」
僕の問いかけに彼女は満足したように見えた。昔から、僕は彼女のほしいものを、適切な量で、適切なタイミングで与えている。それが少しでも遅れると彼女は不機嫌になる。射精しても出てこない精液のように。
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